寄付先の決め方

ウクライナ危機を受けて、寄付をしたいという人が大勢いることはとても良いことだと思う。

多くの人がクラウドファンディングや援助団体・ウクライナ大使館への寄付を行う一方で、ツイッター上では個人ボランティアへの寄付も多く集まっていることが見受けられる。

個人ボランティアの中には、自分の貯金を切り崩して直接支援を届けている人もいて、それはプロの人道支援家からしても本当に勇気ある素晴らしい行動だと思う。

一方で、個人ボランティアたちの間で「大手支援団体は何をやっているのか?」、「大手援助団体の活動が見えてこない」、「大手支援団体に寄付しても直接支援にはほとんどお金は回らない」と言った大手支援団体を非難する、あるいはそれらに対して懐疑的なコメントが見受けられる。挙句の果てには「資金の着服疑惑」まで持ち出されているから哀しいところがある。

近年、日本は着実に寄付文化が育ちつつあると実感するものの、こういったコメントを見るに、まだまだ日本は「援助団体による人道支援がどのようになりたっているのか」について理解している人は少ないのだと実感した。

同時に、まだ多くの人がどこに寄付をすればいいのか、どのように寄付先を決めればいいのかわからない人が多いのだと気づいた。

そこで、新卒で大手国際NGOに入り、現在某国連機関で働く、人道支援歴5年の私が、援助団体の支援のやり方と寄付先の選び方について綴ってみる。

1.支援団体とは

そもそも支援団体にはどのようなものがあるのか。

人道支援・難民支援を担う大手支援団体は主に以下の団体が挙げられる。

① 国連組織(UNHCR、UNICEF、WFP、IOM、UNOCHA、など)
② NGO(Save the Children、ADRA、ピースウィンズ・ジャパン、AAR、など)
③ 赤十字


この中でUNHCRは難民(被災国の外に逃れた人々)支援を中心に支援している。被災国の中に留まって避難している国内避難民への支援も行ってはいるが、難民支援と比べるとやや限定的である。

UNICEFは子どもを対象にした支援が主で、難民に特化しているわけではない。子どもへの教育や保健医療、水衛生などの支援を行っている。

このように、国連組織の中でも各団体役割が異なっており、ウクライナ危機への寄付を考える時、自分がどのような分野の支援に貢献したいのかを考え、調べる必要がある。

これらの組織は日本政府含む各国からの資金や大手企業の資金、そして民間からの寄付を活用して、支援対象国の政府やNGOなどと協力して支援を届けている。つまり、直接支援を困っている人に届けるというようなことはあまりやっていない場合がある。ただし、全く直接支援を届けていないわけではなく、支援内容によっては直接支援を行っているし、組織によっては直接支援を重視している。IOMなんかは直接支援を主に行っている国連組織の代表例だ。

国連機関とは別に、日本には特定の国連機関に寄付金を渡す協会という組織もある。UNHCR協会、UNICEF協会がそれにあたるが、これら協会は直接支援を行う訳では無く、あくまでも国連機関の窓口としての役割を担っている。

NGOは、海外発で日本にも支部を持つ国際アライアンス系NGOと日本国内発のNGOがある。

アライアンス系NGOはSave the Children、ADRA、World Vision、Planなどである。それぞれ組織体制は異なり、本部を持って、本部の指揮系統のもと支援を展開する団体と、それぞれの国事務所に強い自治権があって、国事務所が自由に支援を展開する団体がある。

これらの団体の強みは、世界中に事務所があり、世界中の人道支援・開発支援に関わって、情報や人材・資金共有などが行われていることから、とにかく経験豊富な人道支援のプロ中のプロである。同時に、あらゆる物事を決定する際に、多くの審査や基準を通さなければならないため、不正は起きにくい。また、世界中から資金が集まっているため、資金が豊富で、機動力や発信力がある。

なお、これらの利点は、国連機関にも言えることであるが、国連機関との大きな違いは、国連機関は支援を受ける国の能力強化が主な仕事で、政府と密に連携して事業を実施している。だから例えば、UNHCRであれば、物資配布に向けたNGOへの資金提供や直接支援はやるにはやるが、むしろUNHCRの重点分野は難民保護に必要な難民登録手続きの実施であったり、難民キャンプの設置、政府との支援に関わる調整といったことにある。

