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ひとりで海に逃げた話


 なんだか、妙にずっと、生活のなかに多くの不満があった。
 その正体もわからないし、不満を抱いているのだから、解消に取り組めばいいことは、ようく分かっているのにも関わらず、本気にもなれない。
 学校は春休みが延びて、いいような、悪いような。けれど家にずっといたって、できることは限られている。
 先輩が卒業して、次は我々が担っていく映像概念たちへの愛情も湧かなくて、つらくて、誰かに話しても解決のできないことが様々溢れて、しまいにはなにも始まってないし、なにも終わってもないくせに、些細なことで一喜一憂して、精神が知らずのうちに、すり減っていた。

 ここまで来ると、人ってたぶん、諦めるってことをする。

 だって突然、海行こう!って言ったら、あれほどうんともすんとも言わなかった意欲チャンが、「かまへんかまへん」と肯定してくれた。お金がないのに、残金ゼロ円まで貯金を崩して、海にいった3/27の日記。

 長くなるけど、付き合って。


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 江の島と鎌倉を結ぶ、江ノ電と片瀬江ノ島駅までが何度でも一日乗り放題のこれ。存在を知ってしまったのは、あ~なんか蕎麦食べたいな。海みたいな。家から逃げたいなって、ネットサーフィンしてたときだった。
 小田急線のホームページみたら、なんだかもう、行くしかない気がして、二日前に計画をじわじわとたてた。

 どうしても海が見たいって衝動で、突発的にたてた計画だったから、ほぼ無計画だったけれど、気になる場所とお店だけピックアップして、朝8時に家を飛び出して小田急線に乗った。
 何気に初めてじゃないか?小田急!とテンションをあげまくっていたけれど、下北沢に行くために割としょっちゅう利用していたことを思い出して勝手に気分下がった。つまらないやつ。面倒くさいやつ。


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 藤沢で江ノ電に乗り換えて、七里ヶ浜に向かった。
 10時。いつもだったらまだ家でだらだらして、ぐずってる時間だな。

 ひとりでどこかに行くと、考える時間ができていいなって思うんだよね。何かを見て、感じて、じっくり考える時間がひとりのときはある。ひとりのときじゃないと、なかなか難しいことだろうな。
 けれど、新たな気づきとか、生じた激情を緩和して共有するのは、誰かがいないと難しい。どちらもおなじようにして、いつくしむべきことだね。


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 七里ヶ浜で降りると、なんかもう、笑っちゃうくらい強風。笑いたいけど、向かい風が強すぎて、むしろ息ができない。心の中は大爆笑だった。
 台風でも来てるのか?
 近くのコンビニに寄っていろはすを買って、海岸におりると、コンビニ前で感じた強風が笑っちゃうくらい、レベル+100000000になって全身を殴りに来た。もうここまで来ると笑えないけど、曇り空だけど、嬉しいことに全然寒くない。
 念願の海を見て、匂いを吸って、毎度思い起こすのは東日本大震災のことで、あれだけ怖い思いをしたのに、なんだかんだ海がどうしても好きで仕方がなかったんだって、思う。ヘヘヘ書いててなんか恥ずかしヘヘヘヘ。

 誰に聞いたかも覚えてないけれど、もうずいぶん昔に、人は本能的に海が好きなもんだよ、母親のはらのなかを思い出すだろって聞いた。
 思い出すわけねえだろ、って思った。でもそういうことを言ってるんじゃないっていうのは分かる、母なる海ってよく聞く。
 生命の原点の海を、これほど渇望して、自分でそこまで歩いた事実ばかりが、そのときは嬉しくて、昔よく母親が連れて行ってくれた湖を思い出して、目の奥がジーーーーンとしちゃった。


 いつも、脳みそのおくのほうでは、恥ずかしいくらい汚い軽自動車を降りて、湖の白鳥にえさをやる母親が、こっちを見てる気がしている。
 妙な残留思念には、憎悪も愛も感じない、ただ存在だけが浮き彫りになって、ついには自分の意識を海まで運んでしまうんだな。

そして、やっぱり私は海に来てしまった。母親っていつもそう。


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 風が強すぎて、正直若干ビビった。
 風が強いがすぎて、ワンピースからはみ出たすねが、顔面が、痛くて、大丈夫かなと思っていたら、よくよく考えればその痛みは風ではなく、風によって運ばれた砂のせいだった。ひよって、逃げた。

