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100年前のレシピ本を訳してみます14- C章 野菜とジャガイモの料理 III. ジャガイモ料理

 ではジャガイモの料理に入ります。ドイツといえばジャガイモを結構食べているイメージがあると思いますが、どんな料理があるのでしょうか。この章には31個の料理が収められていますが、うち2つは別の章に紹介されています。

1. ジャガイモの調理

 ジャガイモを調理する際、あまり注意が払われないことが多い割に、高級料理よりも美味しいジャガイモ料理の方を好む人もいます。いずれにしてもジャガイモの風味の良し悪しは、皮をきれいにむけるかどうか(倹約家の主婦には、「ジャガイモ用皮むきナイフ」を使うことをお勧めします。これを使うと1kgのジャガイモのうち剥く皮の量はたった100gほどに押さえられます。普通の包丁ではその半分以上も余分に剥けてしまいます)、きれいに洗うこと、そして美味しく調理すること、に大きく左右されます。ジャガイモは、中くらいの大きさのものを大きさを揃えて選びます。皮をむく前に洗い、皮をむいている間水に入れ、その後両手の平で数回しっかりよく洗ってすすぎ、使うまで新しい水に浸けておきます。その後、ザルにあげ、新しい水をかけ、ジャガイモを茹でる専用の小さすぎない鍋に、冷水と必要量の塩(水1リットルに対して10グラム)を入れて火にかけます。新しいジャガイモの場合は古いものより塩の量を増やします。また、アクを取るのを怠らず、茹で過ぎたり茹で過ぎたりしないよう蓋をして茹でます。火が通っているかどうかは、何度か試してみます。フォークを簡単に刺し通すことができればできあがりです。崩れてはいけません。やや完全に火が通る手前で食卓に出します。水を切る時は、水分が残らないように注意深くおこないます。その後、鍋を再び数分間火にかけた後蓋を取り、水分が蒸発するようにジャガイモを転がし、蓋を開けたままコンロの上に置いておきます。ただ一番よいのは、水分を飛ばしたあと温めた器に入れて覆いを被せすぐに食卓に出すことです。ジャガイモほど時間が経つと風味が落ちる食べ物はありません。
 ジャガイモの加熱時間が短い方がいいか長い方がいいかは品種によって異なりますが、時期にもよります。新鮮なジャガイモなら15~20分ですが、4月までは調理時間が長くなり、3/4時間ほどかかります。春から新ジャガイモの時期は、古いジャガイモがどんどん味を失っていくので、通常通り半分ほど火を通し、お湯を捨て、新しい熱湯をを注ぎ必要量の塩を加えて茹でます。こうすることで、風味が格段に良くなります。
 軽い砂地で育ったジャガイモが一番美味です。

注)ジャガイモは蒸気で蒸すのが最も風味が良いと主張する男性がいます。私はそうは思いません。なぜなら、ジャガイモは茹でる際に、風味をよくしない成分を放出するからです。
ジャガイモを茹でたお湯を味見してみれば、その点に納得できるでしょう。

ドイツでもジャガイモは崩れにくいタイプ(festkochend)とホクホクするタイプ(mehligkochend)に大きく分けられますが、ここでは紹介されていませんね。

2. 異なるソースを合わせたジャガイモ料理

 ジャガイモは上記のように茹で、玉ねぎ、ベーコン、パセリを使ったソースや、酸味の効いた牛乳のソース、またはR章で紹介しているようなベシャメルソース、執事風ソース、アンチョビソースなどを上からかけ、器にしっかりと蓋をして食卓に運ぶか、ソースを後から加えます。茹でてさっとスライスしたジャガイモに、バターひとかけとトマトピューレを混ぜるだけでもよいです。ー 肉や魚のロール、焼いた肉のスライス、ソーセージ、フリカンデレ、ガー*1、焼いたレバー、ザウアーブラーテン、プレストプフ、ゼリー寄せ、パンハス、すね肉(ハクセ)*2、腎臓のスライス、子牛の冷製ローストのソーセージなど、つまりその時あるものに合わせます。

