勿忘草 〜私を忘れないで〜

プロローグ

ある日、私は死のうとしていた。
 親族からの家庭内暴力、性的虐待。それに追い打ちをかけるようにおきたクラス内でのイジメ。
 何もかも無駄に思ってしまい、人生はこれ以上うまくいくことはないんだと何度も思った。
 でも死ぬのは怖かった。そのストレスをいつも自分自身に向けた。薄暗い部屋でもかすかに輝くカッターをいつも自分自身へと向け、気がつく頃には自分の血で汚れ、輝いているものは何ひとつなかった。
 
 私はいつも根暗だった。生まれたときから優秀な兄と比べられママからはいつも「お前なんて生まれてこなきゃよかった」と言われ、挙句の果てには殴られ、風呂場で熱湯をかけられ、私が苦しそうにすると不満そうな顔をされて何度も何度も殴られた。
 殴られる日々が続いているとある日ママが知らない男の人を連れてきた。ママは男の人と私と二人きりにした。私は激しく抵抗したがその思いも虚しく男の人は私の服を脱がせ、望まぬ性行為を何度も何度も行った。
 男の人が満足して一服をついていると、ママが部屋に来てお金の話をしだす。うろ覚えで覚えてないが、男の人は私の親戚で私と性行為をして性欲を晴らす代わりにお金を渡しているんだと小学生ながらに理解した。
 ママは男の人と話すときはいつも笑顔で楽しそうにしている。私はそんなママが大好きだ。
 ママにどんなことを言われても、どんなに酷いことをされても、私はママのことが大好きだった。

 そんな日々が続いたある日のことだった。
 生理がこない。妊娠したのだ。ママになんていえばいいかわからず、一人でパニックになり何も言えなかった。
 だがそれからすぐにママにバレてしまった。念の為、と妊娠検査薬を渡され検査してみたが陽性だった。妊娠したと確定したのだ。私達家族は妊娠を機に、更に崩れていくことになった。
 妊娠してからも何回かそういう行為をしたが、これからの為にも中絶しといたほうがいいとなって産婦人科に行った。
 産婦人科の先生は私を見てすぐ性犯罪だと気づいたようだ。体にできた無数の痣。私が小学生なのに妊娠したこと。そのことから先生は不審に思ったようだ。
 先生はすぐに警察を呼んで私達の家は家宅捜索された。男の人は捕まった。ママはうまいこと犯罪を隠して家にいることになった。ママはあんたのせいだと言いながら何度も何度も殴った。
 何も言わなかったパパもお兄ちゃんも私の悪口をたくさん言ってきた。学校では虐めがエスカレートし、私の居場所はなくなっていった。

 中学生になると友達ができた。私は家庭内のことを全部その子に打ち明けた。するとその子は私をいつも抱きしめてくれた。私はとても嬉しかった。初めて居場所ができた気がした。
 だが、その思いも虚しくその子は私を裏切ってイジメの主犯格になってしまった。家庭内環境のことを広められ、学校全体に悪い印象がひろまってしまった。それから一年。私はイジメにひたすら耐え続けた。
 中学二年生になる頃にはストレスで味覚がわからなくなっていた。ご飯もまともなものを食べておらず、ずっと前から味覚障害が起こっていたのかもしれないが、残飯のひどい味ですらわからなくなっていった。



 もうどうでもよかった。何もかも。


 ただこの生地獄から逃れたかった。


 神はほんとにいるのか何度も何度も疑った。


 死のう。それしか考えられなくなった。


 もう一週間もしたらクリスマスという寒い時期。私は薄暗い小屋の中で自殺を図ろうとした。
 
                     (続く)
 


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