 七里ヶ浜から、鎌倉へ。
 割と午前中ということもあって、人はあんまりいない。こんな時期っていうのもあるよね。そこから、約一か月前くらいから蕎麦が食べたくて仕方がなかったので、お蕎麦屋さんを探す旅へ。
 鎌倉駅から小町通りに入って、三十分くらいかけて、のんびり離れていく。途中桜が咲いてるところがあった。七分咲きくらいかしらね。
 こんなに桜がきれいな時期を、人はいま家の中で過ごさなきゃいけない。大事なこととは分かってるけど、どうも切なくなるね。本当ならもっとたくさんの人に見てもらえる桜のことを、そう思うのは、やっぱ日本人だからなのかなあ。

 だらだら歩いて鎌倉宮前のお蕎麦屋さんに入った。
 11:30。恐らくだけど開店したばかり。だって、だ~れもいないんだもの。びっくりしちゃった。

 メニューを見たら、なんと「にしんそば」の文字!
 よくわからないけど「にしんそば」を見たら気持ちがあっという間に「にしんそば」になってしまった。普通に、せいろ蕎麦を食べればよかったのに、もう気持ちが、口のなかが、あつあつの、しかも甘くてほわっとして、ずるずるすする、あれになってしまったのだから、仕方ない。
 私は即決してしまった。優柔不断じゃないでしょ?って言われるたびに、そんなことないよ!ってニコニコしながら返す私の人格は死んだ。

 そして私は裏面を見てしまった。ビールあるじゃん!ビールあるじゃん!なんかしかも「地域限定」って書いてあるじゃん!「ここでしか飲めない!」とか追い打ちをかけるじゃん!たぶんネットで探せばいくらでも取り寄せられるだろうし、なにかの物産展とかでも絶対に買えるけど、そんなことはもうどうでもいいじゃん!

 にしんそばと鎌倉ビールなるものを注文した。
 するとお店の人が、鎌倉ビール「星」と「月」ありますけどどうしますか?って聞いてくるの。
 なに……? 星……? 月……?

 続けて、お蕎麦に合うって言われているのは月です! なんていうもんですから、じゃあそれでおねがいします。
 あとあと調べたら、星はペールエールで月はアルトビールらしいですよ。
 私ペールエールあんまり得意じゃなかったから、ラッキーね。

 ガチガチにヒエッヒエのビールがグラスと共にテーブルへいらした。

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 おいしすぎて目じりに涙出た。 
 最初の一杯いつの間にか消えてた。

 お酒は、そんなに好きじゃない。
 って、さんざん、いろんな人に言うのは、大勢の飲み会を避けるためだった。最近、よく大勢で飲み会をしたりすることが多かったけれど、薄々気づいてはいたが、私はやっぱりそういうところが向いていない。いろんな人と話すきっかけになるよ、と人はいうけれど、誰かとはじめましてをするなら、できるだけ丁寧に、もっと違う場所がいいって思う。

 誰かを知るためにお酒を飲むのも、もう悪いこととは思ってないけれど、私はやっぱりもう少しゆっくり、たくさんお話ができて、たくさんお話が聞ける、気づいたら時間が迫ってきてるくらいが、本当に、ほんとうに、望ましい。

 私は、たぶんお酒のこと、嫌いじゃない。酔っ払いは嫌いだけど。そして、大声をあげたり、人に迷惑をかけたりする酔い方をする人とか、もっと嫌い。だってそもそも、そんな風に酔いたいわけじゃない。

 ひとりでおうちでお酒を飲むけど、その時はおいしいなって思う。気の知れた人とこっそりしたお店で、飲むときも、楽しいなって思う。そういうときって決まって、私とあなた、と、お酒くらいしかないから。そのくらいが丁度いいし、気持ちも楽。
 考える余裕がある、感じる余裕のある、そんな酔い方がいいな……。
 まあ、ここまで言うけど、正直あとは結局人よね。人との相性。これに限るわ。はい。


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 にしんそば!!!うつわから!!!はみでてる~~~!!!!!!!あっという間に無くなったし気づけばビールは消えていた。ごちそうさまでした。
 きれいなカウンター席と、テーブル席とお座敷があって、そんなに大きなお店ではないけれど、鎌倉宮のまえにある静かなおそばやさんです。


