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Vol. 1 夜明けのステップファミリー   「卵焼きは甘いか、しょっぱいか」

我が家は、父子家庭と母子家庭が一つになったステップファミリーだ。長女(17歳)は俺の実子で、長男(15歳)は妻の実子で、次女(6歳)は俺と妻の子だ。複雑、凸凹、不協和音も生じる面倒な関係だけど、ぼちぼち幸せ。令和版ステップファミリーの生き方を探るシリーズです。


朝の食卓は忙しい。
高校3年の長女は6時、中学3年の長男は7時半、年長さんの次女は8時に起床。俺は長女の弁当を作るから6時前には起きて、キッチンに立つ。妻は基本的にというか、デフォルトがグータラな性格なので惰眠をギリギリまで貪って、7時過ぎに起床。「みんな違って、みんないい」と俺は思っているから、向田邦子が描く昭和の食卓みたいに、朝から家族全員が揃って朝食をとることはまずない。

料理は子供のころから好きで、家族の食事の9割は俺が作っている。残り1割は妻が作るが、期待はしていない。料理が苦手で、嫌いな人に、ご飯を用意してもらおうとは思わないことだ。ステップファミリーに限らず、夫婦は何事も割り切るのが肝心。相手の苦手科目を認め、過大な期待はあえてしない。期待すれば、外れたときの心持ちが均衡に保てない。とはいえ、全面的に苦手科目を請け負わないことも大切で、「今日の晩御飯は何にする?」と常に妻に問いかけ、コミットさせることを心掛けている。そう、行動をナッジすることが重要だ。

長女のお弁当は誰が作るべきか。
高校入学から長女のお弁当生活が始まったが、当初は、妻が、実子ではない長女の弁当を作れば、なかった母娘の絆ができ、深まるはずと思っていたが、その目論見はすぐに外れた。やはり、料理は彼女の苦手科目で、絆うんぬんの問題は置いて、作る気が起きないらしい。一度だけ、作ればいいじゃんと口論になったことがあったが、その際、妻は不貞腐れていやいや弁当を作った。その弁当を見て、やはりこれは期待しないほうがいいと思った。それは、ご飯の上に焼き鮭がドーンとのっかり、隙間を埋めるように昨晩の残り物の「酢の物」が敷き詰められているだけの弁当だった。おお、まじか、こんな家畜の餌みたいなもんを長女のために作ったのか。嫌がらせか、と思ったが、長女はできた性格なので、仕方がないよね、ママの機嫌が悪くなるから食べるね、と学校へ持って行きおいしく食べたらしい……。その一件から、長女の弁当は俺が作っている。

ただ、ステップファミリーの人間関係が複雑なのは、妻は、実子である次女のためには嬉々として弁当を作るということだ。長男は学校給食がある中学なので、作る機会は少ないのだが、次女の幼稚園はほぼ毎日お弁当で、妻が作る。凝った弁当ではないが、ときどきキャラ弁も織り交ぜ、インスタに載せては自己肯定感をみんなにせがんでいる。長女の弁当は作らず、次女の分だけ作る?  この差はなんだと思うのだが、やはり実子との絆は深いようで、本能として行動するのだろう。ここで目くじらを立てては不協和音が大きくなるだけなので、あえて深堀りはせず、実子のために愛情いっぱいの弁当を作るのは母親のサガと考え、割り切ることが肝心だ。自然の摂理に抗ってはいけない。

もっとも、ステップファミリーの人間関係がさらに複雑なのは、俺は、等しく子供たちのために弁当を作ってあげたいと考えていることだ。長男は好みが激しく、苦手な食材も多く、嫌いなものは頑なに食べようとはしない。一言でいえば、面倒な舌をもっている。それでも、その舌を喜ばせようと、俺はあえて作るようにしている。なぜなら、実子ではないからこそ、俺が愛情を込めて弁当を作ることで、父と息子の絆を深めたいという思いがあるからだ。加えて、単純に料理が好きだから、料理が苦手な妻が作るより俺が作るほうがキッチンも汚れず合理的だから等々、さまざまな思いがある。ああ、面倒くさい。なんでこんなに面倒くさいんだろう。でも、それが、ステップファミリー。このカオスな感情を飼い慣らし、泣き笑いで抱きしめることがステップファミリーの第一歩になる。


おかず一つとっても、面倒くさい。例えば、卵焼き。妻が作る卵焼きは、義母譲りで甘い、ものすごく甘い。逆に俺が作る卵焼きは、実家譲りでしょっぱい。無論、長女は俺の味付けが好きで、長男は妻の味が好き。その塩梅を取るのが、また一苦労だ。

どっちの舌に合わせるべきか、迷う。迷って、迷って、試行錯誤した末に、ようやくたどり着いた味がある。そう、それは、だし巻き卵。甘くもない、しょっぱくもなく、旨みがたっぷり。この味だと、長女と長男も妻も大好き(次女は微妙)。つまり、だし巻き卵は、二つの家族、二つの文化が溶け合い、昇華した味なのだ。ああ、積年の悩みに終止符を打つ救世主よ、だし巻き卵……。

なんて、声色を変えて言うことでもないが、これはうまくいった例であって、ステップファミリーにおいてバランスよく塩梅が取れることは、ほとんどないと言っていい。一方を立てれば、一方が傾く。一方をヨシヨシすれば、一方がスネる。家族だから、絆だから、愛だからと大きな言葉でまるく収まらないのがステップファミリーで、常にいびつで、複雑。とにかく、ここでもまた、多様性を抱きしめ、面白がらなきゃ。そこから、ステップファミリーは輝きだす。



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