つまり、国連機関は政府のサポート役であって、人道支援ももちろんするが、それも政府との調整ありきなところがある。

対してNGOは、政府との調整や政府からの活動実施許可をとることはもちろんするものの、より支援を必要としている人に寄り添って、直接支援を行っている。自分たちで直接足を運び、困っている人がどこにどれだけいて、どのような支援が必要なのか分析した上で、支援を行っている。この点で、国連組織とNGOに違いがある。

さて、日本発のNGOはピースウィンズ・ジャパンが人道支援では最大手といっていい。海外の難民支援に限っていえば、AAR、日本国内の難民支援でいえばJARが有名どころだろうか。(ただし、AARは難民支援だけをやっているわけではない。)

いずれも直接働いたことはないが、知人・友人は多い。私も信頼している団体である。

日本発のNGOの強みは、コスト面だ。必要最低限の少人数体制で極力無駄を省きながら事業を展開している場合が多いため、より多くの寄付金が直接支援に回りやすい。

団体規模が小さくなればなるほど、直接支援に回るお金の割合は高まるので、とにかく自分の寄付金を直接困っている人に届けたいのであれば、小さい団体もおすすめする。ただし、規模が小さくなればなるほど、人道支援の経験不足であったり、人道支援を行う際に守らなければならない国際基準の点で曖昧なところがあるのが弱点だ。

後述するが、人道支援にも順守すべき「基準」というものがある。この「基準」に対して寄付を考えている人がどう捉えるかによってもまた、寄付先の選び方は変わってくる。

最後に、日本発のNGOへ寄付すれば、日本人が直接現場に行くことが多いので、「日本の支援」ということをより強く対外にアピールできるため、「日本からの支援」ということを対外に強調したい方はこれらの団体を支援するといいと思う。

赤十字は実は医療に特化した赤十字と直接的な人道支援の実施と人道憲章普及に務める赤十字国際委員会がある。赤十字は中立性を重視しており、誰が悪とか決めつけることなく、人道支援を必要としている人に支援を届けている。

2.支援団体における間接費の考え方

さて、ここからは大手支援団体の弱みの話をしよう。

国連機関であれ、NGOであれ、規模が大きくなればなるほど間接費がかかる。間接費とは直接支援に関わらない人の人件費、事務所維持費、事務所備品、あらゆるコミュニュケーションツールやソフトウェアの維持費などである。

困っている人に直接お金が行く直接費と団体費用である間接費の割合は事業や団体によって異なるため、一概に言えないが、多くの団体は寄付金や助成金の10%を間接費に充てると公表している。

つまり、多くの団体は寄付金の90%は直接支援に使われるように目指している。

残念ながら、間接費が高すぎるのではないかと感じることは私の経験上もあるにはある。

ただし、あくまでも必要経費に使われているのであり、悪用しているわけではないし、各団体可能な限り直接費に回るよう努力している。

一部の人には知られているようだが、国連機関や大手NGOでは、状況によっては職員に対して宿舎を提供している場合がある。

国や地域、団体によって宿舎の質は異なるが、危険地であればあるほど、職員を犯罪や武装勢力による攻撃から守るため、頑丈なものになる。

一部では「豪華」な宿舎と噂が広がっているようだが、「豪華さ」の定義はなんだろうか。現地の最貧困層が暮らすバラック小屋と比較すれば、それはたしかに豪華だろうが、往々にして現地人の一般住居を一段良くした程度のレベルというのが個人的な感想だ。

この一段良くする理由というのは、先にも述べた通り、犯罪や武装勢力による攻撃を守るためであったり、職員の心と身体の健康のためであって、贅沢のためではない。

支援地域では、特に大組織ともなればお金持ちとして見られ、犯罪や武装勢力に狙われる。支援地域では娯楽がなかったり、限られている場合も多く、さらに治安上の理由で外出禁止が徹底されることもある。

