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FYI.11 渡航移植者の診療拒否をめぐる倫理的ジレンマ

4月3日付のm3ニュースで、「海外での不当な臓器売買や移植ツーリズムによって臓器移植をしたと疑われる人は、その経過観察のためのフォローアップ診療を受け付けない」と、少なくとも国内で5つの病院が表明していることが報じられました。趣旨は、海外で横行する、所謂「闇」臓器移植を根絶するための措置ということです。

1954年に米国で初めて腎臓移植が行われて以来、臓器移植の進歩とともに、貧しい人からの臓器の搾取などの問題が現れました。そうした事態に対し、2008年に国際移植学会がイスタンブール宣言を出し、
・臓器移植は自国の待機者を優先して行うこと
・臓器売買や移植ツーリズムの禁止
・生体ドナーの保護
といったことが謳われるようになりました。

日本では1956年に新潟大学で初めて腎臓移植が行われ、1997年には臓器移植法が制定されて、脳死後の臓器提供が可能となります。更に、先のイスタンブール宣言を受けて2010年に臓器移植法が改正され、
・臓器提供について、本人の意思が不明でも家族が承諾すればOK
として、海外でしか叶わなかった小児の臓器移植を国内でも可能とする素地が整えられました。あわせて、日本臓器移植ネットワークが開設されました。

それでも、日本での臓器移植の実施件数は諸外国に比べて少ないのが現状です。例えば、脳死判定ができる施設は全国で900施設程度に限られ、かつ、そのうち半数は臓器提供の経験なし。全臓器提供の半数は、64施設で対応されている状況です。これまで国内で臓器移植を受けた人は、およそ7000人に対し、日本臓器移植ネットワークに登録しながら、臓器移植を受けられずに亡くなった人は8000人。いつになったら臓器移植が受けられるか分からない焦燥感から、海外へ目を向けてしまう人がいても仕方がないと思います。倫理的に問題があると分かっていても、背に腹は代えられない事態。生きるためにと、清水の舞台を飛び降りた人も少なくないのではと想像するなかで、渡航移植後に、日本の医療に見放されてしまうのは、なんとも辛すぎます。悪質な臓器売買や移植ツーリズムは、厳しく取り締まる必要があるとは思いますが、個々の患者に対しては柔軟な対応を、例えば段階的な経過措置などがあると良いなと感じました。

渡航移植者を減らすためには、やはり、国内での臓器提供・臓器移植が進むことが重要です。積極的に推進とまで言わなくとも、需要に見合う供給体制の確保が求められるところです。脳死や臓器移植について、日本ではまだ賛否両論様々な議論が続くなか、臓器提供・臓器移植に関わるスペシャリストの方々の研ぎ澄まされた丁寧な対応に驚かされたことがあります。

臓器提供の意思表示があった本人やご家族に対するサポートや丁寧な意思確認、いざ、臓器提供実施となった際の、一秒のムダもない動き。正解が分からない難しい意思決定を乗り越えた先に、「かけがえのない臓器を提供できてよかった」「かけがえのない臓器をいただけて感謝」と当事者ご家族をはじめ関係者が皆、納得できるような結果が得られるよう、全集中で対応されていると感じました。かつて、国内初の心臓移植がセンセーショナルに報道され、それによって臓器移植への不信が高まり、日本の臓器移植が一時中断するということがありました。臓器移植が一つの選択肢として認められるためには、毎回の丁寧で地道な実践の積み重ねが何より重要で、その成果が静かにしっかりと浸透・周知されていくことが大切だと思います。(あるいは、再生医療などが更に進歩して臓器移植が不要になる未来があるでしょうか?!)

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