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2023年1月 中山道旅1

初日

 朝6時過ぎに起き、新宿駅へ。あずさ3号へと乗り込みます。買った駅弁は新宿弁当なるもの。内藤とうがらしを使った椎茸煮をはじめ、主に中央線沿いの名物が所狭しと(内藤とうがらし。そもそも新宿は、宿場町時代は内藤新宿と呼ばれていて、つまり内藤とうがらしは新宿の地野菜ということになります)。

 とまで書き出したはいいものの、ずぅっと筆を止めた状態でした。以前は誰かに頼まれたわけでもないのにしゃかりにきになって書いていた旅日記。前回の青森旅のあたりから、何だか旅日記を綴ることに対して億劫さを感じておりました。今回の中山道旅も、上記の一行で中断する始末。なぜか。この旅のおもしろさを旅日記で伝えたいなぁ、という欲が大きく失せていたからです。その原因はとてもはっきりしていて、まさに旅先を歩くだけの動画を投稿することが、その欲を解消する方法と成り代わっていたからです。よもやそんなことになるとは思っちゃいませんでしたが、まぁ自分の──というより、人間の心理というのはよくできているなぁと思います。

 とはいえ、動画に収めたことがすべてではありません。というわけで、以前のように馬鹿みたく長くならないかもしれないけれど、どんな出来事があったか、どんなことを思ったのかを忘れたくないので(もはや一ヶ月以上経っているけれど)、これまで通り自分のために旅日記をしたためてみようと思います。ちょっと久々に文章の勘も取り戻しておきたいし。
 というか、ご無沙汰しております。皆さん、お元気でしょうか。では、新宿弁当の続きから。

 内藤とうがらし、を使った椎茸煮。もはやどのへんがそうなのかは舌では判別できなかったけれど、甲州のソースカツは美味かったです。と、そんなこんなで笹子トンネルを抜け、八ヶ岳を眺めたどり着いた塩尻駅。あとは動画の通りです。まぁ、駅から旧中山道の一里塚、そうして縄文時代の遺跡がある平出遺跡に歩いているだけです。

 平出(ひらいで)遺跡のガイダンス棟(案内所)では、無料で火起こし体験ができたり、100円で勾玉を作れたりと、なかなか楽しそう。そうして壁には社会科見学で訪れただろう小学校の生徒たちのメッセージが整然と貼られていて、ちと読み込む。しかしその内容よりも、文字の感じからそれを書いたのが男子か女子か自然と分かり(名前で男女かどうか答え合わせ)、別に誰に教わるでもなく字の雰囲気に男女の違いが生まれるのはどういうことだろう、てなことが気にかかる。だいたいにおいて男子は乱雑な感じで(当方も同様です)、女子はやや丸く整った感じの字体。本当、何でなんだろう。
 そのほかにも一棟、煙で燻している竪穴式住居があったので、係の方に伺ったみたら主に防虫のため、つまりは長持ちさせるため、三日間ほど煙で燻し処理を施すのだとか。そうしてこの遺跡は、縄文、弥生、少し飛んで平安時代の住居が復元されているのだけれど、平安時代の住居もさして前の時代の住居と変わらぬ感じで、よくお客さんから「縄文時代と変わらないじゃん」といった声が上がるとのこと。確かに平安時代といえば、朱塗りの御殿やらの平安京といったイメージを勝手に抱いているのだけれど、あれは都の近くだけであり、遠く離れた村々では昔とあまり変わらぬ暮らしをしていた、といった話も伺う。こういうの聞かないと分からないから、やっぱお喋りだよなぁ、なんてことを思いつつ、遺跡をあとにする。

 昼飯。ていうか寒い。なら温かなもんを食いたい。駅までの道すがら人気な蕎麦屋があったのだけれど、蕎麦はせいろという先入観があるので、塩尻名物の山賊焼きなるものを求め、そのまま駅まで戻る。山賊焼き。一枚の鶏もも肉を揚げた感じの一品、つまりそれって一枚肉の唐揚げなんだろうと思いつつも、まぁやっぱ何だか食べたくなる。栄えている駅の東側のほうに提供する店は多いようで、駅構内を抜けて東口に出ようとすれば、駅ナカ、やたらと渋い感じのバー? 丸電球に「アイマニ」と明朝体で刻印されていて洒落てらっしゃる。列車を待つ、合間に。山賊焼きのランチプレートもある。あぁもういい雰囲気だし、探すの面倒だし、ここにしようと入店。足下にストーブの置かれたカウンター席に着き、お店の膝掛けを膝に掛ける(アホみたいなこと書いてるな)。当然、観光客丸出しの山賊焼きランチプレートを注文。店員さんに「ドリンクは?」と問われ、千円のランチなのでこれ以上はちょっとなぁ、と思い「水でいいです」と答えるが、ランチプレートはドリンクもセットになっていることを教えられ、ぶはっと笑う。水でいいです、って。
 で、山賊焼き。うん、美味かった。多分ワイン漬けの野沢菜?なんかもあった。ただカフェ飯っぽい雰囲気なので、量は物足りない。駅ナカなので、このまま発車時刻までのんびりと紅茶をすすりながら待つ。ごちそうさまでした。

