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2023年9月 どこかにビューン旅3(浦佐編)

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 小さな雨粒を身に受けながら、車輪を転がす。途中見かけた神社に立ち寄れば「熊野三社大神」。今年熊野を旅したばかりなので、何だか嬉しくなる。っと、この先は長いトンネルで……。まずは狭い歩道に乗り上げ走って行くが、足下に反射板の金具やら、何かの蓋が出っ張っていて、危ない危ない。かといって車道は水で濡れているし、何より車が来たときの逃げ場がないんだよなぁ……。というか経験ある人ならわかるだろうけれど、トンネル内って音が反響しまくって、車の走行音が轟音みたいに響くのです。それがどんどんと迫ってきて、結構肝を冷やすのです。ので、巨大化していく音にびびるなら短時間のほうがいいだろうと、車道に降りて素早くトンネルを抜けることに。車が来たら路肩に体を傾け、安全に抜き去れるようにしておきました。
 で、トンネルを脱出してすぐ左、「顕彰碑」と大きく彫られた石碑が。トンネル入る前にも、完工記念碑みたいなものを見かけたが、トンネルで顕彰碑って何か違和感。わざわざ二つも建てるかね。というわけでブレーキをかけて碑の前へ。「山崎ヤス子女史 顕彰碑」ご本人だろう似顔絵まで添えてある。男ばっかりというイメージが強いトンネル工事で女性の顕彰碑? 何事? と碑の裏に回れば、やっぱり由緒書きが。それによると、六日町議会初の女性議員で大月トンネルの完成に尽力された、とのこと。繰り返すけれど、男性のイメージが強いトンネル工事で、女性の、それも個人の功績が讃えられるって、めちゃくちゃ奮闘したのだろう、ということが伝わってくる。何気なく通過してしまうトンネルだけれど、こういった歴史が垣間見えることに、少し興奮を覚える。

 さて山を下り、田園地帯そのものへ。このへんは刈り取り済みの田もあれば、その直前のものもあれば。というか農道って交通量少ないわ景色は広いはで走っていてとても気持ちがいい。さっきまで降っていた小雨も今はどこかへ行った。スマホの地図を確認しつつ、今日の目的地へ。
 三国街道、塩沢宿、牧之(ぼくし)通り。雪国らしい、歩道にアーケードのついた雁木(がんぎ)造りの通りです。ここに一度来てみたかった。自転車でゆっくりと雁木の下を走ったりもしたけれど、地域の人々のためのお店が多いという印象で、観光客がすすんでお金を使う施設が少ないような……(それが良いか悪いかは別として)。
 雁木も一通り見終えて、そのまま北東へ。国道に合流するが、それはつまらないので自ら脇道に入って、何となくこっちだろてな感じで進んでいく。線路さえ渡らなければ大体目的地へ向かっているはず。っと、お役所っぽい駐車場に出た。そのまま行けば、レンタサイクルのスタート地点となった六日町駅。返却期限の30分前にゴールです。ざっくりとした旅程だったけれど、やるう。というか連日雨マークな天気予報だったけれど、二日間大した雨に打たれることなく、50kmほどのレンタサイクルでの移動を終えました。今回も天に恵まれました。ありがとうございます。
 っと、観光案内所の入り口には「本日は悪天候のためレンタサイクルは中止です」みたいな札が掛けられている。一日ずれてたら危なかったなぁ。結局使うことのなかった充電器も返却して(大容量タイプのバッテリーに変えてくれていたようで)、こっそりアプリで参加していた自転車ツアーの完走証をお見せして参加賞のミネラルウォーターをいただき、アンケートにも答えて観光案内所をあとにする。そうして昨日気になっていた駅前図書館の「本の杜」へ。入った瞬間、感嘆。木をふんだんに使った柔らかなデザインの館内。本棚の背が低いから、向こうまで見渡せて開放感も。いい図書館だなぁとしみじみしながら、ちょっとのんびり。近くに座る方が本を手にしながら、たびたびいびきを。その後隣接しているスーパーにも寄って、神楽南蛮の姿にやや恐怖を覚える。というか新米ではないとはいえ、南魚沼産のコシヒカリ5kgが2000円で売ってて、驚く。
 さて、飯食おう。店はいくつか決めてあるが、時間もあるので、それぞれの店前まで行ってみる。が、やっぱり新潟と言えばのタレカツ丼を食べたいなぁ。駅前通りの歩道アーケードを行けば(木製ではない雁木)、チェックしていなかったお店にもタレカツ丼のお品書きが。元々予定していたお店には、居酒屋っぽい雰囲気で学生さんやらが吸い込まれていく。目の前の店は、女性やご高齢の方が入っていく。旅は思いがけないというのが嬉しい。というわけで、予定していなかった店へ。地元で長く続いている洋食屋のようで、リニューアルしたのか白く明るい店内。グラタンとナポリタンが名物とのことでグラタンにはかなり心惹かれたけれど、やっぱりここはタレカツ丼で。うん、美味いのは間違いないのだけれど、渋谷で食べたタレカツ丼専門店の味ほどの感動は。まぁでも、ごちそうさまでした。美味しかった。