*1:本では「Gar, 」と大文字表記されていますが、こういう名前の料理や食材は現在はありません。試しにグリムの辞書を見ると「魚の出汁、つけ汁」の意味もありました。つまりガルム(garum)のことです。でもこのレシピには当てはまらないような気もします。もうひとつ考えられるのは、元々次の焼いたレバーとくっついて「よく火を通したレバー」を意味したのではということです。garは形容詞でよく煮えた、焼けた、の意味があります。つまり「Gar, gebratene Leber,」は印刷ミスで、正しくは「gar gebratene Leber」ではないか、ということです。

*2:本文ではHachselと書いてありますが、この言葉は見つかりませんでした。でもほぼHachse、つまりすね肉で間違いないだろうと思い、そう訳しました。

3. ジャガイモとニシンの煮込み

 ジャガイモは皮付きのまま、塩を入れたお湯で茹でたら、熱いうちに皮をむいてスライスします。その間に玉ねぎ数個をバター少々で黄色く炒め、小麦粉少々を加え、次に水、塩少々、潰した胡椒少々、酢少々、ローリエ少々を入れ、沸騰したらまずジャガイモのスライス、次に骨を取って細かく切ったニシンを入れます。中まで火が通り、かなり熱くなったら、少量のクリームを混ぜます。すべてのジャガイモ料理に言えることですが、硬く煮込まず、ジューシーに仕上げることが大切です。

4. オランダ風ジャガイモと玉ねぎの煮込み

 同じ大きさのごく小さなジャガイモを選び、皮をむいてよく洗います。中くらいのボウルに玉ねぎを皿一杯分、ジャガイモと重ねて鍋に入れ、たっぷりのバター、塩、こしょうを加えます。ジャガイモが完全に隠れない程度に水を加え、蓋をして柔らかくなるまで煮ます。好みで酢を少々加えてもよいです。
 調理時間は3/4時間。
 上記2と同様の料理を合わせます。

5. 煮魚に添えるジャガイモのパセリ炒め

 小さめのサラダ用ジャガイモ*3の皮をむき、塩を入れた湯で煮崩れしないようにさっと茹でます。お湯をきちんと切ったら、茹でたじゃがいもにたっぷりの新鮮なバターとパセリのみじん切りを加えて鍋に入れコンロで全体をからめたらすぐに盛り付けます。ー より簡単なジャガイモのパセリ炒めは、茹でたジャガイモを潰し、卵黄くらいの量のバターとパセリのみじん切り大さじ2杯を加え、マッシュポテトくらいのゆるさになるまで熱湯を加えて混ぜます。この料理は、生ハムをあわせる野菜の付け合わせとして特に適しています。

煮魚のレシピはここには出てきませんが、後のF章でご紹介できると思います

6. 月桂樹風味の酸味のあるジャガイモ

 細かく刻んだベーコンをじっくりと炒める、または良質な脂をしっかり温め、細かく刻んだ玉ねぎをたっぷり入れて黄色く炒めたら、水、塩、胡椒少々を加えて混ぜ、月桂樹の葉数枚とともにジャガイモを入れて柔らかくなるまで煮ます。
 盛り付ける前に月桂樹を取り除き、お酢を入れてジャガイモに風味をつけます。このジャガイモ料理も手早く調理します。ー 合わせる料理は上記の通り。

お酢の量が書いてありませんが、少しです。全体の量にもよりますが、大さじ1〜2杯くらいでしょうか。酸味を少し効かせると料理全体の味が引き締まります。スープやアイントプフでも最後に酢を加えることがあります。

