それは突然やってくる。
「英語を勉強する」
今年の目標のひとつ、というよりもわりと長いこと掲げているけど上達する気配を全く感じさせないもののひとつ、と言った方が正しい。パン屋を始めたフランス人のステファンにロゼッタストーンという英語の学習アプリを勧められ、昔付き合った中国人の彼女はそれでフランス語を三ヶ月で喋れるようになったと聞いた。そこで私も意気込んで始めたものの、習熟度レベルは1のまま今でも止まっている。私にもpower of loveさえあれば…と心の中で言い訳をしながら。
ヒバリにはゲストハウスもあるから英語を使う機会はもちろんあって、その度私は冷や汗かいてきたけど、最近は日本語で強引に会話を成り立たせる図々しさも備わってきた。(その度、Perfect!とかExcellent!っ言ってくれるけど、これが慰めの言葉だっていうのも気づいてる。)そして、英語が流暢なさっちゃんやくるみちゃんがいると心底安心しきってしまう私がいる。
だけど、いつまでもそんなこと言ってる場合でもない。やっぱり英語が話せた方がいいに決まってるし、というか英語さえできれば、一気に色んな人とのコミュニケーションがたやすくなる。その当たり前の事実を最近になってようやく実感するようになったのだ。
この間だって私はとても悔しい思いをした。チェックインにアジアのおじさんが来た時のこと。ゲストハウスの増田くんが他のお客さんを案内している間、おじさんはカウンター越しの私にお惣菜がたくさん入ったレジ袋を見せつけて「Hot!」みたいなことを言ってきた。ああレンジねと、すぐに理解はしたけれど2Fにあるレンジをなんと説明すべきかわからない。「2nd floor」に続く気の利いた一言を見つけられなかった私は、「大丈夫!オーケーオーケー!」って超絶スマイルとジェスチャーでごまかしてしまう。おじさんには伝わっただろうか、とてもおぼろげな安心感と大きな不安が入り混じったような表情をしたおじさんはカウンターの奥へ引っ込んだ。そしてその瞬間、私は思い出す。we have a kitchen!たったこれだけの一文に、おじさんの不安を全て解消できる要素が詰まっていたのだ。言いたい・・・、we have a kitchen って言いたい!
だけど突然、we have a kitchen の宣言をしても、おじさんの不安を助長させてしまうだけではないのか、なんて思えば思うほど、口に出せずにもごもごしてしまう。あーあ、私が英語ペラペラだったら、こんなことわざわざ悩まなくてすむのにな。そうやって悩んでるうちに増田くんがおじさんの案内を始めた。次の機会があったら、we have a kitchen てちゃんと言おう。こうやって地道すぎるくらいにちまちま自分の引き出しを増やそう、と反省してると、増田くんもおじさんから同じようにレジ袋を見せつけられている。あ!と私が思うより先に増田くんはニコッとして「オーケーオーケー!」と2Fを指差した。ちがーう!増田くん、それ、we have a kitchen だよ!さあ、言って!ああ〜、we have a kitchen って言いたい!!はー、おじさん、不甲斐ない二人でごめんね。でもちゃんと2Fにいったら電子レンジあるから安心してね。私は言いたくてたまらなかった we have a kitchen を心に留め、今年の目標は「英語を勉強する」にしようと思った。
英語は瞬発力が命、実は日々思い知ってるよ。今年こそは、ロゼッタストーンも起動して、照れずに発音もして、もうあんな風に困らせないようにしよう。
「サウダーヂな夜」という変わったカフェバーで創刊された「週刊私自身」がいつの間にか私の代名詞。岡山でひっそりといつも自分のことばかり書いてます。