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シルクドソレイユを退社して思うこと。

2023年4月27日。
3年半勤めた「シルクドソレイユ」という企業を退社しました。

旅の始まり

入社は2019年の10月末。
僕のシルクドソレイユアーティストとしての旅は、ショーの制作「クリエーション」からスタートしました。

シルクドソレイユ本社スタジオにて

世界に数多くいるアーティストの中でも限られた人数しか経験できない「クリエーション」。
どんなイマジネーションの中で、どんな想いを込めて、どれだけの細かなこだわりを持ってシルクドソレイユはショーを作っていくのか。
そんなものを見ることができる貴重な貴重な機会の中で僕の旅は始まったのです。
本社があるカナダ・モントリオールで過ごした日々は今でも鮮明に僕の頭の中に残っています。

目の前のものを大切にすること

出演したショーは合計636本。
日数にして318日。

思い返せば、楽しいことはもちろんありましたが、それ以上に悩み、苦しんだ日々でした。

僕は、大企業の最下層にいる自分が、会社にとって、ショーにとって大切な存在になるにはどうしたらいいかを考え続けていました。

実力か?
勤続年数か?
それとも奉仕力か?
それとも…

この会社が一番必要としている人材であろうと自分の立ち回り方を日々探っていました。
この環境での経験は絶対に自分の将来に生きると思ったからです。

ただ、退社した今でもその答えはわかりません。

結局はただの一人のアーティストでしかないし、会社から見たら無数にあるパーツの中の一つでしかない。
自分の声が届く範囲も限られているし、思いを届けられる相手も限られている。
3年半という時間が全くもって十分ではないというのはもちろんわかっていながらも、自分の無力さを感じて苦しくなる時もありました。

そんな日々でした。

そんな日々だったからこそ気づいたこと。
それは、「目の前のものを大切にする」ということです。

そんなにすぐに成果は出ない。
そんなにすぐに信用は得られない。
そんなにすぐに給料は上がらない。

結局はコツコツやるしかないのです。

1日1日を真っ当に生きて、目の前のものに全力で取り組むしかない。
例え変わり映えのない日々でも、ほんの少しでも前に進めるように努力するしかない。
その姿をもってでしか他人に自分という存在をアピールすることができない。

だから人に全力で向き合ったし、体に全力で向き合ったし、ショーに全力で向き合ったし、言語に全力で向き合いました。

もちろん、そうやって全力で向き合っても分かり合えない人はいるし、怪我はするし、表現は奥深すぎるし、いまだに流暢に喋れません。

ただ、諦めることだけはしたくありませんでした。
自分には力がないからという理由で何もしない自分を認めたくありませんでした。

無数にあるパーツの1つが何を言おうとも会社は変わらない。
変わらないけど、自分の意見は何度でもはっきりと上司に伝えました。
どうにかして前に進みたかったからです。
どうにかして前に進んでいると感じたかったからです。

全力で向き合うからこその寂しさ

僕、大真面目なので、ふざけるのが苦手だし、無駄が嫌いです。
真面目な話はたくさんできても、冗談で人を笑わせるようなことがあまりできません。
こんな性格なので、多くの職場の人にこんなことを言われました。

「次の仕事が楽しみか?」
「寂しくなんてないだろ?」

冗談で冷やかしのように言ってきますが、半分本心なのはわかっています。
僕、冷たいやつだと思われがちなんです。

もちろん日々の言動・行動からそう感じさせてしまう僕に非があるのはわかっていますが…

そりゃあ僕だって寂しいですよ。

だって毎日全力でしたから。
何一つ手抜いたことないですから。

先ほど、「楽しいことはもちろんありましたが、それ以上に悩み、苦しんだ日々でした。」と書きました。
僕はこれをマイナスに捉えていません。
なぜなら、全力で向き合った証だからです。

全力だったからこそ、たくさんの壁にぶつかりました。
その壁を乗り越えるために悩み苦しんだからこそ、この仕事に強い愛を感じていました。

だから僕だって寂しいんです。

たくさんの思い出が詰まったシアターを離れるのが寂しいんです。
たくさんの思い出を共有した仲間と離れるのが寂しいんです。
たくさんのお客さんの歓声、大きな音で流れる音楽、綺麗な照明、最後のポーズを決めたときのあの快感…
この仕事に関わる全てのものから離れるのが寂しいんです。

