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【日本刀】研磨依頼〜研ぎの旅〜鑑定依頼

前回の記事で書いた、突然家に来た刀の話の続きです。今回は、研磨依頼をして、研ぎ上がって来て、鑑定依頼に出すまで。 

ちなみに『能狂言 鬼滅の刃』の京都公演を観た日、再交付していた登録証が届きました。野村萬斎無惨様が大変とても美しかったです。(案の定そのまま音を立てて能楽沼に落ちましたがその話もいずれ書きたい)


まずそもそも、有名な刀工の名前が伝わっている刀で鑑定書がないという状態は、例えるなら不思議な形の石があって「これは白亜紀のアンモナイトの化石だよ」と口頭だけで伝わっている状態のようなもの。素人では判別できないので「本当にこれが化石だったら素敵だな〜」と思っているような状態です。

鑑定書のない有名な刀工の刀は99%偽物だと言われているほど、日本刀界隈には本物・偽物問題が根底にあります。長い歴史を経て人々に愛されたゆえの産物であると言えますが、大金をはたいて購入したけど偽物だった…なんてことが星の数ほどあるこの界隈、あらゆる疑惑が生まれざるを得ないのも事実。これはもう仕方ない。

私も正直「この銘の通りだったらいいな」とはそりゃ〜思いますが、でも仮にこの銘に切ってある情報が本当じゃなくても、私から見たこの刀は素敵だしかっこいい。美術的価値があるとかないとか関係なく、これまでの先代の主たちが大切にしてきた物を引き継いで行けるなら、私はそれで充分だと思いました。

ただし、そのうえできちんと審査をして、「正しく」残していく。これは私の代だからできることで、様々なジャンルを通ってきた今のオタクの私だからできることかなと思います。

「刀は持ち主を選ぶ」とよく言われますが、今回の場合は完全に押しかけ女房されたスタイルだったのでちょっとニュアンスが違うかなと思いつつ、もしそれを選んだと言うならきっとこの刀自身が生き残るための最短の道を選んだんだろうなと思います。偉いね。賢いね。

あと余談なんですが、前回の記事で書いた登録審査会に行くのが決定した後、この刀の銘に刻まれている所持者のゆかりの地の聖地巡礼にも行きました。それもすごく楽しかったのでまた別の話で。

研磨依頼

さて、正式に登録証の再発行と所有者変更ができたので、さっそく研師の方に研磨の依頼をします。話はピカピカに研ぎ上がってから!

伝統工芸技術に担い手が少ないなど言われがちですが、少し調べるだけでも全国各地にあらゆる研師の方がいて、依頼を受け付けています。

今回は、以前フルオーダー(で阿弥陀丸の刀っぽい)居合刀を作っていただいた、岐阜県関市の濃州堂さんにお願いすることにしました。

フルオーダーした居合刀。最高。

言わずと知れたリアル刀鍛冶の里・関市の有名な刀屋さんで、居合刀から真剣まであらゆる相談に乗ってくださいます。別にたまたまこの時アニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』が放送中だったから里を意識したわけではありません。ちょっとあります。
以前フルオーダー居合刀をお願いした時にとても親切に対応してくださったので、真剣もきっと大丈夫に違いない!と思いお願いしました。メールで必要事項を伝え、まずは現物を送ることに。


発送〜研磨の旅

刀を送るならゆうパックが良い、と聞いていたため地元の郵便局に持ち込みます。運送会社によって規約により刀剣類が送れないことがあるのでご注意ください……と聞いていたので郵便局に持ち込んだのだけれど、送るにも登録証が必要だったようで、しかも画像ではなく目視で確認できる紙ベースのものを見せないといけないらしい。ここで私は油断しきっていて、封入はしてあるけど手元に何も持っていなかったため一度家に帰って出直すなどをしましたが、無事に送れました。登録証のコピーはたくさん持っておくべきと学んだ…!少々焦ったものの、無事に送れたし、発送についても学んだ。次も多分大丈夫。

数日後、受け取りの連絡があり、見積もりをしてもらい、そのまま研磨をお願いしました。

ボークスでドールをフルチョ(※)した時のような気分だ!!!(※ボークス社のドールのフルチョイスオーダーシステムのこと。ドールを自分好みにオーダーするシステム。)
納期は2ヶ月。のんびり楽しみに待ちます。

もう一振りの刀

前回の記事で少し触れた、一緒に譲ってもらった脇差について。

こちらは刀より小さい脇差で、ちゃんと登録証もあり、刀身も綺麗で、何の心配もなく安心しきってきたので深く考えていませんでしたが、よくよく見たらどう見ても「小太刀」でした。小太刀とは、平安末期〜鎌倉時代に子ども用や女性用に作られたとされる、文字通り小さめの太刀です。
…………………えっ!!!!!!これ小太刀!?!?じゃん!!!?!?!?!?登録証に脇差って書いてあるけど小太刀じゃん!!?!?!?!??
…と思ったら、登録における刀剣の分類上「小太刀」は存在せず、サイズ的に同じ「脇差」に分類されるらしい。し、知らなかった…。