 さて、ここから木曽の山間へと針路をとります。木曽路はすべて山の中である、です。というか今回の旅程、以前の木曽路旅とは逆となっております。そんなわけで、一年くらい前に旅した奈良井宿を過ぎ、以前立ち寄りたいなと思っていた木曽福島で下車。かつての木曽路の中では、関所があった関係上、おそらく一番栄えていただろう宿場町です(島崎藤村『夜明け前』でも大きな街として描かれていた印象あり)。
 まずは駅前の観光案内所を訪ね、地図とクーポンをもらい、かつての街道筋をなどってみることにする。が、あれ、何だか気になる感じの路地多くね? 旧中山道よりもそこから外れた小路に思わず目を引かれてしまう……。何だこの路地ばかりの町は。ちょっと薄暗い、湿っぽい感じの細い道が多いぞ。小さな階段までありやがる。あ、こっちと繋がっているのか、という感じで、本当に路地が多い。何だか無限に散歩ができそうな。っと、やたらと新しく巨大な、木組み、かつ、ガラス張りの建物。「祝 大河ドラマ登場 木曽義仲・巴御前」と、中学校とかでよく見かける県大会出場的な大きな垂れ幕がかかっていて、歴史上の人物がそういった扱いになるのかと思い、楽しくなる。中はきれいな図書館やら、公民館やら。ペレットストーブまでありました。こういう図書館が近所にあると、テンションが上がるものです。というか少し小腹が減りました。近くの和菓子屋さんで、形がくずれたか何かでちょっと安くなっている、少し堅い生地に餡を挟んだような菓子を買い、食らう。

 で、やってきました木曽福島の関所。復元された建物。資料館。観光案内所でもらったクーポンを活用し、数十円安くなりご入館。客は私だけ。「寒かったら、中のストーブつけてくださいね」とご案内。スリッパに履き替え、ぺたぺたと三間ほどの関所資料館を見て回ります。寒いのでストーブで指先を温めます。関所の仕事について色々と説明がされているが、中でも「出女(でおんな)」についての記述が多い(江戸時代、人質的に各藩の大名の妻や子供を江戸に住まわせるようにしていて、勝手に抜け出されたら困るので、各関所では江戸方面から出ていく女は厳重に取り締まった)。実際の通行手形の史料も結構展示されていて、幕末に女五人で旅に出るための手形が残っていて、こういうところからも幕府の影響力が弱ってきたということが感じられて面白い。とはいえまぁ、昔の関所を復元した建物だから、やっぱり隙間から冷気が忍び寄ってきて寒い。一部屋で小型ストーブ一つでは足りないのであります。そんなわけで一通り読み終えたし、そろそろ出ましょう。寒かったけれど、割と楽しかったです。

 さて、あっちこっちと寄り道をしつつ駅まで帰ります。16時の送迎バスに乗り、駒ヶ岳方面へ走ること10分ほど。本日のお宿、駒の湯さんに到着です。この時期の旅なので、当然、旅行支援は利用したのだけれど、木曽町独自の割引もあったようで、それも適用にして下さっていて、かなり割引された宿泊費となりました。部屋に案内され、暖房も予めつけておいてくださったものの、清潔ながらも年季を感じる宿。どこからか冷気が入り込んでくるため、なかなか身体が芯まで温まらず、玄関(ドアの内側)にあった石油ストーブを部屋ん中に移動させて、チチチと点火。あたたかや。そんでもって宿の名の通り温泉旅館なので、温泉で呆けます。露天よりも、内湯のほうがひのきたっぷりで落ち着く感じ。ええ心地です。

 さて、食堂で夕餉。前菜に木曽の漬け物、すんきを使ったピザがあり、以前の木曽路旅ですんきには酸っぱい思い出があるので、ピザ? となるものの、あれ美味しい。木曽福島の地酒も無論いただく。いろいろ出てくる。どれも美味しい。というか一人旅は自分だけで、何だかご年配の常連さん(仲居さんとの会話の様子でそうと知れる)が多い。みんな、登山でこの宿を利用する感じだろうか。少し腹が膨れ、けれどもうちっとゆっくり飲みたい気分だったので、地酒を部屋に持ち帰ってもよいですかと伺い、そのようにする。よいここち。

 そうして夜8時半ごろ、宿の玄関に集合し、宿のバスで近くのキビオ峠まで。ガイドさんが率いる星空ツアーなるものに参加です。ご年配の夫婦一組と自分だけなので、双眼鏡を手に静かに天体観測。火星がほんのりと紅いことや、わかりやすいオリオンのベルト、双子座、星雲のおぼろさ、向こうに見える御嶽山スキー場のゲレンデの明かりなんかを眺めて、はぁーっとため息を。中でも、シリウスのほんのわずかな、でも鋭い輝きに見惚れていました。
 宿へと帰る途中、行きにも気づいたのだけれど、木々に明かりを当てると、サランラップのように見えるものが巻かれていて、何だろうと思っていたら、針金を幹に巻き付けていて、熊に爪で傷つけられないようにしている、といった話を伺う。木を売るのかな。そうして当然、真冬の峠で存分に冷えたので、温泉にもう一度入ってお休みなさいませ。

2日目

 和定食な朝ご飯をいただき、九時半頃宿を出る。送迎は自分だけなので、木曽福島の関所のほうに送って欲しいとお願いし、そのようにしていただく。で、あとは以下の通り。今までの動画の中でいちばん、旅先での自分の感じが出ていると思っています。
続く→

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