 六日町駅のホームでのんびりしながら列車を待ち、お昼過ぎに本来のビューン先、浦佐へと戻ってくる。まずは観光案内所でここいらの地図をいただくが、あー、これは確かに見るところが少ないような……。とりあえず、近くのスーパー二軒を物色。米の値段と、牛乳と納豆の銘柄をチェック(牛乳と納豆って、その地域特有のものが置かれる傾向が強いように思うから楽しいのです。まぁ、自分がその二品を日常的に飲み食いしているということもあるけれど)。
 で、何だ。駅西口の通称にもなっている毘沙門天にも行ってみようか。というわけで、西口へ。「褌押合い大祭」と大きな看板。日本三大奇祭なのだとか。ふんどし姿の男達がもみくちゃになるお祭りのようで。奇祭かぁ。その会場が今向かっている毘沙門様とのこと。お寺って拝観料取る場所もあるし、神社と違って今ひとつ好きになれないんだよなぁ、と思いつつ向かえば、とてつもなく古びた、けれど荘厳な感じの楼門がでんと階段の先に。あぁ、これは、と上がっていけば、苔むした石灯籠の佇む庭。いや、これは好きだなぁ……。というわけで、近くの墓所やら割としばらくお寺の境内を巡っておりました。帰りに楼門を見上げれば天井に描かれた二匹の龍がこちらをじっと。

 さぁ良い頃合い。ホテルへ向かいましょう。どうせこのあとお風呂入るし、ホテルならお茶菓子がないだろうから、血糖値を上げておくために参道の和菓子屋さんで甘い物を買っておこう。どら焼きでもあればいいけれど、と店内に入れば、志んこ餅というころんとしたお餅がここの名物のようで、新潟の味100選にも選ばれているとか。あとは小さなクレープも売られていたけれど、せっかくなら名物をいただきましょう。というわけでベルを鳴らして、お一つ下さいな。宿でお茶と一緒に召し上がりましょう。
 浦佐駅前には新幹線駅にも関わらず、ホテルが二軒のみ。片方は大浴場があったので、そりゃもう、そっちで。というわけでチェックイン。施設は所々古さを感じるけれど、清潔にされているので特に不満を覚えることもなく。まずは緑茶を淹れ、先ほどの志んこ餅をいただく。つるつるしたお餅の中の、まろやかな餡。あれ、これ、うまいぞ。ちょっと感動しました。そんなわけで血糖値が多分上がったところで、最上階の大浴場へ。わーい。誰もいない。広々。というわけで、今日も疲れを癒やします。そうして部屋に戻って少し仮眠。今日は割と歩いたので少し疲れていたのでした。

 で五時半頃にフロントに鍵を預け、日の沈みつつある浦佐の町を歩きます。コロナ以降、飲み屋の探し歩きってあまりやっていなかったから、少し懐かしい。といっても、まぁ食べたいものって実は決まっていたり。新潟だし、海鮮類が食べたいなぁと、土手を上って遠回りしつつ目星をつけておいた寿司屋へ。が、開店まであと数分なのに、店先の駐車場に次々と車が駐まっては、店内へと人が。地元の人気店のようで。ただ静かに呑みたいなぁと思っていた自分としては、ちょっと中の雰囲気は好みではないかもしれないなぁ、と予想し、予定を変更して町を引き続き散策してみることに。
 低層階のきれいめなアパートが多い。家賃はいかほどだろう、なんてことを思いつつ、スマホで飲み屋も検索。そしたら観光案内所でもらった地図には載っていない良さげな飲み屋が引っかかる。とりあえず店前まで行ってみますかぁ。それから決めますかぁ。てなわけで、ホテルの前まで戻ってきて、ちょっと川のほうへ足を向けると。おぼろげな灯り。のれんに漢字一文字の店名。瓢。ひさご、と平仮名でも。どういう意味だろう。でも、良い雰囲気。もうここで良いでしょう。といわけで足を踏み入れてみる。
続→

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