毎日現場に出て支援を提供していると、文句や不満を言われることもあるし、暴力の被害に合うこともある。

このような過酷な中で、継続的に支援を提供できるよう、住環境だけは良くしようとするのがプロの支援組織である。

また、組織規模が大きくなればなるほど、資金管理やスタッフの倫理観の育成や支援に関わるスキルアップに注力する。そうすることで、不正を防ぎつつ、業務の効率性を高め、より効果的な支援を実施するためだ。

そうなってくると、様々なソフトウェアやツールが必要になってくる。スタッフ育成のための研修費が必要になってくる。

これらはあくまでも支援の効率化と効果を高めるためであって、娯楽ではない。ただし、人が増えれば増えるほど、これらにかける費用が増えるというマイナスな側面もあるのは確かだと思う。

また、支援業界も一般のビジネスと同じである。中間業者が入ればコストが余計にかかるように、支援業界も中間団体が入れば、その分直接支援に回るお金は減る。

「じゃあ、国連機関はNGOに委託している場合があるから、NGOに直接寄付したほうがいいのではないか?」それは、ある意味では正解だと思う。

中間に別の支援団体が入るメリットもある。それは、どこぞの無名団体にお金を直接渡すよりも、信頼できる支援団体が中間に入ることで、監視の目となって、不正を防いだり、知見を共有することでよりよい支援を提供することにつながる。また、団体の事情によって入れない地域があることもある。そうなると、その地域に入れる別の組織に代理で支援を実施してもらわなくてはならない。

だから、中間に別の支援組織が入ることは必ずしも悪ではない。

3.人道支援にも国際的な基準がある

あまり知られていないかもしれないが、人道支援を行う際に守るべき国際的な基準が多数ある。

それらは、国連や国際NGOのネットワークで推奨されている基準であって、これらの基準に満たない支援事業はドナー(主に外務省、国連、財団)から実施許可が降りない。

今回は誰でにもわかりやすいように、まとめてみた。

人道支援で守るべき基準① 支援は公正で公平でなくてはならない
「自分の知り合いで困っている人がいるからその人を優先的に助けてほしい」

気持ちはわかるが、人的・自然に関わらず、被災者が多い場合、同じように過酷な状況に置かれている人は大勢いるため、特定の誰かあるいはグループを私的感情を理由に優先させることはできない。

とはいえ、被災者の中にはより弱い立場に置かれている人がいることは事実だ。それは子どもと女性だ。この中でも特に、保護者のいない子どもや女性が世帯主である家庭は脆弱層として扱われる。

こういった人々に対して優先的に支援が行われることはあるが、自分たちの知人友人を優先して支援団体が支援することはない。それでは、不公平で、新たな紛争や暴力の火種を生みかねないからである。
人道支援で守るべき基準②説明責任を果たすこと

団体はドナー、政府、裨益者(地元の人達)に対して、常に説明責任を果たすことが必須である。

「なぜ自分たちは、この人達に対して、このような支援を行うのか」と言った説明は公にしなくてはならない。

そうでないと、不正を疑われたり、支援を受け取れない人たちから不公平と感じる人が出てきたりして、やはり新たな紛争や暴力の火種を生みかねないからである。
また、人様のお金を使用するわけだから、何にどれくらいお金を使ったのか開示することは重要である。開示しなくとも、常に監査の目を入れて、お金が適切に使われていることを示さなくてはならない。

人道支援で守るべき基準③支援計画からコミュニティの参画を促すこと

支援は、支援する側の独りよがりになってはならない。

支援計画段階から、被災者を巻き込んで、被災者の声に耳を貸しながらどのような支援が行われるべきなのか決める必要がある。

事業実施段階においても、可能な限り現地の人々を巻き込んで、支援を実施することで、支援の継続性を確保することが大事である。

他にも、教育支援であれば教育の、水衛生支援であれば、水衛生の、食料支援であれば食料支援の国際基準が設けられている。それは、食料を配布するのであればこういったものがエネルギー効率が良いだとか、これくらいのエネルギーをとることができれば生きながらえることができるだとか、トイレは何世帯に何個あるべきなのかだとか、緊急時の教育にはどういった内容が必要なのかとか、そういった細かい基準であったりもする。

これらの基準は何年もの時間をかけて、国連やNGOが築き上げた知見に基づいて作られている。こういった基準を無視した支援は、非効率で非効果的となるリスクをかかえていることは認知しておくべきことだと思う。

