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醜女の見る夢

世界一の醜女を自負するわたしは、
若さをも失いはじめたあたりから、年中マスクをつけるようになった。リップメイクを諦めたのだと思う。さらに瞼が伸びて皮膜式アイプチが効かなくってからはアイメイクも諦め、目が悪くないのに伊達メガネを年中かけるようになり、
肌がたるんで化け物みが増したこの頃に至っては、被ることがゆるされるときは、帽子を目深に被っている。

若い頃山のように集めていた化粧品は、メイクで変身することは無理と悟った時期にほとんど処分してしまった。その代わりたくさんの帽子と伊達メガネ、サングラスがドレッサーの前に陣取っている。

精神科にかかったら何らかの診断が下る…とは思えない。
ご飯が食べられなかった日はないし、毎夜ぐっすり眠っている。ストレスで倒れたことは一度もない。頑健な肉体がたまに鬱陶しい。
朝が来たらまた出勤だ。

職場には「あんな変な顔の人、初めて見た〜!やば〜!」と陰でハシャいでいた同僚や、わたしと廊下ですれ違うたび「キッショ」と小声で心の声をお漏らしする先輩などが元気に働いている。まったく愉快な職場だ。なんと驚くべきことに、これでも彼らは礼儀正しい方に入る。もっと嫌な連中と働いたこともある。さらにここの福利厚生はよく、わたしはここを辞める気はない。
でも、好きな場所ではない。
彼らのことも当然好きじゃない。
心がポッキリ折れて病んでしまいたい、外に出ないための、出勤しないための正当な理由がほしいと思う。
ストレスでゲロ吐いたりしないかな?倒れちゃったりしないかな?わたしは自分のメンタルの弱さに期待する。

残念ながらその気配は一切なく、仕事行きたくないなあと思いながら、ランチは何を食べようかな、なんのフレーバーのお茶を飲もうかな、とワクワクもしている。

若い頃から、繰り返し、普通の顔を手に入れた夢をみる。
鏡を見ると全然知らない顔が写っている。
絶世の美女ではないけど、ふつうの、なんてことない顔だ。
顔が変わった!すごい!!
はしゃいでいると家族が言う。
全然変わってないじゃん、もともとその顔。
そっか!今までのは悪い夢だったのかー!

清々しい気持ち。
わたしはサングラスも、帽子も、マスクもつけずに、好きな服を着て家を飛び出していく。世界は光を浴びて何もかもがキラキラと輝いている。風が気持ち良い。
やっと本当の人生を歩き出したような気がする。

目覚めてがっかりする。そうだよな現実はこっちだよな、わたしどんだけ顔のこと考えてんだよと呆れる。そして、戦うために生まれてきたと感じる。今日も元気に出勤してやろうと思う。なんのためかも誰のためかもわからない。夢の中でぬくぬく日和っていた自分が気に入らない。

わたしは自分の顔が大嫌いだが、顔のことで悩んで働けないなんてもっともっと嫌なのだ。顔のために大金を払って痛い思いをして整形するなんて、もっともっともっと嫌だ。
屈したくない。いやこんな夢見る時点で、こんな記事を書く時点で、だいぶやられているのは間違いない。とてつもなく弱い。負けまくり。
でも明日の朝もちゃんと起きてご飯を食べて働きに行くぜ。
何回殴られて床を舐めることになっても、結局は最後までリングに立っていた方が勝つのだ。

世界が輝いているのはもう知ってる。
桜の花や藤の花、朝露に濡れた新緑が朝日に煌めくのを、わたしは週5でちゃんと見ていて、いちいちカンドーしている。

隣ンチには老婆が住んでいる。引っ越しの挨拶のとき、
「んまあ変な顔、かわいそうに。男の子だったらよかったのにね」としみじみ言われ、このクソババアとっとと死ねと思った。
今の季節、クソババアの庭では薔薇が咲き誇り、ハゴロモジャスミンが香る。
出勤時にそれがとても嬉しいから、わたしはクソババアを許せる。死なんでよし。生きてくれ。
そんな感じで、どいつもこいつもムカつくやつを許していけると思う。

読んでくれありがとう。
良い日曜日を。

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