ファーストキス。母の唇。
母を親として慕う気持ちが徐々に異性としての好意や止まらない性欲に塗り替えられていく。
それに危機感を覚えて仙台への大学進学を決めた私。
実家のある岩手県から私が入学した大学まで通うには通学時間も交通費もとても負担が大きく、
実家から離れての一人暮らしを選択することが現実的です。
突発的に家族を失ったという状況と高校生という異性への渇望が強くなる年齢が母への想いを歪ませている。
だから、離れなければならない。
それが私自身と私の大事な母を守ることになるのだから。
仙台の大学へ進学する意思を伝えたとき、当然なのか以外にもなのか母はとても喜んでくれました。
私は学力が高い方だったので県内の大学よりも学力の高い大学に進んで欲しかったこと、
家を出て都市部での一人暮らしを経験して欲しかったこと、
母はそう望んでいたそうで私の決断に賛成し応援すると後押ししてくれました。
不安定な母の姿を見ていましたし何より私と離れることを寂しがるのではないかと思っていた私は、
拍子抜けし何故だかとても残念な気持ちになりました。
母から離れると自分で決めたはずなのに。それがスムーズに受け入れられたというのに。
進学塾に通わせてくれたり私の体調をこまめに気遣ってくれたり。
そんな母の協力もあって志望大学には無事にストレートで合格。
相変わらずふいに訪れる母との抱擁の時間、湧き上がってくる母への欲望を必死に抑えながら、
母と過ごせる日々は一日、また一日と残り少なくなっていく。
そしてついに岩手で過ごす最後の日がやってきました。
「食べ納めになるから好きなもの沢山作ったからね。」
そう言って母の用意してくれた最後の晩御飯。
おいしい。とても。
これからは好きな時にこの味を楽しむことは出来ない。
「晩御飯、なに?」
「今日はこれが食べたいんだけど」
そう母に甘えることも出来ないんだ。
そして母も甘えてくる息子が居なくなり毎日一人で晩御飯を食べるのだろうか。
食べ終わりそんなことを考えるととても寂しくなり思わず涙が溢れ出てきました。
「泣かないの・・。お母さんも寂しくなるでしょ。」
顔を上げると母も泣いていた。
そして私を抱きしめる母。
いつもなら母を慰めるように抱き留めるのですがこの日は私にも余裕がありませんでした。
母と離れたくない、一人になりたくない、一人にしたくない!
私は母を本当に本当に大好きなんだから!
「渉、力強くなったね・・。」
そんな想いで私からも涙声の母を思いっきり強く抱きしめた。
どのぐらい抱き合っていたのか、ずいぶん時間が過ぎてやっと母も私も落ち着き涙を止めることが出来ました。
母と離れたくない。涙は止まっても抱きしめる手を放すことが出来ません。
「ちょっと渉、ちょっとだけ苦しい。」
母に言われてやっとその腕を緩めて母の腰のあたりまで下ろす私。
母は上半身だけ身を放すとまだ乾かない涙を拭いながら言いました。
「いくら寂しいって言っても、こんな子離れできないんじゃ駄目だね。」
「お母さんのこと好きだし、大事だから離れたくない。」
反射的に答える私。
文字にすると親として慕っているというただの言葉。
ただ抱き締め合って未だ密着したままの母と私の間には、何かそれ以上の意味を持って響いたような気がしました。
いや、気のせいでは無かったと思います。
現に母はその言葉を受け止めると何も言わずに私の目を見つめました。
年齢を重ねた今だから分かることですが私達のような特殊なケースではなく普通の男女の付き合いでも、
一線を越えるタイミングと雰囲気はなぜかお互いがシンクロしたように感じあうものですよね。
今思えばそういう一瞬の時間が母と私の間に流れてしまったのです。
何かを求めるような、何かが起きるのを待っているような母の目。
見つめあっている私の目も、母には同じように映っていたでしょう。
異性としての好意、抑えきれない性の渇望が湧き上がる。
母ももしかして少なからずそれを感じていたのではないか。
抑えないと。駄目だ。
その思いとは裏腹に私の身体は勝手に、ぎこちなくですが動き始めます。
母の腰に回した腕で母の身体をぐっと引き寄せて、母の顔が目の前に近づいてくる。
触れるか触れないかギリギリの距離でも母と私は何も言わず見つめあったままでした。
頭が真っ白になりもう自制は効くはずもありません。
どちらかからとも言えず、お互いその距離をゆっくり1ミリずつ埋めるように近づく顔。
柔らかい。何だろうこれ。
やがて距離は無くなりゆっくりと触れ合ってしまった唇の感触。
それは初めてのキスを大好きな人に捧げた瞬間でした。
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