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チェイテ城とか行ってきたよ【3日目:チェイテ博物館編】

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チェイテ城に行って、ホテルで寝て、その翌日。

最終的にこの時に行った博物館が城と合わせて今回のハイライトとなりました。博物館に行ってから村を離れるまでと、道中で見つけた簡単な答え。

【3日目:チェイテ博物館編】


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爆睡した。めっちゃ寝た。今回の旅行で初めてのホテルで迎える朝、ここはスロヴァキアのチェイテ村で、実質旅行3日目。今日はチェイテ村を観光してから、首都のブラチスラバに行く予定。

今日はめちゃくちゃ快晴だ〜!こんなに快晴だともっかいチェイテ城行くという手もあるけど、でもなんか、今日行くと帰ってこれない気がする。あと今日はブラチスラバ観光もしなきゃだし。それに、また来れそうな気もする。今日は先に進もう。

チェイテ村にはいくつか観光客向けの施設がある。郷土資料が置いてあるチェイテ博物館、地下に血みどろ人形とかが展示してあってホラー施設みたいになっているチェイテアンダーグラウンド。そのチェイテアンダーグラウンドには併設しているワイナリーがあって、伝承によると拷問部屋に使われていたという地下室をワイナリーに利用しているという。………え?何て???笑 めちゃくちゃ気になるけどワイン持って帰るの今回ばかりはキツそうだ。行けたら行きたい。赤ワインなのかな………………。

(2020年現在、チェイテアンダーグラウンド閉館した模様!ざんねん!!!)


あとこちらはホテルの近くにあった記念硬貨の自販機。

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1枚2ユーロで、お城か肖像画の2種類の柄から選べる。実は昨日、城の帰りになけなしの2ユーロ硬貨で1枚だけ買っていたのでした。

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結果的にこのコイン1枚がチェイテ村での唯一の買い物と相成りました。(※おみやげに配るつもりでいたんだけど寄るのを忘れる痛恨のミス)

そしてこちらが今回泊まったホテルとお店の看板。ピスタチオ色でかわいい。

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おみやげ屋さんも兼ねてたのね…昨日チェックインの時テンパってたから気がつかなかった。お金落としたい…チェイテ村にお金を落としたい……!!!

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一生懸命撮った自撮り。

写真撮ってる間、自転車でツーリングをしてる人が結構いて、何人かとすれ違った。ヨーロッパでツーリング楽しいだろうな〜みんなどこから来たんだろう…。

ここは村の中央に位置する広場なんだけど、人影は少なくて静か。歩いている人は少なくて、たまに車とか自転車が通るくらい。

ひとしきり自撮りで遊んだ後、博物館の開館時間になっていたので移動。博物館はこの像のある平場からすぐの高台にある。

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階段のところに白いネコちゃんがいたけど目を合わす前に逃げられてしまった。ノラネコ結構多いのかな?

入口から入ると大きなバートリ夫人の絵。と鳥の剥製。

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おお…さすが…さすがチェイテ博物館…!高知における坂本龍馬の扱いだわ…!!!

ちなみに館内の写真は全然撮ってないのだけれど、Googleストリートビューで見られるから見てね。↓

Draškovičov kaštieľ - Múzeum Čachtice(Googleストリートビュー)
https://goo.gl/maps/xJoTxSs67yF3kSNP6

入口からすぐのところに階段があって、受付や展示施設は2階の模様。キャリーを引きながら上がっていく。


博物館館内


階段を上ると真っ白な扉にぶち当たった。ドアノブも重々しくて、スロヴァキア語で何か書かれた紙が貼ってある。あまりに重々しくて一瞬休館なのかと思ったのだけれども、張り紙を見た感じ開館時間とランチタイムの案内っぽかったので、満を辞してドアノブに手をかける。

日本の皆様、こういう張り紙には母国語の漢数字などを使わずにぜひ半角英数字でご記載くださいませ…。

ドアを開けると、真っ白い部屋に日差しが差し込んでいてとても明るかった。受付カウンターのような囲いの中に女性が2人いて、こちらを向いていた。よかった、普通に入れそうだ。女性2人は若い方と妙齢の方のコンビで、2人ともブラウン系の髪の色で背が高くてすらっとしている。東欧の女性ほんま美しいな。あと私、このチェイテに来てからこういう綺麗な女性ばかりと遭遇しているし、逆に若い男性とか見なかったぞ。何なんだチェイテ。

