見出し画像

②映画『ロードオブザリング』から学ぶ教育〜PBLについて〜

流れ

chpter.1 本記事の趣旨

chpter.2 映画『ロードオブザリング』とは

chpter.3 教育用語(PBL)とは

chpter.4 ロードオブザリング×PBL

 chpter.5 まとめ

chpter.1 本記事の趣旨

さあ、ついに教育(education)×映画(cinema)つまりEducinema(エデュシネマ)を実験してみたいと思います。

今回の記事の目的は3つあるので先に示しますね。

目的①読者の皆さんに、今までとは違った学校教育観(とくに義務教育課程)をもってほしい

目的②ロードオブザリングというミラクル素晴らしい映画に興味を持ってほしい。

目的③PBLという学習理論について、ちょっと興味を持ってほしい

では、長くなりますがお付き合いお願いします。

chpter.2 映画『ロードオブザリング』とは

「1番好きな映画なに?」と聞かれたら、ロードオブザリングと答えます私。

作品概要ですが、

2001〜2003年までの3部作です。ファンタジー映画で唯一全作品アカデミーノミネートされてて、3部目に至ってはその年のアカデミー賞作品賞を獲得してます。かなりdopeな映画です。狂ってる偉業です。

原作は『指輪物語』という有名なイギリス文学で、昨今の文学界、映画界、アニメ界、ゲーム界の『ファンタジー』という概念を創り上げたパイオニアです。すごいですねぇ。

あらすじですが、

中つ国という世界観が舞台です。邪悪な魔力を秘めた指輪をたまたま手にした、ホビット族のフロドという人物がいます。

彼がその指輪を破壊するために、『滅びの山』という火山を目指して旅するストーリーです。

その道中に味方やら敵やらに遭遇して、あっちゃこっちゃあるという映画です。

上のザックリしたあらすじだけ読むと、「子どもっぽい話」「いかにもファンタジー」「作り物感がすごい」と思う人もいるかもしれませんが、

いやいやいやいや。そんなことない。俄然オススメします。

chpter.3 教育用語(PBL)とは

PBLというのは

Ploject Based Learning(問題解決型学習)の略称です。プロジェクト型学習とも言われたり。

問題の解決に向けて、子どもが学びのストーリー(プロセスや手段)を自分で組み立てていく学習スタイルのことです。

ピアノ弾けるようになりたい!(問題)があったときに、そのためにどうするかというストーリー(音楽教室に通う、YouTubeで動画を見る、知り合いに教えてもらうとか)を子ども自身が組み立てていく。そんなイメージです。

ポイントは

①子どもには解決したいと感じる問題がある

②基本的には、一方的に何かを教えてくれる人(教師)はいない

③解決のための学びのストーリー(プロセス、手段)は子どもが決める

ということです。

相反する用語として、

SBL(Subject Besed Lerning 科目進行型学習)があります。

子どもがスキル(知識や技能)を教師に教えてもらって、暗記するような学習スタイルです。つまり大半の日本人が受けてきた教育です。

ピアノを弾けるになりたい!と思ったら、教師に教えてもらいます。そのとき学びのストーリーは教師が組み立てることが主です。(ドレミを覚える→音符を読めるようになる→鍵盤を弾いてみる、、みたいな)

主に日本の公立学校はSBLで学習が進みます。日本では明治以降ほとんどSBLが学校教育の主たるシステムです。

本来、PBLでもSBLでも学びの主人公は子どもです。しかし、SBLでは主人公が教師に逆転しやすくなります。上のピアノの例のように、教師が学びのストーリーを組み立てるからです。子どもはそれに従う形で参加するからです。

さて、SBLはイメージしやすいかもしれませんが、PBLのイメージは難しいかもしれません。

そこでロードオブザリングを使って、PBLの特徴を解説していきます。

chpter4.ロードオブザリング×PBL

ロードオブリングのストーリーは、主人公フロドのPBLで構成されてます。

『邪悪な指輪を捨てようプロジェクト』(問題)を進めていくフロドのPBL(問題解決型学習・またの名をプロジェクト型学習)が映画になってます。

そのフロドの困難な旅には、明確な答えもなければ、丁寧に教えてくれる教師もいません。そこがPBL的特徴です。

エピソード1 旅の仲間(2001年)

