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繰り返し見られる映画とは、観客自身がコンテンツになれる映画である【連載4・オタク視点で見るアニメ】

さて前回、映画館で始まった「応援上映」が、「映画館マーケティング史に残る革命」(大げさ)だったと書きましたが、その理由をお伝えできればと思います。

私は『KING OF PRISM』シリーズ(以下「キンプリ」)の応援上映が好きで、何十回も通っていますが、その理由のひとつは、毎回違った体験ができることにあります。

映像に向かってペンライトを振って、キャラクターにかけ声をかける応援上映は、上映時間帯や上映回数、お客さんの層によっても違いが出ます。プリズムジャンプがまだ飛べないキャラに\できるよー!/とか声がかかるのも面白いですが、ペンライトを使った「仁」というキャラ名が暗い客席に浮かんだときの衝撃たるや……。これにはペンライトの他に協力してくれる隣の席の人が必要で、「イ」と「二」で作ります。文字を作るために、見ず知らずのお隣さんに話しかけることもよくあります。

この春の新作『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』では、大阪の劇場で、友達同士で縦の列に席を取って、キャラクターが通り抜けていく幾つもの鳥居をペンライトで表現した回もあったそうです。大阪、さすがネタの宝庫! 静岡の映画館では、静岡出身設定のキャラがセロリの話をしたために、映画館側が、ペンライト代わりに振ることができるセロリの食品サンプルを貸し出していたそうです。語れば語るほど、「???」となるのが「キンプリ」応援上映の魅力でしょうか……。

ここでお伝えしたいのは、応援上映の楽しみは「お客さんのリアクション」であり、映画としてエポックなのは、「コンテンツをお客さんが作る」点です。

観客が映像にツッコミを入れて、そのリアクション自体が集客のコンテンツになる流れは、おそらく「ニコニコ動画」から来たものだと思います。

前回お話した映画館の“ライブ感”ともリンクしているのですが、映画館での鑑賞が「その場でしか体験できない」ライブ感を伴ってきたのは、インターネットによるところも大きいかと思います。

近年、『この世界の片隅に』などのミニシアター系映画のヒットが増えています。それはSNSの口コミによるところも大きく、口コミで評判になった映画に出かける→その映画を見に行ったレポートを上げる→それを見たお客さんが出かける という連鎖で観客を増やしました。また、世界に浸るため、感想をたくさん書くために同じ映画を何度も観に行くお客さんも多くいます。

SNSの口コミは、レビューやレポートマンガなど、それ自体がひとつのコンテンツだと言えると思います。「繰り返し見られる映画は、お客さんがコンテンツを発信する映画でもある」とも言えるかもしれません。

口コミを実際に動員に結びつけるのは、デジタル化したシネコンの役割です。
アナログ時代は、フィルムを1本買ったら、その1本を同じ座席数のハコで、座席が満員でもからっぽでも期間が来るまで上映するのみで、もしキャパオーバーになってもそれ以上座席数を増やすことはできませんでした。
今はデジタル化のおかげで、幾つものハコで同時に同じ作品を流すことができるようになりました。そして観客の数に合わせてハコを組み替えることができるので、うまく取り回せば、朝昼夜と常にハコの7~8割の座席が埋まってくれる……ということも可能になりました。

大作映画だけでなく、小規模上映でも、SNSを通した口コミで評判が広がったり、お客さん自身がコンテンツの発信者になれる。
今の時代の映画のあり方は、新しい時代の豊かさを表している気がするのです。

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