チケットを買ったところで、受付のお姉さんに「英語でガイドツアーできるけどどう?」と声をかけられる。英検準2級の私、きちんと理解できるかと受け答えできるかがかなり自信なかったものの、流れでお願いすることにした。キャリーも預かってもらえてありがたい。


この村の規模にしてはかなりしっかりした、綺麗で整備された博物館だ。(取ったまま持ち腐れしている学芸員資格の血が騒ぐぜ!!!) 館内は部屋と部屋同士が繋がっているタイプの作り。肖像画の展示も多いから、どっちかと言うと美術館の雰囲気に近いかな。照明自体は暗めだけど、白い壁と自然光で明るい部屋に見える。カントリー系でオシャレな感じ。

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ガイドツアーは大きな肖像画の前でスタート。左がフェレンツ2世、右がバートリ夫人。

お姉さんは優しい英語で解説してくださり(本当ありがとう!!!)、私も本やWikipediaで読んでいた情報のおかげでスルリと理解することができた。

広く伝わっている伝承、自分の美意識のために600人を超える少女を惨殺したとされる『血の伯爵夫人』。感情の起伏が激しく、しばしばヒステリー的な言動が見られたとされるが、狭い貴族の親戚間で血が濃くなった影響によると言われている、ということ。などなど。


館内を移動しながら展示の説明を聞く。次に着いたのは家の紋章が並んでいるエリアで、バートリ家の紋章のドラゴンの爪とか、娘さんが嫁いだ家の紋章などいろいろ教えてもらった。娘さんの嫁ぎ先とかは初めて聞いたからちょっと感動した。

大量殺人の罪でバートリ夫人は罰せられたものの、4人の子ども達は無事で、それぞれが生きて行ったという。その辺ってあんまり他では語られてないと思うんだけど、それだけの罪を言われても子ども達が無事って凄いことのような気がする。死後の遺産も子孫に分配されたらしい。バートリ家の貴族の位が高かったとはいえ、周りの人達がかなり頑張ったんだろうな…。


エリザベート・バートリについて


ガイドのお姉さんの説明を理解できた覚えている限り。間違ってたらごめんね。

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伝承で伝えられていることは、バートリ夫人の死後100年以上経ってから広まったものです。

有名な鉄の処女・アイアンメイデンは実際にあったものではなくその頃に作られた話で、血の風呂についても実際にあったという何かが見つかっているわけではなく、正しくないというのが最新の説です。

ただ、サディスティックな人であったのは確かなようです。(ここで耐えきれずフフッてしてしまう。) 召使いに対する折檻や、領地の若い少女を連れてくるという事は行われていたようです。

チェイテ城にも飾ってあったこの絵↓は、死後100年以上経って描かれたものですが、「その辺で捕まえてきた娘をひっぺ剥がして氷水をかけて楽しんでいるエリザベート」の絵です。(ここで耐えきれずoh…って言った)

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よく「城の土の下には無数の遺体が…」と言われますが、城の敷地内からは死体は出てきていません。ただ、城内で出た死体は3人分をひとつの箱に入れて森に捨て、骨まで野獣に食べさせたとされています ←!???!??

なお、拷問に使われた地下は今でも少女の幽霊が出るとされ、そのカタコンベはミュージアムになっています。後で行ってみては?(そうっすね!!!って答えたと思う)

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…と、こういう感じで、映画『BATHORY』でも盛り込まれていた新説をここに来て改めて聞いた。私どっちかと言うとバートリ夫人庇護派なので笑、この話が聞けてよかった。


バートリ夫人の死後というとちょうど17世紀、中世ヨーロッパでは魔女狩りの真っ只中の時代。その頃に伝え聞かれた、ハンガリーの片田舎の、恐ろしい大量殺人鬼の女領主…ともなれば、格好の題材だっただろうと思う。しかもそれが美しい女性であったなら、自分の美を保つために血の風呂に入ったとか、血を絞るための器具を作ったとか。

これは私の自論だけど、死後100年以上経って広まったとされる伝承は、17〜18世紀の魔女狩りの時代に都合よく脚色された話が、色濃く根付いたのではないかと思う。世にも恐ろしい逸話を持つ東欧の魔女として。その元の形が、誰にもわからなくなるほどに。


ガイドのお姉さんの話は次のように続く。


「多くの召使いが、彼女を守ろうとしました。」

「エリザベートの死後、その遺体はチェイテの教会で手厚く葬られました。町の中心にある教会です。ここの窓から見える、あの教会です。」

「お墓は公開はされていませんが、この町の人々はあの教会で手を合わせ、祈りを捧げます。」


エリザベート・バートリ、地元でめちゃくちゃ愛されてる…。


何というか、それが私が聞きたかった答えのような気がした。もし、歴史に伝えられる文字通りの恐ろしい暴君だったとしたら、今もこんな風に大切にされているだろうか?