「手打そば 鎌倉宮前」
  〒248-0002
  神奈川県鎌倉市二階堂93−14
  https://note.com/watanabekun/n/n164d94fe56f3/edit


 ほろよいで、のんびり、北鎌倉まで歩いた。30分くらい。
 途中やっぱり桜がきれいで、何回か写真を撮ってしまった。


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 道中、いろんなお店もあったけど、自主的に閉めているところも結構あった。本当は、鎌倉文学館に行きたかったんだけれど、休館していたので、葉祥明美術館に行くことにした。
 ジョージアン様式の派生型の建物らしく、設計は葉祥明氏自身が手掛けたものを元にしているらしい。場所はあじさいで有名な明月院の近くなので、もし行く機会があれば、是非立ち寄ってみてほしい。

 建物のなかは、葉祥明氏が手掛けた絵本の数々や、油彩、水彩に限らず多くの絵が壁にたくさんある。座って絵本を読むことができるスペースがたくさんあるので、ちょっと休憩な気持ちで寄ってみてもいいかもね。
 なかは静かで、設置されている椅子のどれもがかわいくてびっくりする。

 しかもこの美術館。猫を住まわせている。ポイントが、高い。


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 東日本大震災がテーマにされた絵本があった。あれから10年だって。
 私はいつの間にか大人になったけれど、あのときまだ、小学校5年生の、幼くて柔らかい子供心に大いなる力をもって、えぐり傷をおみまいされたできごとを、いつまでたっても新鮮に、鮮明なままに、覚えている。寂しくて仕方がなくて、怖かった。

 「海からの風」という絵本を見つけた。

人生につかれたら
生きるのが辛くなったら
海にいらっしゃい
人気ない海辺に
一人佇めば
心が安らいでくる
広々とした空と海が
小さくなっていた
君の心を優しく広げてくれる

 出だしから、私が海に逃げてきたことを、はじめから知っているみたいなこと書いてあるから、思わず閉じちゃった。買ったんだけどね。
 葉祥明美術館のことは、また別の投稿で詳しく書こうかなって思う。

 海のこととか、母のこと、赤ちゃんのこと、全部探していたことの解明をくれたような気分になった。
 久々に絵本を見たけれど、変に気張らないで読めるのがいいところだなと思う。ちょっとまえ、近所の幼稚園や保育園に、絵本の読み聞かせに行っていたことを思い出した。
 こどもたちは、絵本とか、私の声のことまで素直にずっと聞いていてくれて、たまに園外で私を見かけると声をかけてくれたり、喜んでくれたりしていた。優しい。あの優しさを素直に愛していたのを、忘れてしまうもんなんだな。思い出せてよかった。

「葉祥明美術館」
  〒247-0062
  神奈川県鎌倉市山ノ内318-4
  https://www.yohshomei.com/


 絵本を読んで感動して、ほろよいが抜けたところで、おやつを食べることで人生はよりよくなるってばっちゃんが言ってた。
 そう歩かず、明月院の方へちょっぴり上っていくと、いいお店があるんです。


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 薄々気づいていたけど、やはり私写真がそこそこ下手だな。

 こちらには、実は前々から来たいと思っていたところで、ウサギサンのあったかいお饅頭が食べられるのだ。ウサギサンはいいよな。近くが明月院ということもあって、ウサギサンモチーフのものがたくさん置いてある。

 西日の入る午後の窓際の席で、ウサギサンのあったかお饅頭抹茶セット(こんなセット名ではありません)を注文した。


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 ワ~イウサギサン!!ウサギサン!ウサギサンダ!!!ウサギサ・・・・・・・


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 (ウサギサンか……?)

 たぶん、あんまりコンディションが良くないんだと思う。是非、茶寮風花と調べてみてほしい。ひたすらにかわいいウサギサンが見れるので。

 途中、カップルが入店して、外にある赤い傘の下のテーブル席でウサギサンを食べているときだけで、そのほかに閉店までお客さんはやってこなかった。そう、閉店まで。なんと、閉店まで私はここにいた。時間にしておよそ、3時間ほど。

 どうやら、やっぱり暇らしい。こんな時期だから。そう、こんな時期だから。
 私は見た目が派手だ。髪が緑色だし、服はたしかに流行りのものというよりは、変なワンピースを好んで着る。ごついカメラを持って、ひとりでぶらぶらしていては、そりゃ、若干、目立つ。

