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氣比神宮桃太郎神像(福井県・敦賀市)_20190303


桃太郎伝説のもと?

福井県敦賀市の氣比神宮(けひじんぐう)で戦前から「子育て・子授け」の縁起物として授与されている桃太郎の土人形を張子でつくりました。

こちらの祭神であるイサワケノミコトがキビ地方の凶鬼を平定されたという物語から生まれたものだそうです。

戦災で1945年に焼失してしまったそうですが、旧本殿の梁にはなんと桃から生まれた桃太郎の姿が!

3月3日は「桃の節句(ひな祭り)」

ということで、お嫁さんの実家から送られてきたひな祭りセット(ありがたい笑)と、以前つくった花巻人形のひな人形張子にあわせて、福井県敦賀市にある氣比神宮(けひじんぐう)で授与される桃太郎をセッティングしてひな祭りを過ごしています。

女の子のための行事である「ひな祭り」と、男の子のイメージである「桃太郎」になんの関係があるのか、とも思われそうですが、それは「ひな祭り」と「桃」の関係を調べると見えてきました。

そもそも「ひな」って?

「ヒヒナ」「ヒナ」という言葉は古語で「人形」のことだそうで、貴族階級の女の子たちの人形遊びをヒヒナ遊びと呼んだそうです。

また日本だけでなく世界中いたるところでそうですが、人形は人の形をしていて、ある種の霊力をになう超人間的な存在です。

その霊力を信仰していた例として、源氏物語の須磨の巻には、3月3日の節句に陰陽師を召し、お祓いをした人形を船に乗せて川に流す「流し雛」(「雛流し」とも言う)の描写があります。

流される人形は、木や紙や草でつくられ、災いや疫病や穢れを人間に代わって背負わされており、この「流し雛」が「ひな祭り」のもとであると言われています。(平安時代には布製の人形はまだなかったようです)

「ヒナ」は神の使い

「ヒナ」とは"人形"という意味だけでなく"かわいい"という意味もあります。

そういえば鳥の子どもを「ヒナ」と呼びますが、他の動物の子は「ヒナ」と呼びませんよね。

これは鳥が天の神々、とりわけ太陽の女神アマテラスの使いだから特別にそう呼ぶらしいです。

そこで「ひな人形」とは、"神々の使いが人の形をしたもの"でもあると考えることができます。

(そういえば『ゴールデンカムイ』で、狩猟民族であるアイヌが食べ物を"おいしい"という時に「ヒンナ」と言うのですが、なにか通じるものがある気がしてきますね)

なんで3月3日におこなうのか?

ところで神道では一年の穢れや災厄を祓う「大祓え(おおはらえ)」の儀式は、6月(水無月)と12月(師走)の大晦日ですが、穢れを祓う儀礼である「流し雛」が3月3日におこなわれるのはなぜでしょう?

そもそも「節句」というものは中国の陰陽五行説が由来のもので、江戸時代になり幕府が公式に年中行事として認めたものです。

また中国では上巳(じょうし)の節句である3月3日に「ひな祭り」のような、お雛様を飾る風習はありません。

それが日本ではどうして「流し雛」という儀礼をおこない、「ひな祭り」のようなものに発展していったのでしょう。

これは諸説あるのですが(僕は学者ではないので参考まで)、旧暦の3月(いまの4,5月)は乾燥した冬が終わり一転して雨量が多くなること、その時期に中国では水辺の白い蘭を採ってお祓いをする風習があったそうです。

この中国の風習と、「人形(ひとがた)」を流して穢れを祓う風習が習合したものということでしょうかね。

なんで「桃」の節句なんだろう?

3月3日の節句に穢れを祓うための儀礼が「ひな人形」をともなうものとなった経緯をざっくりと書いてきましたが、これがなぜ「桃の節句」なのでしょうか?

これは中国の古代から続く「桃信仰」から来ているようです。

中国では桃が霊力を持つとされ数々の伝承がありますが、「西王母(せいおうぼ)の桃」というのが中でも有名なようです。

古代中国の女仙人、女神であり、住処である西方の園には、3千年に一度実を結ぶという桃があり、これを食べると不老長寿を得られるもので、漢の武帝が西王母からこの桃を贈られたとか、最遊記では孫悟空がこの桃を盗んだなどの逸話が多くあります。

その西王母の誕生日が3月3日というのです。

その他にも中国では古代、3月に桃花水というものを飲んで禊をし穢れを祓ったそうです。桃花水というのは"桃の花が流れる川"の水で、後にそれが上巳の節句(3月3日)に特定されたようです。

「桃」は邪気を祓い再生・復活の象徴

日本でも古事記の中で、イザナギが死んだ妻イザナミを救うために黄泉の国(地下にある死者の世界)へ行くのですが、救出に失敗して黄泉の国の軍勢に追われたところ、桃を投げつけて追っ手をかわし地上に帰還する話があります。

これは死の世界から邪気を祓い、復活をする神話です。

また西王母という女神が与える「不老長寿」、つまり老いからの再生・復活は、「老いない」「死なない」というよりもずーっと「生まれる」「種が繋がれる」というような豊穣性と繋げたほうが自然でしょうね。

このように「桃」には死(無)から生(有)へと生命が反転する「子宮」的なイメージがあります。

流されたのはヒナだっけ?桃だっけ?

長々と書いてしまいましたが、穢れを祓うために人の形をした「ひな人形」と、禊をするために"桃の花が流れる川"の水を飲んだ「桃の節句」と、"どんぶらこ"と老人たちのもとに流れてくる桃太郎伝説、、構造的にはどれもみんな似てますよねえ。

流されたひな人形が桃に転生して老人たちのもとにたどりつくイメージというか。

冬が終わり、春になるこの季節は「生命復活」の時期でもあります。

かつて万葉集の時代には特に春分の日(3月21日)などは、神々の交わりを盛んにし、万物の豊穣をもたらすための儀礼として、いわゆる「酒宴」「乱交」...を公認した日でもあったようで(苦笑)、天上の夫婦神の象徴が「ひな人形」でもあるそうです。

そしてこの夫婦神がやがて産むのが、母なるイメージを持ち邪気を祓う桃のご加護を受けた桃太郎であったというわけです。

【参考文献】

・歳時記のコスモロジー(北沢方邦/平凡社)
・植物と行事(湯浅浩史/朝日選書)
・陰陽五行と日本の民俗(吉野裕子/人文書院)
・郷土玩具辞典(斎藤良輔/東京堂出版)

【張子制作MAP】

21/47。中部地方も9県あったのに早くも残すところ、石川県、長野県の2つ。
いつもは1000文字程度で済ますのに、桃の節句を調べたらめちゃくちゃディープなところまで行ってしまい2600文字。。
すごく大変だったので投げ銭してください(笑)。




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