再会。もう母と子には戻れなかった。二度目のキスは確信に。

大学一年の年末12月31日。
仙台から盛岡行きの新幹線、そこから更に在来線に乗り換え地元の駅へ向かう。

帰ることを決めるまでは思い悩んだものの、実際に帰途につくと私の気持ちは踊りました。
一人暮らしを始めてから1年経っていないのにそれ以上に懐かしく感じる故郷。
そして久しぶりに会える母。

駅から自宅までは少し距離があるので母が車で迎えに来ているはず。
どんな顔をして会えば良いのか、少しの緊張を感じながら改札を出ると満面の笑顔の母が手を振っていました。

「なんか少し大人になったかなー?笑」
冗談で出迎える母。

私と久しぶりに会って母は泣いてしまうのではないか。そんな心配が嘘のように明るい母でした。
私が実家を出るまでの不安定な母ではなく震災前の元の明るい母に戻ったように。

「お母さん、元気そうじゃん?」
「渉が向こうで頑張ってるからお母さんも負けてらんない。」
笑顔で交わす自然な会話。私と母の雰囲気がおかしくなる前の本当に久しぶりの親子の空気を感じるとともに、
笑っている母の笑顔は綺麗だなと少しだけ誇らしい気持ちになりました。

寂しかったけれど仙台に行ったことは良かったのかも知れない。
父をはじめ失った家族は戻らないけれど、母とは前のように仲の良い普通の親子に戻れたのだから。
私達は一緒に夕食の買い物をし、近況を楽しく話しながら家路についた。

家に帰り祖父母と父の仏壇にも挨拶を済ませ、2人でご飯を食べながらテレビを見る。
年末の実家で過ごすとても落ち着いた時間でした

母がお風呂に行って一人になり居間を見回すと自分が居た頃より整然と整頓された部屋の中が少しだけ寂しく感じました。

母と入れ替わりに私もお風呂に入り、その後は一応年明けまで起きてようかと2人でテレビを見ていました。
やがて時計の針は12時を回りテレビからも年始の挨拶が聞こえてくる。

「「あけましておめでとう」」
私と母も年始の挨拶を交わし、なんとなくそれが可笑しくて2人で笑い合いました。

「久しぶりに会う渉がしっかりやってるみたいで安心したよ。」
なんだか改まって母が言いました。

「俺もお母さんが元気で本当に安心した。色々・・ちょっと心配だったから。」
「お母さんは年取らないように気を張って頑張ってるんだから!笑」
冗談が言えるぐらいなら本当に大丈夫なんだなと安心していると、
母は少し言いずらそうに申し訳なさそうに言葉と続けました。

「お父さん達が亡くなってから・・頑張らないとって思ってるのに気を抜くと折れそうになってしまって。渉には本当に迷惑かけてごめんね。」
「そんなことないから大丈夫だよ。お母さんが頑張ってくれたからちゃんと大学にも入れたし。ありがとうしかないよ。」
母の辛さや重圧は私などとは比べ物にならない負担だったと思います。
嘘や慰めではなく本当に感謝しかありません。

私の言葉にありがとねというように微笑むと母はまた、言いずらそうに伏し目がちな様子で口を開きました。

「渉が仙台に行ってからね、最初は一人でやっぱり寂しかったんだけど。一人の生活が当たり前になっていくにつれてね、色々現実を受け入れないとって気になれたの。時間はかかったけど、お母さんもう大丈夫だからね。」
「ずっと謝らないといけないと思ってたの。渉が仙台に行く前の夜、お母さん寂しいのに耐えられなくて。あんなことしてごめんね。」

仙台へ旅立つ前の夜、母と何度もキスした夜。
そのことを母が口にしたことであの夜が脳裏に蘇ってくる。
母が謝ることじゃない。どちらかと言えば私から母の唇を求めてしまった。

「いや、俺からしちゃったし・・・。お母さんとキスして、、なんか良かったから大丈夫(笑)」
少し動揺して上手く言葉が出ず笑って誤魔化す。母も察したようで、
「そっか、お母さんも年頃の息子とキス出来て良かった!お母さんの唇、本当は高いんだからね(笑)」
と冗談で返してきました。

言った私も軽口であったし母のあくまで冗談の返し。
しかし、”キス”や”お母さんの唇という単語が私の中に響いて何かを呼び起こすようでした。
あの日の母の柔らかい唇や舌の感触。大好きな母への想いと陰鬱な劣情。

気付くと母の冗談に返事が出来ず母の唇をじっと見つめてしまいました。

母もその視線に気付いたようで、
「ちょっと・・・渉、思い出してるでしょ(笑)」
一瞬詰まったように言葉を止めた後再び冗談で誤魔化してくれました。
ただ、私はもうなんだか母がたまらなく愛おしくなってしまい冗談を続けることが出来ませんでした。

「うん、思い出してる。」
母の唇を見つめたまま答えました。

「え~・・・」
母も困ったような気不味いような顔をしてそれ以上何も言いませんでした。

空気が変わったのが分かりました。
少し前までは普通の、明るい母子の会話と雰囲気であったのに。

張り詰めたような。どちらかが動いたなら引き返すことが出来なくなるような予感と緊張。
その中で何秒か、短いような長いような時間。
何も言わず母と私は見つめ合っていました。

私の目から母は何を感じているんだろう。
私の中には母を愛おしむ気持ちと母への欲望がぐるぐると渦を巻いていました。

母は、母の目は私に何を伝えているんだろう。逸らさずに私を見つめ返す目。
少し潤んだように見える目には私と同じ気持ちが母の中にも少しはあるのかも知れないとなんとなく感じました。

私は母の近くにゆっくりと近づいていきました。
母は何も言わず私を見つめたまま。

母の両肩に手を置きました。
「渉・・・」

切ないように困ったように母は私の名前を呼びました。
駄目だよ。やめなさい。の言葉は少し待っても母の口からは出てきませんでした。
きっと母の中にも少しの理性と抱いてはいけない期待が渦巻いている。

私は母の肩をそのまま引き寄せ、母の唇に自分の唇を合わせました。

一度目とは違う二度目のキス。
寂しさや環境のせいに出来ない男女のキスを私達母子は交わしてしまいました。

#恋愛 #エッセイ #母子家庭 #近親相姦

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