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蚕を育てて真綿をつくる

3月。
綿入れの仕事が落ち着いてくると、気になり始める畑の様子。
綿を育ててみたり、藍を育ててみたり、数珠玉をつくったり。。
毎年少しずつ畑仕事も続けています。
畑仕事といっても、農家さんからみたら遊びのようなもので、トラクターをかけていただいたり、草を刈っていただいたり、色々な方に助けていただきながらなんとか維持している状態ですが。。夏には雑草との過酷な戦いがありますが、土に触れると気分転換にもなり、収穫を迎えると疲れを忘れてしまうのだから不思議です。

私たちの中で、今、一番アツいのが「蚕」。
ご存知の通り絹の原料となる”繭”をつくる虫です。絹糸のイメージが強いと思いますが、はんてん作りに欠かせない”真綿”も繭から作ります。

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「自分で使う真綿を自分でつくる」を目指して集まったメンバーで、各自が家で飼えるだけの数の蚕を、毎年育てています。平均すると1人200頭。多いようですが、農家さんであれば一度に飼う量は数万。200というと笑われてしまいます。
→インスタ@noraoko-tsukuba で活動の様子を紹介しています。

養蚕農家って?

養蚕農家とは蚕を育てて繭を出荷する仕事。
蚕の餌は”桑”。しかも農薬に弱いので、除草剤や殺虫剤がかかっていない安全な桑が必要になります。量もかなり食べるので、蚕を飼うにはまずは桑畑を育てることから始めます。養蚕農家の仕事は、桑を育て、蚕を育て、繭を収穫すること。ちょうど今、NHKの大河ドラマ『晴天を衝け』で主人公渋沢栄一の実家の家業が藍染と養蚕ですね。まさに、私たちの憧れの暮らし!明治の産業革命前の古い形式ですが、養蚕農家の仕事がよくわかるのでぜひご興味のある方はご覧ください。

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養蚕は古代中国で始まったとされています。蚕はもともとは野生にいたカイコの原種に品種改良を重ねたもの。日本にも紀元前には大陸から伝わり、奈良時代には税として朝廷に納められ、江戸時代に各藩で産業として奨励されたことから技術革新がなされ、各地で特徴的な織物が織られるようになったとされています。明治に入り機械化が進み、各地で製紙工場が作られました。有名なのは世界遺産に登録された富岡製糸場。明治から昭和初期にかけ、日本は世界一の絹糸輸出国となり、近代化の大きな要となりました。驚くことに最盛期には農家の40%が養蚕業を営んでいたそうです。戦後、化学繊維の登場により衰退の一途を辿り、2016年頃で全国で300軒にまで減少。農家の高齢化により、どんどん少なくなっているので2021年現在ではもっと少ないと推測されます。養蚕の歴史について詳しくは『大日本蚕糸会』のHPでご覧くださいね。

私たちのお借りしている畑は筑波山の麓。この地域も昔から養蚕が盛んな地域でしだったので、地域で実際に養蚕業を営んでいたお年寄りから、蚕を飼いながら少しずつお話も聞きためてきました。それについてはまた別途。

真綿は副産物

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養蚕農家は、主に繭を出荷するまでが仕事です。時代や地域によっては糸や織物にして出荷することも。出荷時には繭はまだ生きているんです。繭の中で2週間ほど過ごして羽化するのですが、羽化すると繭に穴が開いてしまうのでその前に糸にしなくてはなりません。つまり、絹は蚕の命をいただいてできるものなんです。

そうして出荷される繭ですが、中には早くに羽化してしまって穴が空いたり、汚れてしまって商品にならない”クズ繭”と呼ばれるものが一定程度できてしまいます。それで作られたのが真綿です。つまり、副産物。これを農家さんが防寒に使ったり、真綿から糸を紡いで内織にして着物に仕立てたりしたそうですが、庶民の生活に欠かせないものだった一方で、産業として発展しなかったため、真綿作りの技術についての記述や記録はほとんどありません。

真綿をつくるのはとても難しい。繭を煮て、蛹を取り出し、手や木枠にかけながら均一に伸ばして何枚か重ねるのですが、職人として1人前になるのに8年かかると聞いたことがあります。真綿の製造業者は全国でも数えるほど、その上現役の職人たちの多くは高齢者。後継者が育たなければいずれ失われる産業かもしれません。


木綿わたと真綿

はんてん屋の綿入れは主に木綿わたを使っています。木綿わたに対して、なぜ真綿を”真の綿”と書くのかというと、実は、前述したように歴史としては真綿の方が古く、昔は”わた”といえば絹のわた、つまり真綿のことだったのですが、江戸時代頃に木綿が大陸から伝わり日本各地に広まると、”木綿”と区別するために”真綿”と呼ぶようになったそうです。

木綿は加工しやすく暖かいため、あっという間に庶民の暮らしに広がりました。それでも今のように中綿として使えたのは富裕層のみ。今のように庶民が綿の布団で寝れるようになるのは明治以降、近代のことだそうです。昔は木綿わたが貴重だったので、長く使うためにも布団生地と木綿わたの間に真綿を薄く引きました。はんてんや着物にわたを入れるときにも一度真綿で包んであります。丈夫な真綿に包むと傷みにくく、再利用しやすかったようです。(今は木綿わたの製法も良くなり、真綿で包む必要もほとんどありません。)

暮らしの中でつかう

時代ともに、木綿わたの布団を使う人も少なくなりました。はんてんに変わる防寒着も増え、冬の必需品ではなくなりました。真綿についてはそもそも知らない人も多くなっています。まずは真綿の良さを広めるところから!ということで、はんてん屋では「背負い真綿」をお勧めしています。
その名の通り、真綿を重ねて背中にあうサイズにしたもので、肌着と服の間に挟んで使います。天然のカイロのように不思議とポカポカして暖かいのです。

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使い始めてから、使い捨てカイロはほとんど使わなくなりました。
シルクの効能として、アミノ酸を豊富に含んでいるので肌にも優しく、乾燥肌に悩んでいる方にもおすすめです。

はんてんの中綿に使うのはもちろんですが、マフラーやアイマスクの中に入れるのもおすすめ。シルクには保湿効果もあるので美容効果も期待できるかも!?

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真綿は軽くて薄いので、洋服の下に身につけてもあまりひびきません。比較的日常生活で使いやすいのも、おすすめのポイント。膝掛けにしたり、ベストに入れたり。使い方次第で色々な楽しみ方が見つけられると思います。

蚕を育てて真綿をつくろう

真綿をつくるのは難しい、難しいけれど昔の人は家でつくっていたのだから練習すれば少しずつ上手にできるようになるはず!という思いで、毎年蚕を育てては真綿づくりの練習に励んでいます。

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50頭飼うと背負い真綿が、200頭飼うと膝掛け分の真綿ができます。

今年は自分の分の背負い真綿、来年はおばあちゃんに膝掛けのプレゼント、など、つくりたいものを目標にすると蚕を飼うのも真綿をつくるのも楽しいものです。

ノラオコツクバでも、今年はワークショップを企画したいと思っていますので、決まりましたらまたご案内します。
都内でも体験ができる施設がいくつかありますのでご参照ください。

多摩シルクライフ21研究会(東京シルクの会)」 インスタこちら
真綿のつくり方 一般社団法人 日本真綿協会
私たちも研修させていただいたり大変お世話になっています。

まだまだ書き足りない蚕の話。今日はここまでにしておきます!