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「障害のある人って働けるんですか?」への私の回答と、私がやっていきたいこと

「障害のある人って、働けるんですか?」——ここまでストレートな言い方をされたことはないけれども、障害者就労支援の仕事をする中で、こうした疑問を持っている方に出会うことがあります。(「〇〇障害の人って…」という疑問の場合もあります。ちなみに、発達障害をテーマとした研修講師をやっていたときは、「発達障害を治す薬はないんですか」という質問を、何度も伺ったことがあります。)このような疑問は、障害者を雇用をしたことのない企業側から呈されることもあれば、障害を抱えてから就労した経験のない当事者の側から発せられることもあります。そこには、障害を抱えながら働く人に出会ったことがなく、イメージが湧かないことからくる率直な疑問や不安が背景にあってのことだと思います。

私は、私の極めてささやかな就労支援の仕事と、個人的な経験から、「障害をどうにかしようとするよりも、工夫したり環境調整したりして何とか働く方がはるかに容易である」と考えています。いえ、正確に言えば、そう信じています。
もちろん、これは、医療を否定するものでは決してありません。それに、「障害」と一口にいっても、一人ひとりの障害の種類や程度、その人を取り巻く環境や感じている困難さも全く異なるので、一概には言えないということになってしまうかもしれません。ただ、「障害のある人って、働けるんですか?」という疑問に対して、単純に「働けますよ」と答えたり、「実際にこういう働き方をしている方がいます」などと具体的な事例やデータを示したりするだけでは伝えきれない想いが私にはあります。

障害・病気は、その症状が寛解・軽減していくこともあれば、重くなっていくこともありますし、新たな治療法や新薬が開発されて劇的に症状が変わることもあります。ただ、少なくともそこには、人間の力ではどうにもならない領域があると思うのです。「現在ある薬や治療法ではどうしようもない」「様子を見るしかない」——そう言われたら、あなただったら、どう思いますか。「どうしようもなさ」に対して、当事者は、苦しさ、つらさ、悔しさ、そして諦め等、さなざまな感情を抱きます。それでも、できることをやっていくしかないんですよね。

私は、「人間の力ではどうにもならないこと」に対して、人が努力したり、工夫したり、協力したりして実現できることは、どんどんやっていけば良いと思っています。そして、「就労」は、そのような「人間ができる」領域の事柄だと信じています。「どうにもならないこと」はどうにもならないままであっても、それをネガティブな体験のままにするのか、また別の意味をもつ経験にしていくのか。それもまた、人間のできることだと信じています。

障害や病気を抱えている人だけでなく、何らかのマイノリティであったり、そして、まだ名前もついていないような困難さを抱えている人も含めて、様々な困難さを抱える人たちが、「生きる」時間の中で大きな部分を占める「働く」をより充実させられるような活動をしていきたい。これが私がやっていきたいことです。現実的には、とても地道で個別的な活動ではありますが…、憧れの職種・業界で働けたり、より強みやスキルを活かせたり、穏やかで楽しい職業生活が送れたり、社会や顧客に貢献できたり、ステップアップや収入増につながったり。その人のニーズを充足できるよう、毎回新しい経験として、一人ひとりと向き合いながら支援させていただけるのは、私の楽しみでもあります。

したがって、冒頭の問いに対して、私は、「皆で一緒に、障害のある人も働けるようにしていきませんか?」と答えたいなと思います。(「障害の社会モデル」の考え方からすれば、当たり前の話なんですけどね。)

当事者支援者で、当事者であることをオープンにしている方であれば、「私も支援者やっていますよ(働いていますよ)」と紛れもない証を示すことができますね。「わたころ(わたしたちが当事者だったころ)」も、当事者と支援者、当事者とそうでない領域をつなぐような「架け橋」的存在として活動していけたらいいなと考えています。(ほんま)

*ほんま:当事者経験をいろいろ抱えるソーシャルワーカー。社会福祉士・精神保健福祉士。主に障害者就労支援に従事。おしゃべり。趣味はころころ変わるが、コーヒーと旅行はずっと好き。

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