 店主さんは、その昔、美大に進学するのが夢の、絵を描く人だったらしい。だから、美術・芸術を彷彿とさせる人を見ると、話しかけたくなってしまうと言っていた。見た目だけで言うと、確かに私は美大生によくいるタイプのそれ。店主さんはカメラもたしなんでいたそうで、昔のことから、今のことまで、いろいろなことをお話してくれた。

 私もどうせノープランだったし、のんびりしてから帰ろうと思っていたところだったから……つって話してたら3時間よ。

 最近は漫画家のほうが絵がうまいかもしれないとか、不景気になってきて、持っているマンションの家賃が入らないとか、カメラは今はミラーレスが主流になりつつあるとか、芸術にかかわる人は図々しく生きるが吉だが皮肉だとか、最近の建物は人には早すぎるとか、古民家のリフォームは意外と安いとか、いろいろ、いろいろ……。

 話している最中、店主さんが「お客さん石原さとみに似ていますね」といった。そして付け足して「私は目が悪いんですが……」といった。なんだ?ジョークか?笑ってやろうか?と思ったが、たぶん、きっと楽しくて、幸せだったから、そういう風に一瞬でも見えたってことなんだろうな。

 自分の容姿になんの自信もないから、派手な髪色をしてみたり、変な柄の服を着たりして、見栄を張っている。ような気がしている。
 けれど人前に出れるように、化粧をしたり、髪を整えたりしているのだ。人間らしくあるために。それが、認められた気がして、嬉しかった。
 決して、みてくれは良くない。ずっと、たぶん、死ぬまでコンプレックスだけど、自分らしくあれるように日ごろ努力している。と、思う。こんなところにまで、自信が持てないくらい、臆病だ。
 でも、やっぱり、それが何かの形で、私の理想に近づいているのだと知れるのは、やっぱりうれしいね……。

 「お客さんは若いですから、ずっと、いいことができますように」

 と、別れ際言ってくださった。また来てくれとは言いません、一期一会って悪くないと思います。って。でもたぶん、いつになるかわからないけど、また来ますって伝えた。

 楽しかった。ほんとう、楽しかった。

「茶寮風花」
  〒247-0062
  神奈川県鎌倉市山ノ内291
  https://kamakuratoday.com/shop/kazahana.html


 それから、またのんびりと鎌倉駅まで歩いて戻った。
 この日は夕方から雨と言われていたけど、ありがたいことに一度だって降らなかった。嬉しいね。

 歩きながら、ふとちょっと前に、親から言われたことを思い出した。
 妹が春から上京するにあたって、ガス引きの立ち合いに東京に来るというから、郵送しようとしてた書類を手渡しさせてほしいと電話したら、「お前に会いたくない」「お前といると本当に疲れるんだ」と言われた。

 口が開いた。うんも、いいえも言えずに、ごめん、ポスト入れておくね。と言ってしまった。なにも、私が屈する必要はないのに。
 単にショックだったし、心がボキボキバキバキになった。ああ、私そんなふうに思われて、すぐそこに来ている親の顔をたった数分見ることもできないのか。と、思うと、私というものが本当に嫌になってしまった。

 自分が面倒くさくて、疲れさせてしまうような、不安定な性質をした人間であることは理解している。そういわれても仕方ないけれど、親にまでそうやって遠ざけられる日が来るとはと……。
 元から、古い考えのひとたちだった。私の家族っていうのは。家族が一番!家族優先!男優先!って感じの。そのくせ、家族に対しての態度はみんな薄情。矛盾していた。最初から、そう思って嫌だったのなら、もっと私が柔らかくて、かわいらしかったころに言ってほしかったな。

 思い出して、涙が出そうになったあたりで、知らないおじいさんに声をかけられた。

 「今日はどこまで言ったんですか」って。
 横浜から来たらしい。私は今日あったことを簡単に話して、あそこがきれいだったとか、海が強風で怖かったとか、八景島の丼屋さんがおいしいとか、特に大事でもないようなことを話しながら、鎌倉駅へ歩いた。へんなひとだなって思ったけど、たぶん、向こうもへんなひとだなって思って、声かけてくれたんだろうと思う。

 些細なことかもしれないけど、一人で歩いているとこうやって、いろいろ思い出しては深く考えてしまうから、真新しいできごとって意外と大事だ。
 止まらなくなってしまう前に。