さて、物語はですね、魔法使いガンダルフが『邪悪な指輪を捨てよう』というプロジェクトを提案することでスタートします。

プロジェクトに参加したメンバーは、ホビット族(フロド、サム、メリー、ピピン)、人間(アラゴルン、ボロミア)、エルフ族(レゴラス)、ドワーフ族(ギムリ)、魔法使い(ガンダルフ)の計9人です。

まずここにPBLの重要ポイントが3つあります。

重要ポイント①チーム(集団)の形成です。PBLではチームが大切です。PBLでは、答えのない・誰も教えてくれない問題に立ち向かうので、個人では限界があります。逆にSBLでは、答えがある・教師が作る問題に立ち向かうので、個人と教師さえいれば成り立ちます。

重要ポイント②チームが共通の目的を持ってることです。「指輪を捨てる」という共通目的があるからこそ、チームが助け合うことを必要とします。

重要ポイント③チームに多様性(バラバラ感)があることです。チームに多様性があると、多種多様なトラブルを対応できます。

ちなみに指輪を捨てるという共通の目的を持っていると先程言いましたが、細かい目的やモチベーションにはバラつきがあります。

ガンダルフ、アラゴルン→指輪は必ず葬る

レゴラス、ギムリ→指輪は捨てた方がよさそう

フロド、サム→自分にできることはしよう。

メリー、ピピン→成り行きでチームに参加。指輪とかよくわからん。

ボロミア→実はぼく指輪ほしい。

こんな風にですね、集団って案外バラバラです。これがいいんです。集団ってこんなもんなんです。自分のクラスや会社のチームを想像してみてください。ほどよくバラバラですよね? 集団に「みんな一緒」を求めちゃあかんのです。なんとなく共通の目的でゆるーくつながっておくことが大切です。


エピソード2 二つの塔(2002年)

エピソード2から、旅の仲間がそれぞれ別行動に入ります。

フロド、サム→指輪を葬るために、滅びの山への最短ルートを2人で目指す。

メリー、ピピン→フロドとサムのために、指輪を持ってるいるフリをして、敵にわざと捕まる。

アラゴルン、レゴラス、ギムリ→捕まったメリーとピピンの奪還作戦&敵部隊の殲滅作戦。

ガンダルフ→それぞれのチームの作戦が上手くいくように各地を駆け回ります。

(ちなみにボロミアは1で壮絶に殉職されました。)

ここにまたPBLを特徴づける重要ポイントが2つあります。

重要ポイント④それぞれの行動がバラバラ(みんな一緒の必要はない)ということです。登場人物は皆、誰から指示されることなく、自らの意思で、それぞれの行動に出ます。やってることはバラバラなんです。けれど共通の目的(指輪を捨てる)を持っているということが味噌なんです。

それぞれが目的に向かって、自分にとってベストな行動をします。教育の世界ではこれを個別最適化といいます。

(けれど、SBLを中心とした日本の教育では、あまり個別最適化は好まれません。授業の中で、子どもたちがバラバラのスピードでバラバラのことをやっていたら教師が困るからです。教師は、子どもみんなが同じようなスピード感で同じような内容をやっている方が授業コントロールがしやすいからです。)


重要ポイント⑤ガンダルフがファシリテーターの役目を担っているということです。ファシリテーターとは促進者という意味です。集団が目的に向かうために、人と人との関係をコーディネートしたり、活動しやすい環境をつくる役割をする人です。

PBLでは、知識を教えるティーチャー(教師)の必要性は低いです。集団を目的に導くファシリテーターの必要性が高いです。

ですからファシリテーターに必要とされる能力は、何かを教えることはではありません。集団のメンバーそれぞれが何を求めているのかを把握し、それをサポートし、メンバーとメンバーを繋げることです。

映画の中ではガンダルフは、バラバラに行動することになったチームメンバーそれぞれが上手く機能するように、めちゃくちゃ各地を駆け回ります。しかも自分も時に最前線で戦います。めちゃくちゃ良いファシリテーターです(ちなみにガンダルフおじいちゃんむっちゃ強いです。スターウォーズでいうとこのヨーダです。)


