化学療法による脱毛に対する頭皮冷却
J Clin Oncol. 2024, doi: 10.1200/JCO.23.02374. Online ahead of print.
化学療法に伴う脱毛は生命には直結しないものの、患者のQOLやボディイメージを大きく損なう。先進的な病院などでは頭皮冷却を導入している病院もあり、自分が以前勤務していた病院でも積極的な看護師主導で行われていた。しかし機械や専用帽子の準備、そして何よりコストをどう回収するかという点で苦労していたようであった。
化学療法誘発性の末梢神経障害予防などでも同様の苦労があり、なるべく高価な設備無しで行う工夫がなされているが、このあたりを保険承認に持っていくには患者会と医療機関が協力して粘り強く交渉していくしかないのかもしれない。(というか混合診療を認めてくれれば解決な気がするのだが)
今回の論文は化学療法誘発性脱毛症(Chemotherapy-Induced Alopecia: CIA)の内、長期(>6ヶ月)の影響(Persistent CIA: PCIA)について調査した韓国からの報告。
参加者は20~69歳のStage I~III期乳がん患者。NAC or adjuvantにアンスラサイクリン or タキサンを受ける予定の方。患者を頭皮冷却群と通常診療群に2:1で割付。
冷却機器はPaxman Scalp Cooling System 2を使用し、化学療法前30分 + 治療後20分(タキサン) or 90分(アンスラサイクリン)、冷却キャップを着用した。患者は冷却キャップ装着中10分間の移動は許可された。対照群は冷却処置以外は、冷却群と同じ患者教育を受けた。
患者はbaseline, 2cycle目の化学療法開始時, 化学療法終了1か月後 (62週), 及び6か月後(62ヵ月)時点で評価を受け、主要評価項目は6ヵ月後時点でのPCIAの存在(毛髪密度と毛髪の太さの変化がbaseline-2SD以上の)患者割合。
毛髪密度と太さの評価にはFolliscope 5.0を用い、頭部頂点の正中線で測定。
副次評価項目は毛髪密度、太さ、CIAに関連した苦痛(CIA苦痛尺度: CADS)、6ヵ月時点でのウィッグ・スカーフ・帽子の着用割合など。
結果
2020年9月~2021年8月に216人がスクリーニングされ、170人が冷却群 (113例)と対照群 (57例)に割り付けられた。化学療法前に各々7例、5例が同意撤回。更に介入群で16例が化学療法中、1例が化学療法後に同意撤回した。主な理由は冷却時間が長いこと(N=10)であった。最終的に最終visitまで完遂したのは89例 vs 50例であった。患者は平均年齢45.8歳, 12.9%がアンスラサイクリン治療を受けていた。
6ヵ月後のPCIA発症割合は冷却群 13.5% vs 対照群 52.0%で、相対リスクは0.27で冷却群に少なかった。年齢や化学療法の内容で差は無かった。
毛髪の太さの差の平均は冷却群 +1.5μm, 対照群 -7.5μmであった。毛髪密度(本/cm2)の差は冷却群 -45.4 (治療中)→-32.4 (1ヵ月後)→ +5.5 (6ヵ月後)、対照群 -35.4 (治療中) → -63.0 (1ヵ月後) → +9.1 (6ヵ月後)と一過性に両群とも低下したが6ヵ月後には回復していた。CADSスコアは冷却群 +3.9, 対照群 +7.0であった。6ヵ月後時点で脱毛を隠すためウィッグを着用している患者は、冷却群 17% vs 対照群 32%。スカーフや帽子を着用している割合は46% vs 71%であった。
VAS > 5点以上の関連有害事象として、化学療法中の悪寒・めまい・疼痛の割合は冷却群で各々28.1%, 32.6%, 52.8%、対照群で4%, 6%, 22%であった。しかし化学療法後では冷却群 5.6%, 14.6%, 22.5%, 対照群 4%, 32%, 38%と割合が変化していた。
本試験のアドバンテージは長期予後について調査した点とdiscussionでは述べられている。確かに「治療が終わったら髪の毛は生えてきます」と説明はしているものの、実際は治療終了後もなかなか生えそろわず苦労されているケースをよく目にする。本試験は比較的若年女性を対象とした試験だが、一般的な化学療法の対象となる高齢者ではなおさら生えそろうまでに時間を要するだろう。
そういう意味では冷却療法が一般的になれば良いと言いたいところだが、忘れてはいけない点は、本研究で冷却時間の長さ等に耐えられず同意撤回した患者がかなりいること。本論文の主要評価項目や有害事象は冷却治療を完遂した患者を分母として行われているが本来はランダム化した113例 vs 57例のITT集団で解析を行う必要がある。脱毛がendpointなので効果についてはまあ仕方ないと思うが、有害事象については過小評価されている可能性が高い。
冷却療法がTime toxicityを患者に与えているという事実はもっとdiscussionされるべきで、髪の毛が抜けるより時間の消費に耐えられない、と女性患者が訴えるということは、それ自体が相当な苦痛であるということを示唆している。医療者は分かりやすいendpointのみに目が行きがちであるが、冷却療法を完遂した患者が時間の消費を我慢したこともまた事実であり、本論文ではそれは評価されていないため、安易に髪の毛が抜けないから冷却療法が良いと結論付けるのは尚早であろう。
プロトコール原本を見ていないので何とも言えないが、冷却時間の設定は各薬剤の半減期など薬理学的情報をもとに決められたと本文中に記載がある。時間消費がつらい患者に対しては効果が落ちる可能性を説明しつつ、冷却時間を短縮する手順を追加したら、もう少しリアルなデータも取れたのではと思うが、Nも少ないし何とも言えないかな。
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