 これといって、特別な話はしなかったけれど、鎌倉駅前で別れて、そのまま江ノ電で江の島駅に行った。
 ずいぶん日が暮れてしまったので、どこか夜ご飯が食べれないかなと、江の島にとりあえず降りてみたんだけれど、人が!いない!
 若干、降りだしそうな空模様と、週末の外出自粛要請の波もあって、たぶん人は少ないのだと思う。
 暗くなった駅前通りを歩く。

 秋に、この江の島で撮影をしたことがあった。そのときに撮った浜辺を通り過ぎて、まっすぐ歩いて、とりあえずやっていたお店に入る。

 「生シラスあります!」
 の文字を見てしまったので正直、からだは吸い込まれていたに近い。
 店内に入ると、がさがさのラジオが流れていた。厨房からおじさんが出てきて「いらっしゃい!こんな時間までなにしてたの!」とずいぶんデカい声で言ってきた。店内はだ~れもいなかった。

 ちょっと驚いたけど、ずいぶん自然にいうから、気が抜けて「ぶらぶらしてたら暗くなっちゃった」と言ってカウンター席に座る。
 どこに行ってきたの?とかめちゃめちゃ聞かれたから、聞かれないところまで話してやった。
 その全部を、丁寧に聞いてくれて、「そっか、今日は頑張ったな!疲れたでしょ!おなかすいてる?ちょっと大盛りにしてあげる!生しらすまだ残ってるよ!」だって。

 あったかいナ~。


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 そこにいる私が、いくらでも自然なことみたいに、いいや、自然なことなんだけれど、ずいぶん不思議なことなんて何もないみたいに、接してくれて、しらすがおいしくて、味噌汁があったかくて、かき揚げがさっくさくで、もう、幸せの詰め合わせセットみたいで、ごはんがずっとおいしかった。食べ終わるまで、ちょっと離れた席でずっとお話聞かせてくれていたし、私は、その時間のことをどうもあったかすぎて、忘れられない。

 やっぱり自分のことを、ひどい重しみたいに思ってる。
 不安定で、うるさくて、口だけで、面倒くさい、ひねくれたやつ。こんな人間のなにがいいんだろうって、自分のこと思っている。そういうふうに、生きてきたんだと思う。だから、それ以外に、今更なれない。
 でも、それ以外になろうとして、いいことなんてなかったし、あれだけ石橋を叩いて渡るように生きれば生きるほど、悲しくなることばっかだった。
 だから、こんな日みたいに突飛で、無計画で、乱雑に生きてみる日が大事かもしれないと思った。
 出会いが多いことは、大事だ。それは飲み会の席でしか生まれるものじゃないはずだと、ずっと馬鹿みたいに真面目ぶった私が、ちょっと報われた気がして、本当に、安心した。

 なによりも、この日はずっと、ほっとしていたんだよね。怖いものもないし、嫌なものもなかったから。

 

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 甘いもの食べると疲れがとれるよ!
 と言ってもらったこの飴。藤沢駅に着くころにはなくなっちゃった。おいしかったです。

 どこのお店か覚えてないや。突然入ったからね。


 長々書いたけど、東京から電車でほんの一時間。
 その程度で、見たいものも得たいものもあったな。やっぱりずっと東京にいたいな。って、思った。

 生活に、感じていた妙な不満っていうのは、たぶん全部蓄積された些細な奴。それって解消するには、忘れるの一手なんだろう。忘れられたらどんなにいいかって、あれほど思ったけど、忘れるばかりじゃなくて、こうやって上書きできる一日を作って、なんも考えないで、一瞬でも幸せだなって思えたら万々歳だよね。

 ここまで書いて、ほんとはめっちゃ恥ずかしい。なんでだろうね。めちゃくちゃ恥ずかしいな。でも、本当に楽しかったから、共有させてほしかったの。それだけ。

 しんどくなって、嫌になったら、ちょっと遠くに行ってみるのもいいね。そんな話。海に逃げたけど、結局海は風が吹いているとちょっと怖かったって話。

 あ!でも正直ひとりで一時間電車乗るの慣れてないから、その時間はめっちゃつまんなかった!
 だれかと一緒に行けたら、たのしかったねってお話しできるんだろうな。今度は一緒に行こうね。
 そんな人がいたらいいな。

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