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人は「見知ったもの」を手がかりに新規コンテンツに飛び込む【日経COMEMO】

【前回】は、『BanG Dream!(バンドリ!)』等で知られる企業・ブシロードの特徴について書きました。

自社でオリジナルコンテンツを制作し、アニメ、ゲーム、ライブを同時期に展開し、認知度を高めていく手法を採り、各コンテンツが、ブシロード代表取締役会長・木谷高明氏という“個人の発想”を起点にして制作されています。
その結果、アニメ業界では異色の「バンドもの」「DJもの」というジャンルが立ち上がりました。代表コンテンツのひとつ『BanG Dream!(バンドリ!)』では、売上高100億円(20年度)を突破しています。

今回は、【固定ファンがつく理由】と、【新規ファンの開拓方法】をみていきたいと思います。

■キャストと世界観の連動が、回遊するファンを作る

興味深いのは、ブシロードのタイトルには大きな失敗がなく、安定して支持されていることです。
ブシロードでは、『バンドリ!』の後続2作品『少女歌劇 レヴュースタァライト』(舞台)と『D4DJ』(DJ)を、“音楽三部作”と位置づけ、ゆるやかな形で連動させています。

どの作品も、アニメとゲームでキャラクターの声優を務めるキャストが、ステージでもキャラクターとしてパフォーマンスをする点が共通しています。

固定ファンが着く理由のひとつは《キャストの連動》です。
『バンドリ!』と、『スタァライト』『D4DJ』には、作品を掛け持つキャストがいます。
その中のひとり、愛美氏は、『バンドリ!』で主人公・戸山香澄役を、『D4DJ』で主人公のライバルユニットのリーダー・山手響子役を演じています。
ステージでも同役として、ボーカルやギター演奏を務めています。
『バンドリ!』のファンは、新規作『D4DJ』についても、“バンドリの愛美さんがキャラクターボイスとステージを務めている作品”と認知します。キャストを追うファンは、『D4DJ』のステージにも来場します。

《作品に関連性を持たせる》点も興味深いです。
アニメやゲーム、音楽周りのスタッフも、両作品を兼任するクリエイターが存在し、音楽やアニメに関連性を持たせている部分も見られます。
たとえば、アニメ『バンドリ!』作中にある、「ライバル同士が認め合った時に、こぶしとこぶしを合わせる」しぐさ。『D4DJ』にも同様のしぐさが登場します。
ファンにとっては、片方の作品だけを観ていた人が、もう片方の作品を観たときに、愛着がわくシーンだと思います。
またそうしたシーンが、「世界観」にこだわりがあるキャラクターファンの心をつかむエッセンスになっていると考えられます。

アニメを見ればゲームのシナリオがより楽しめる。ライブではキャストがキャラクターのセリフを言ってくれる。各コンテンツが連動しているので、ファンはアニメ、ゲーム、ライブを回遊することで、より楽しめる仕組みになっています。

『D4DJ』は新規オリジナル作でありながら、『バンドリ!』とキャストや世界観を共有することで、固定ファンが生まれる。これも強みだと思います。

【写真】…キャストによる大型ライブ「D4DJ D4 FES. -Be Happy- REMIX」では、アニメ第1話で主人公たちが幼い頃に見たステージの一部を”再現”。アニメと同じキャストたちが『WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~』を歌唱した。

■世代を超えて幅広い層を視野に入れる

『バンドリ!』『D4DJ』のメインとなるファン層は、「アニメ、ゲーム、声優またはアイドルに関心がある20~30代の男性」です。
一方で、『D4DJ』については、ファン層を広げていくという方針のようです。

“若い人は新しいものが好きですから、彼らに刺さるものにするしかない。この層が起点となって大ヒットする作品も定期的に現れます。
ところが、20代は層が薄いのです。トータルで考えると、20代と40代のマーケットサイズは1対4ということになる。”

新しいもの好きで大ヒットの起爆剤となるのは20代。
けれども、人口比と可処分所得を考慮すると40代のマーケットが大きい。

木谷氏の考察は、コンテンツに限らず様々な市場で共通するものではないでしょうか。
また、「女性層」の獲得も目指しているとのことです。

木谷氏は、幅広い層を巻き込むジャンルは「音楽」だと言います。
『D4DJ』の音楽ゲームについては、「カバー曲」を充実させることで、幅広い層にアプローチする戦略をとりました。
カバー曲には、歌謡曲、アニソン、ゲーム、ボカロ、Vtuberユニット曲など、実に様々なジャンルと年代の楽曲があります。幅が広いように見えて、アニメ、ゲームなどの「女性キャラクターのファン」の認知度が高いという点で共通しています。根底には、「同じ好みを持つファンが、別のところにもいるはず」という“オタクマインドの勘”があるように思います。

■人は「見知ったもの」を手がかりに新規コンテンツに飛び込む

「好み」には、年齢による本質的な差はありません。たとえば宝塚やジャニーズなどが長期に渡って継続しているのは、異なる世代に「同じ好み」が支持されているからだと言えます。

とはいえ、新規コンテンツのリサーチをすると、若い層ほどボリュームが大きい。
その理由のひとつは、大人の場合、「自分の周囲で見聞きした回数(出会いの数)」に差が出るからではないでしょうか。

『バンドリ!』『D4DJ』の中心層が「20~30代の男性」ということは、10代や40代以上、女性層にとっては「そのコンテンツで遊んでいる人が、自分の周りにはあまりいない」という状態でもあります。
周りに楽しむ人が少ないために認知度が低くなり、また、知ったところで未知のコンテンツに飛び込むことは、勇気を伴います。

『D4DJ』の場合、「自分も知っている」という安心感と、未知のものに飛び込む手がかりを与える役割を果たすのが「カバー曲」になるのです。

■課題は「画面」と「ステージ」との“段差”

最後に、ブシロード作品に限らず、キャラクターコンテンツが「ステージ」を通してファン層を広げる手法について、私見を述べたいと思います。

様々な世代を視野に入れる際に気がかりなのは、「ステージ体験」のある、なしが分かれる点です

アニメやゲームでひとつの作品をテーマにした「ステージもの」が本格化したのは、2010年代以降。女性層には『ミュージカル・テニスの王子様』(初公演03年)、男性層には『アイドルマスター』シリーズ(初ライブ06年)が早かったと思いますが、現在のように「コンテンツは、ステージ展開を目指すのが当たり前」という認識になったのは、ここ5年くらいです。

キャラクターファンの場合、「キャストには興味がない」「作品は画面の中で楽しみたい」「会場でペンライトを振ることに喜びを見いだせない」という人のほうが多数です。

キャラクターとリアルが連動するコンテンツは、近年大きな盛り上がりを見せています。けれどもそれはまだ「ステージが好きな人」から見た盛り上がりなのかもしれません。

連動コンテンツにとって最大の課題は、「二次元(ディスプレイ)のファンに、三次元(リアル)のステージを体験してもらう」という“プラットフォームの越境”にあるのかもしれません。

ちなみに今後は、そうした段差を埋める役割を「キャストの動画配信」が担うかもしれないと私は考えています。そちらについては、考えがまとまったらまた書きたいと思います。

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