しかしよくよく観たら刃文がうっとりするくらいとても綺麗な刀で、腰反りがセクシーで切先がちっっっちゃくてかわいい。かわいい〜。
持ってみて気付いたけど、長めの脇差というか、これくらいのサイズが私のような大きさの人間には1番振りやすいなと思いました。実際に斬るためには刀自体の重さも必要だとは思うんだけど、体格的にしっくり来る長さ。もしかしたら本当に女性のために作られたのかもしれないな、そういうことはもう誰にもわからないことだけど…。

この小太刀もそのうち鑑定に出して、いつの時代の刀かはっきりしたいなと思います。私は古刀にこだわりがあるわけではないので、この刀がどの時代のどんな鑑定をされるのか純粋に楽しみ。とは言いつつ、「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨様推しなのでもし本当に平安〜鎌倉時代くらい古いものならそれはそれで興奮しますが…刀鍛冶の里編のアニメ最終話本当に最高でしたね……!!!

研磨の旅 帰着

旅に出して60日後、「研ぎ上がりましたよ」の連絡が来た!!!帰ってくる!!!よかった!!!

宅配便で受け取り、開封。60日あっという間だったな…(※この期間ずっと能楽と鬼滅に狂っていた)

ピカピカ!!!すごい!!!!めちゃくちゃ綺麗になってる!!!!!!

…ただ、研ぎに出す前からちょっと予感してたけど、刃文の形が銘の刀工の特徴と明らかに違う。全体の雰囲気や刀身の肌はなんとなく似ているように思うんだけど、刃文の特徴が決定的に違う。

ピカピカにしてもらってめちゃくちゃハッピーだけれど、いかんせん刃文に釘付けになってしまった。とは言え刀身自体はとても綺麗にしてもらっていて、研ぐ前に見えなかった沸の部分が見えるようになっていてとても美しい。すごい。職人さんはすごい。


ここで出てくるのが、「偽銘」である可能性と、もうひとつ「焼き直されて刃文が変わっている」という可能性。
江戸時代頃まで日本刀は実用さを重視されていたため、火事などで刀が焼けた場合、再び使えるようにするために焼き直されることが結構あったそう。焼き直しした場合、オリジナルの刃文は失われます。上書き保存みたいなもの。
この刀の場合はどうかわからないし、茎を見ても焼けた跡は見受けられないから可能性は低そうだけど、この刀の経歴からして有り得なくもない話かな…と思います。

ちなみに刀剣乱舞での私の推しの「陸奥守吉行」も、元の作風と違って現存している刀はまっすぐな直刀で刃文も直刃だけど、火事で焼けた後に再刃されて、刀身の反りと刃文が変わったと伝えられています(※そのためうちにも陸奥守吉行の模擬刀が2振あります元の作風verと現存ver)。
もしこの刀もそうなら、なんと適切な主を選んだものだろうと思います。日本刀界隈では再刃は敬遠されがちで、価値や評価もかなり下がります。そんな中で、再刃された刀を推している人間なら大丈夫だろう!ということでしょうか。賢いね〜。…いえ、今回のこの刀がどうなのかはわからないし、ただの希望だけれども…。

ただ、この刀の場合は経歴と銘から少なくとも2名の武将が関わっている可能性があって、その話自体が違うのか、それとも経歴は合ってて銘が違うのか(その場合どうなん…?)、謎は深まるばかり。

鑑定依頼

数ヶ月後にある日本刀剣保存協会の鑑定に出せば大体のことがわかると思っていたけど、再刃だった場合は不合格になる可能性も高く、そもそも使用感があって状態もそこまで良くないから、美術的価値を審査される鑑定ではどこまでのことを教えてくれるのかはわからない。

それならいっそ、民間の機関で鑑定してもらうのもアリなのでは?と思い立ちました。唐突に。

少し調べると、いろんな業者が鑑定依頼を受け付けています。ですが民間業者の鑑定書は日刀保の鑑定書と違って売りに出したりする時に信頼性のあるものとしては使えません。でも私にはそんな外に出す予定もないし、何より情報を知りたい今の私にはベストな解決策だと考えました。
数ある業者のひとつ、倉敷刀剣美術館さんが行っている鑑定が親切そうだったのでお願いすることにしました。この美術館さんには刀剣乱舞にハマりたての頃に一度行ったことがあって思い出深い所です。私が行った時には女性のお客さん全然居なかったけど、今はどうなのかな。

HPの専用フォームから依頼、向こうから専用の送付キットを送ってもらい、それに従って刀を梱包して送ります。

真とか偽とか、このモヤモヤしている期間が1番楽しいということは重々わかっています。恋愛とかと一緒。でも精神衛生にはあまり良くないので、手を伸ばしてわかることがあるならお願いしたい。勝手に期待して勝手にガッカリしたり恥かいたり傷付いたりするかもしれないのは承知の上で、今既にもうここまで来ている。もう、どんな結果であれ当たって砕けるから…私が…。

続き→【刀のはなし】鑑定結果が届きました!


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