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『手当たり日記 15』 光の速さへ 2023年11月24日

今日は朝早く起きた。まだ陽が昇っていなかった。寝不足の早朝は、取り組めることが限られる。十分な睡眠をとった日であれば、湯を沸かしている間に、コーヒー豆を挽いて、シリアルに豆乳をかけて食べる、マルチタスクができる。今朝は頭が動かず、お湯を沸かすケトルをしばらくぽかんと眺めていた。これではまずいと思い、コーヒーを入れるためのに使っているボトルを探したが、見つからなかった。昨夜編集室に置いてきてしまったのだ。ぽかんと口を開けながら、水を少しだけ温めた、無駄な時間が過ぎてしまった。もったいないので、ぬるい水を飲んだら少し目が覚めた。ぬるい水はお湯か。水は、何度からお湯になるのだろう。やはり人間の体温以上だろうか。

まだ頭は冴え切っていない。いつもであれば音楽やポッドキャストを聴きながら駅まで向かうが、今日はそうはいかない。鳥のさえずりと、商店街を並走する人の足音で、耳が精いっぱいだ。眠い目を擦り電車に乗る。朝日がのぼる世田谷区を、ドアによりかかり呆然と眺めていると、いつも使っている斜め掛けバッグの肩紐が、バックルの前後でねじれていることに気づいた。あの、肩紐が折れた状態でバックルを通過してしまった時に起こる、簡単には解消できないやつだ。朝日に照らされながら意固地なメビウスの輪と格闘したが、一向に直らない。そもそも、直そうとひねっている方向が正しいのかすらわからない。寝不足の朝は、何事もうまくいかないものである。

『手当たり日記』15話目。ほぼ毎日書いてきて、2週間が経った。箇条書きの構成を作ってから書き始める時もあれば、思いつくままにざっと書いていくこともある。いずれにせよ、もうこのくらいでよそう、と書く手を止めるのが、1400-1800文字程度、ということが分かってきた。通勤電車の中で要素を書き出し、文章の形にし始め、書き終わり、直したり文章の順序を入れ替えたりする時間を合計すると、2時間かからないくらいで終わると思う。

28歳になって分かってきたことは、急に能力が上がることはない、ということ。28歳になってやっと分かった。いい文章を書きたいと思っていても、書く習慣がないと、きっと駄文すらも書けない。僕の母校にもいらっしゃった、デザイナーの山中俊治先生は、頭の中にある車のデザインを絵にするためには、まず、まっすぐな直線を考えずにも描けるように手癖をつけることを勧めていた。良い文章を生むためのまっすぐな直線、1500文字程度の駄文を生成する習慣もついてきた気がする。

だけれども、気になることもできた。本を読む時間があまり取れなくなっていることだ。これまで読書に充てていた通勤時間や、寝る前の1、2時間が、駄文生成に取られる。読書が全く進まない。これが地味に辛い。ここ数年かけて、読書の習慣をつけてきていたので、毎日物足りない気がしてしまうし、積読がどんどん溜まっていくプレッシャーも感じる。辛いので、せめてもと、早く起きなければいけない時も、寝る前に、枕元に置いた早川義夫のエッセイを読む。最低8時間は寝たいくらいのロングスリーパーなので、本当は、布団に入ったら1秒でも早く意識を失いたい。だが昨日も、読書欲が変な後押しをして読み込んでしまい、軽く寝不足になる次第だ。

SONYの伝説のエンジニアであり、アイボ開発にも重要なポジションで携わっていた、森永英一郎さんは、ものづくりにおいては、とにかく手を動かせ、とよく言っている。「手を動かしてたくさん作って失敗を積み重ねると、一秒が長くなる。どんどん光の速度に近づいていく。」とのことだ。経験をつめば、判断できるスピードが早くなり、的確で適切な勘を働かせられる、ということだろう。駄文生成も、つづけていれば駄文生成における光の速さに到達できるだろうか。そこから、より良質な文章を書く方向に切り替えつつ、加速して生まれた時間で本を読みたい。何を書いているのだろうか。ともかく、適度な慣れは必要だと思った。

今日はとても長い一日だった。全ての打ち合わせが終わった17時前にはかなりの疲労感があり、家まで帰るためのエネルギーも足りない気がした。何か食べようと思いコンビニに行って、普段滅多に手にしないえびせんとカフェオレを買い、編集室に戻って光の速度で消費した。具合が悪くなった。早く帰って横になりたかった。疲れた時は、適切なものを、適切な速度で摂取した方がきっといい。

帰り道、オオゼキに寄ったら、レンコンとピーマンが安かったから、合い挽き肉も買った。あれ、を作るのである。おしまい。

★今日のあだ事まめ事
いつも、流行りランキングトップ10みたいなJpopしか流れていない最寄りのオオゼキで、正月の雅楽にJpop10%混ぜたみたいな音楽がかかっていて、年の瀬を演出したいという気持ちを察した

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