製本道具の話-刷毛
こんなに巨大な刷毛もあるんです
のっけから写真を出してしまいます。
長さというか巾が35mもある巨大な製本用の刷毛です。めったに見られるものではありません。この刷毛、当社にあるものではなくて、いつも仕事をお願いしていました手丁合専門の職人さんの持ち物で、前から興味があったので借りてみたときのものです。残念ながら、その匠は2021年の春に急逝されてしまいました。
ただし、その奥さん(僕はお母さんと呼ばせてもらっています)もとても仕事ができる方で、今でも機械で出来ない丁合や貼込は、お母さんにお手伝いしてもらっています。
上の写真の小さいほうの刷毛は六寸刷毛といって、当社の膠用のものです。それと比べても、大きさが分かると思いますし、次の写真で並んでいる本はA4判(約30cm)ですのでいかに巨大かがよくわかりますね。
これはB4判サイズの貼込(のり差し)に使うためのもので、1回刷毛を差すと一度で全巾を塗ることが出来てしまうというすごいものです。
製本用語事典での刷毛の説明でも3寸・4寸・6寸・8寸(24cm)の4種となっていて、こんなに大きい刷毛の記述はありません。
手に持ってみると、いかに大きいか。そして、結構重いのです。これを自在に操るのは、やはり慣れた熟練の職人さんでないと無理でしょうね。
話は飛びますが、コロナ禍になる前の話ですが、イタリア・フィレンツェで製本工房をなさっている知己のあるお二人がうちの工場を訪ねてくださいました。その際、日本の製本用の刷毛の、のり差し用・膠用・ボンド用と別れているその多種さに驚かれていました。
ヨーロッパではこれほど製本専用の刷毛はなく、一般の塗装用の刷毛の中から使い勝手の良いものを選ぶことが多いそうです。
日本は古くからの毛筆の文化があり、色々な動物の毛で筆を造る技術が根付いていますから、製本用の刷毛などもできたのでしょうか?それとも日本人特有の物を極める性格からなのか・・・・?
弊社でも、最近は写真の熊の毛の刷毛なども余り使わず、プレスチック製の安価なボンド用刷毛を使うことがもっぱらになってしまいました。
木製の本刷毛は、使用後の後始末も丁寧に洗って、良く乾かさないと、次に使うときに大変になってしまいます。手間がとてもかかるのですが、でも、せっかくあるのですから、いいものは大切にしなくてはいけませんね。
(記事担当:社長)
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