7. 衣をつけて焼いたジャガイモ

 中くらいの大きさでそろえたジャガイモをよく洗い、皮つきのまま必要な塩を加え中まで火が通るよう茹でたら、皮をむいて厚切りにし、溶き卵にくぐらせ、すりおろした白パンか砕いたラスクの中でまんべんなく返します。清潔なフライパンにたっぷりの植物性バターを熱し、ジャガイモのスライスを並べ、蓋をせずに弱火で両面をきつね色になるまで焼き、さっと盛り付けます。
 ほうれん草、芽キャベツ、紫キャベツ、様々な肉料理とよく合う料理です。

8. ジャガイモのロースト

 同じ大きさのごく小さな丸いジャガイモの皮をむき、よく洗い、水と塩で半熟になるまで茹で、水気を切ります。それからすぐに、バター、良質のベーコン脂、または植物性バターをフライパン1つか2つに入れ、中火で熱し、湯気が出ているジャガイモを並べ、フライパンにしっかりと蓋をし、裏面が黄色くなったら裏返し、完全に柔らかくなるまで再び蓋をします。ジャガイモは全体を濃い黄色に炒め、焦がしてはなりません。ジャガイモをスムーズに見た目良く食卓に出すには、炒めている間にフォークでかき混ぜたり崩したりしてはなりません。返すときはフライ返しを使いましょう。炒めるときに砂糖をまぶすと、ジャガイモにつやが出ます。安価なクネロールはジャガイモを炒めるのに最適です。
 誤ってジャガイモを硬茹でではなく柔らかく茹でてしまった場合は、加茹ですぎていないジャガイモを丸ごとを高温の脂の中に入れ、フライパンで蓋をせず手早く黄色くなるまで炒めます。
 皮ごと茹でたジャガイモを炒めたいが、皮があまり柔らかくない場合は、ジャガイモを水と塩で完全に茹でて、すぐに取り出し、できるだけ熱したフライパンで、よくかき混ぜながら濃い黄色になるまで炒めます。
 茹でたジャガイモの残りをスライスにして揚げることもできます。酸味のあるリンゴのスライス1/3個分を加えて炒めれば、変化を楽しめますし、ジャガイモのスライスにスクランブルエッグを混ぜてもよいです。スクランブルエッグは、卵2~3個に牛乳を混ぜ合わせる、あるいは濃厚なサワークリームを大さじ数杯とすりおろしたパルメザンチーズを加えて作ります。
 生のジャガイモから作るローストポテトは、他のどの方法で作るよりも美味しく、風味が豊かです。大きさが揃った丸いジャガイモを選び、洗って水気を切るか、大きめのジャガイモをスライスにし、フライパンでクネロールやベーコンの脂で全体をまんべんなく焼き、細かい塩を振ったら水を少々注ぎ、フライパン(または鍋)に蓋をしてよく揺すりながら火を通し、すぐに食べます。
 生のジャガイモを包丁の背ほどの厚さのスライスや、三角、丸、その他好みの形に切ってもよいですし、細長い穴のあいた専用のおろし金で巻き毛のように捻った形にしたものを油で揚げてもいいです。揚げる前にジャガイモはよく水気を拭き取っておきましょう、そうしないときれいな茶色になりません。このような形を工夫したジャガイモは、肉料理や野菜のピュレの付け合わせとして見た目もよくなります。
 生のジャガイモを蛇のような形にしたものは、とても見栄えがするため、特に会食に適しています。大きなジャガイモの皮をむき、らせん錐(ぎり)を使って切り出したらきつね色になるまで油で揚げます。盛り付けるときに細かい塩を振りましょう。

これがいわゆる日本で「ジャーマンポテト」と呼ばれている料理なのではと思います。
らせん錐(写真下)はドイツ語でSchlangenbohrer(蛇ドリル)と言います。巻き毛のようにおろす道具は、日本だと今はスパイラルスライサーとして売られているものです。この時代にもあったのですね。