See You Down the Road

アメリカにはこんなお別れの言葉があります。

「See you down the road.」

ニュアンスで訳すならば、「いつかまた会おう」みたいな感じだと思います。
これをいろんな人に言われるたびに思ったんです。

次会うときは自分はどんな姿だろうって。

もしかしたら来年の話かもしれないし、もしかしたら10年後、20年後の話かもしれない。
来るべきその日のために、僕はこれからの時間に全力で向き合わなければいけません。

その時の自分が今よりいい顔をしてなかったら、この仕事を辞めた意味がありませんから。

自分の好きなことで生きていけて、家族との時間もたっぷり取れて、おまけにそれなりに稼げる。
こんなにいい仕事は世界中を探してもなかなか見つかりません。

そんな仕事を辞めてまで自分がしたいことがある。
そしてそれを応援してくれる人がそばにいる。
これは本当に本当に幸せなことです。

だからこそ僕はこれからも何事に対しても全力で向き合わなければいけません。
道を進んでいった先で仲間たちと再会し、「僕は今こんなにも幸せだよ。僕は今こんなにも誇らしい仕事をしているよ。」って言わなければいけないからです。

きっと仲間たちはそんなことを思っていないでしょう。
笑顔で再会できるだけで嬉しいはずです。
でも、僕にとって僕はそうでなければいけないのです。

自分が自分であるために。
自分が好きな自分であり続けるために。




これまで3年半に渡り僕の活動を応援してくださった方々、本当にありがとうございました。
これにて「シルクドソレイユアーティスト 井藤 亘」としての発信は終わりとなります。

5月からは「シルクドソレイユアーティストではない井藤 亘(何かしらの肩書を持った新たな僕)」としての活動が始まりますが、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。
いつものプロフィール写真を使うのも、いつものプロフィール文を使うのもこれで最後です。
SNSのプロフィールも全て修正する予定ですので、お楽しみにお待ちください。

重ね重ねになりますが、これまでの温かな応援、本当に本当にありがとうございました!


井藤 亘(いとう わたる)
Cirque du Soleil 「Drawn to Life」
男子新体操アーティスト🤸‍♀️

個人HPリンク
YouTube:Wataru Ito
Twitter:@wataru_cirque
Instagram:@wataru_cirque
voicy:亘のジムラジオ【Gymnastics✖️Radio】
Tik Tok:@wataru_cirque
KYOMEIプロジェクト

名古屋市立原中学校ー埼玉栄高校ー青森大学ーシルクドゥソレイユ

3歳から男子新体操を始め、中学校3年生時の全日本ジュニア出場をきっかけに、埼玉栄高校へ進学する。
骨折などの大きな怪我を克服しながら3年時にインターハイで団体優勝し、名門・青森大学へ進学。
大学では、全日本選手権・全日本学生選手権ともに4連覇を果たし、4年時には主将も務めた。
卒業後は、幼児・小学生を対象にスポーツ指導をしていたが、パフォーマーとしてイベント出演したことをきっかけにシルクドゥソレイユのオーディションを受け合格し、渡米。
現在はパフォーマー業を行いつつ、男子新体操の普及を目標に様々な活動に取り組んでいる。

【実績】
・インターハイ団体優勝
・全日本学生新体操選手権大会団体4連覇
・全日本新体操選手権大会団体4連覇
【出演】
・東京テレビ「年忘れにっぽんの歌」鳥羽一郎コラボ
・TBS「音楽の日」三浦大知コラボ
・BS11 ドキュメンタリー「ザ・チーム 勝利への方程式」
・Avex主催「STAR ISLAND」サウジアラビア公演
・大阪ガス主催「10歳若がえりセミナー」講師
【資格】
・中学、高等学校第一種教員免許状
・ビジネスアスリート2級
・日本スポーツ協会公認スポーツリーダー

20年以上続けてきた「男子新体操」というスポーツをより多くの人に知ってもらうため、日々活動をしています!! 頂いたサポートは、今後の活動費、またはその勉強のために使わせていただきます!🙇‍♂️✨ また、サポートとともに記事のリクエストも募集しております。