エピソード3 王の帰還(2003年)

いやもうこれは名作です。泣きます。ぼく12回観てます。

これでファンタジー映画史上初のアカデミー賞各部門13冠取ってしかも作品賞(その年最高の映画に与えられる賞)まで獲得してます。

エピソード3でもPBLの重要ポイントを1ついうのであれば、

重要ポイント⑥主人公フロドが旅を終えて、故郷(旅のスタート地点)に帰ってくるということです。映画では主人公フロドも旅をしたわけですが、PBLでは子どもが学びの旅をします。

旅というものは、スタート地点に帰るから旅になります。皆さんも旅から帰ると、出発したときとは異なる視点を持ちませんか?

PBLでも子どもが、スタート地点に戻ることが重要です。学習前と学習後の自分を比較する必要があります。教育用語ではこれを「ふりかえり(自己評価)」と呼びます。「ふりかえり」をすることで、学びが自分にフィードバックします。学習前とは異なる視点を持つことができます。これが成長です。

T.S.エリオットというイギリスの有名な詩人に、以下のようなニュアンスの詩があるそうです。

すべてわれらの探検の終わりには、われらの出発の地に至ること、しかもその地を初めて知るのだ

映画内でも、フロドは故郷に帰ってくるものの、もう今までの自分として生活していけないことを悟ります。そして更なる旅を求めて、故郷を後にするところで映画は終わります。

私はゲームボーイのポケモン初代レッド版で、チャンピオンを倒した後にマサラタウンに帰ってきたことを思い出しました。すぐに2週目に行きました。

まぁ旅とそこで出会う仲間ってのはそれだけ人間に大きな成長を与えるということですね。

子どもがそんなストーリー性のある学びを学校でできたら最高だと思います。

chpter.5 まとめ

さて、私は今後しばらくはPBLが学校教育の中核になってもよいかと考えてます。

SBLもとてもとても優れた学習システムです。めちゃくちゃ効率のよい学習システムです。けれど工業化社会においてSBLは優れていました。

SBLでは1人のティーチャーが大勢の子どもに効率よくスキル(知識と技能)を伝えられます。したがって、能力が平均的なバランスの取れた人材を育てることが可能です。明治維新で0になった日本や第二次世界大戦後にボロボロになった日本など、産業を盛り上げていかないとまずいタイミングには持ってこいの教育システムです。だから国の意向に沿った教育でしたSBLは。

では今の日本はどうでしょうか? 貧富の差はまだまだありますが、多くの子どもはメディア(本、漫画、テレビ、ネット)を利用して、個人でも最低限のスキル(知識と技能)を身につけることが可能な社会にまで進化しました。

スキルを手にするために、30〜40人のクラスで教師の授業を受けることは、ひとつのYouTubeの動画をわざわざ30〜40人で同時に観るようなもんです。

AI化が進み、ロボットがある程度、産業を支えてくれるので、能力が平均的なバランスの取れた人材は戦後ほど必要とされません。

そして何より、グローバル化した世界は答えのない問題に晒され続けています。そこにコロナです。

バランスよくスキル(知識技能)を備えた子どもや人材の育成より、答えのない問題に向かって、色んな人とチームを組んで協働的に取り組める子どもや人材の育成が、これからの学校教育の優先課題ではないでしょうか?

教師はいつまでもティーチャーとして振る舞うだけでなく、ファシリテーターとしての能力を磨いた方がよいのではないでしょうか?

もちろん、最低限のスキル(知識技能)は必要だと思います。教育者として、PBLとSBLの隙間を埋められる形を模索していきたいものです。

最後にですが、

映画の中で、成り行きで指輪プロジェクトに参加してしまったメリーとピピンというお馬鹿2人がいます。

彼らがエントという木のバケモノたちに援護を求めるシーンがあります。そこでのメリーとピピンの台詞にこんなのがあります。

「あんたたちも、世界の一員だろ?いいのかよ?」

成り行きで参加した2人が本気でこんな台詞を言えるまで成長したのは、チームで問題に挑んだからだと思います。

世界の一員として、問題意識を持てる子どもたちを育てていきたいもんです。

Think Globlly, Act locally の精神を今こそ。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?