らせん錐

9. アンナ・ポテト

肉料理の飾り的な付け合わせにとても美味な一品です。
皮をむいた生のジャガイモをすりおろしてよく絞り、平皿がいっぱいになるくらいの量を使います。これにバター100gと塩少々を加え、弱火にかけて鍋底から離れてまとまるまで混ぜたら冷まします。卵黄4個とナツメグ少々を加えて混ぜ合わせ、クルミ大に丸めます。 チャイブのみじん切りを混ぜた溶かしバターを絡めておろしたパルメザンチーズをまぶし付けたら、溶き卵にくぐらせすりおろしたパンを付けます。油できつね色になるまで揚げます。

1870年にフランスの料理人Adolphe Dugléré が考案したこの料理は、このレシピとは違い、スライスしたジャガイモを重ねてオープンで焼いたグラタンのようなものです。名前の由来は彼の妻アンナから取ったというもの、あるいは当時の女優 Anna Judicから命名されたという説があります。
画像検索をしてもやはり小さい焼き型にスライスしたジャガイモを並べて焼いた料理の画像しか出てきません。どうしてこのレシピのようなどっちかというとコロッケみたいな料理をこう呼ぶようになったのか分かりません。

10. ジャガイモのピューレ(マッシュポテト)

 ジャガイモを茹でて水で洗い流し、濾し器を通して潰しますが、もっと便利で速いのは小型のポテトマッシャーです。簡素な台所では、どこでも手に入るアーント社のポテトマッシャー※¹で細かく潰すといいでしょう。そこへ牛乳か、牛乳と熱湯を半分ずつ入れて火にかけ、硬くならない程度に混ぜ、塩とバターを加えます。なめらかに盛り付け、バターで飴色に炒めた玉ねぎか、細かく砕いたラスクを黄色いバターか茶色のバターで炒めたもの、または細かく刻んで黄色く炒めたベーコンてマッシュポテトを厚く覆います。マッシュポテトはいろいろなアレンジができ、田舎の家庭では、牛乳の代わりにバターミルクを使うこともありますし、味を濃くするには、肉のブイヨンを使います。また、マッシュポテトやその他のジャガイモ料理に「アロイロナート(Aleuronat)」(植物性タンパク質)を加えるとよりおいしくなることがわかりましたし、マギー調味料を数滴垂らしてもおいしいです。
 マッシュポテトに牛乳とバターと卵黄数個を混ぜ合わせて型に詰め、その上にパルメザンチーズをすりおろしたものを混ぜて固く泡立てた卵白で覆ってオーブンで焼いたものは、ロースト料理の付け合せにぴったりです。
 温め直した肉のローストや、酸味を効かせて料理した肉の他、プレスコプフ※²、アスピック、ザウレ・ロレ※³とも相性が良いです。さらにマッシュポテトははザワークラウトにもよく合います。

マッシュポテトもドイツではよく食べられますね。ポテトマッシャーもいろいろあります。片手で持って潰すタイプもありますが、ニンニク潰しを大きくしたみたいな、両手で持ってプレスするタイプも多いです。

※¹:今はもうない会社のようで、この製品もネットでは見つかりませんでしたが、同社の別の道具(ホイッパー)はこちらのサイトにありました。

※²:独)Presskopfと書きます。英語ではヘッドチーズ(head cheese)、フランス語では同じ意味でフロマージュ・ド・テート(fromage de tête)と言い、豚の頭部の肉を煮こごりにした料理です。ドイツのプレスコプフは豚の頭部の肉と、豚肉の粗挽きソーセージの詰め物をあわせて詰め、低温で燻製にします。地方によって使う材料にバリエーションがあります。

※³:独)Saure Rolleと書きます。「酸味のある肉のロール」という意味です。ドイツ北部シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州西部の沿岸地方のソーセージで、牛の第一胃に牛ひき肉に塩、コショウ、丁字で味をつけて詰めて茹で、保存性を高めるために酢が入った液に14日間漬けます。東フリースラントでは、肉に玉ねぎも加えホエーに漬けるのだそうです。
 食べる時は2cm厚さに切り、粉をまぶして焼きます。
 フーズムのものはこちらの写真をどうぞ。

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