4.個人ボランティアか大手支援団体か

繰り返すが、私は機動力のある個人ボランティアは尊敬している。大手支援団体が入れない地域にも入って、支援が届いていないところに支援を届けることは頭が下がる。

だが、個人ボランティアにも弱みはある。

欧州シリア難民危機の際、多くのボランティアが仕事を辞めてまで、世界中から集まった。小さなギリシャの離島では多くのNGOが乱立した。

当然、プロの人道支援者たちではなかった。プロの人道支援者たちはSNS上の影に隠れて、個人ボランティアの活躍が目立った。

本当に、機動力に関して言えば、大手支援団体を遥かに上回っていた。

しかし、問題もあった。

ギリシャ政府の許可を得ずに活動したがために、逮捕される人もいた。
不法に難民を移送しようとして、逮捕される人もいた。

現地の法を知らずに活動していないだろうか。

基準に照らし合わせると、益々疑問は湧いてくる。

支援内容は、独りよがりになっていないだろうか。
支援対象者は、どのように選んでいるのだろうか。
支援の継続性は、どのように考えているのだろうか。
不平不満や新たな紛争の火種を気が付かないところで生んでいないだろうか。
戦闘地へ個人が行って、戦闘被害にあったら誰が責任をとるのだろうか。集まったお金はどうなるのだろうか。

ところで、話は少し戻るが、寄附者の方々は間接費をどのように考えているのだろうか。

例えば、個人ボランティアが医療物資を届けに行くとする。

それに必要な車は、寄付金から使っていいのだろうか。ドライバーが必要であれば、ドライバーの費用はどうするのであろうか。

支援対象地にホテルがなくて、中間地点で宿に泊まる時、寄付金から使っていいのだろうか。その宿で飲み食いする費用はどうだろうか。

仮に個人ボランティアに寄付しても、間接費はかかる。費用の使い道を開示している人であればまだ良いものの、この辺のどこからどこまでを支援費用として考えるか、そしてどこまでを許容できるかは寄附者次第ではないだろうか。

NGOに寄付をするとその殆どが間接費に行くという話がある。

これは正しくも間違いでもある。

NGOはある程度、純粋な間接費の割合を明確にしている。

困っている人に直接お金が行く直接費と団体費用である間接費の割合は事業や団体によって異なるため、一概に言えないが、多くの団体は寄付金や助成金の10%を間接費に充てると公表している。

つまり、多くの団体は寄付金の90%は直接支援に使われるように目指している。

でも、この90%の中に、物資を運ぶ車両費がある。ドライバーの費用がある。これも間接費と呼ぶと、物資そのものに行くお金はたしかに大幅に減る。だが、必要経費である。

つまり、寄付先を選ぶ方法として、まずは、寄附者本人が「自分の寄付金をどのように使ってもらいたいのか」ということを明確にする必要がある。

支援にかかわる費用であれば、どのような形にも使っていいというのであれば、個人ボランティアではなくて、実績ある大手支援団体に寄付をすればいい。

できれば、直接支援に使ってほしいというのであれば、小規模団体でいい。

今すぐ支援を届けてほしいというのであれば、個人ボランティアが良いと思う。

5.まとめ
長くなったが、寄付先を選ぶ方法として大事なことは「自分の寄付がどのように使われたいのか」を明確にすることである。

特定の分野(難民、子ども、教育、医療)に対して支援をしたければ、その分野に特化した団体を選ぶ。
とにかくなんでもいいから支援をしたい、あるいは、より多くの人に支援を届けたい、信頼できる団体に寄付したいのであれば、国連機関。
より適切にお金が使われて、現地の人が必要としているものが届けられることを願うならばNGO.
より多くのお金が直接支援に回ることを願うのであれば、小さめな団体や信頼できる個人に寄付をする。

そんなところだろうか。

私は、説明責任を果たし、現地の人が必要としている支援を届けている団体・個人であれば、誰でもいいと思っている。

ただ、寄付先を選ぶ際には、経験のない個人や組織を選択すると、寄付金の使途が不明確な場合や支援内容が雑である場合が多いので、ぜひ注意していただきたい。


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