昨日見た、華美ではない、そのままの形で保たれた自然の中の美しい城も、歩きやすく整備された歩道も、いまいち商売っ気のないこの村の雰囲気も、そこに繋がったような思いがした。

地元に愛されていた領主。その結果が、この村に息づいて繋がった「今」にあるのだとしたら。それこそが、「受け継がれた姿」なのではないだろうか。

彼女を守ろうとした人達がたくさん居て、歴史に翻弄され、名を残したひとりの女性。

この村で息づくのは、そうやって人に愛された領主の姿だ。



ここに来るまで、地元の人はどう思っていて、どういう扱いをしているのかすごく疑問だった。

伝承通りのエリザベート・バートリ像を求めている人にはガッカリかもしれないけど、でも、歴史ってそういうもんなんだと思う。ここから見える歴史は、あらゆる人達の想いの結果だ。

それに、この村の雰囲気はその血なまぐさい伝承まるごと面白がって受け入れている感じすらする。まるで村のアイドルのおてんば娘がした粗相のような…いや粗相ってレベルではないのだけれど…。



その後もお姉さんからいろんな話を聞いた。郷土資料のことや、この村のこと。

昔はこの辺りは厳正なカトリックで、既婚女性は夫の前以外では髪を下ろしてはいけなかったこと。今のイスラム教みたいな感じだけど、そこまで厳しくはなかったということ。

あと印象的だったのが守護天使の話で、お姉さんが屋根のレリーフの像を指差しながら「日本でも天使は知られてる?」と私に聞いた。「ひとりひとりに守護天使が付いているのよ、私にも、あなたにも。」

血の伯爵夫人の話を聞きにきたこの場所で、守護天使の話を聞くとは思わなかった。カトリックの話はたまに聞くことがあったけど、守護天使の話は知らなかったな。カトリックの人ってそういう想いを抱いているのか。


お姉さんはとても親切で、たまに「英語で何て言うんだったかな…」って詰まることもあったりしてすごく和んだ。英語で上手に返せない私に対しても、わかりやすくよくよく話して、聞いてくれて本当にありがとうございました。



博物館にはどれくらいの時間いたかわからない。丁重にお礼を言って、外に出た。最初から最後までお客さん私ひとりだったな…。



チェイテ村にて


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あまりに情報量が多かったので広場のベンチで休憩。


そうそう、ここでさっきも言った2010年の映画、ヤクビスコ監督の『BATHORY(邦題:アイアン・メイデン)』の話を。他にも「血の伯爵夫人」バートリ夫人をテーマにした映画はいくつかあるけど、これは新説を混ぜて新たな切り口から描いた作品。人々に恐れられる魔女ではなく、歴史に翻弄されたひとりの「闘う女性」の姿を描いていて、何より取り巻きの人達が彼女を守ろうとする姿が描かれていて良かった。と言うか、監督や脚本がバートリ夫人大好きなことが端々からにじみ出ていて良かった。何あのパラグライダー。

何が言いたかったかと言うと、後に「魔女」としての伝説が歴史に刻まれた人を守ろうとした人がいる。それは今も続いている。


あらゆる手段で美を追い求めたとか、そのために何百人も殺したとか。そのインパクトはより強い方がいい。それが虚構であれ、誰かの都合であれ、趣味であれ。

それに魅了された誰かが、また語り継いでいく。恐ろしくおぞましい物語として、はたまた何かを求め続けたひとりの女性の姿として。もしくは皆に愛されたその人として。

語り手を替えて何度でも描かれて、その姿はまた違う誰かに届いていく。


ああ、そうか。


それこそが「永遠の美」なのだ。


その姿は、人が物語を紡ぐ限り、永遠に語り継がれて、描かれていく。

その永遠の一端が「ここ」にあるのだ。


なんだ、簡単なことだった。


きっとこれからも、あらゆる話で飾り付けられた「美」が生きていくんだろうな。ここで生まれた血で彩られた伝承の形が、「吸血鬼」という怪しく美しい伝説として生きていく。物語を描く人が生きる限り永遠に、形を変えて、何度でも。あらゆる分野で、新しいキャラクターや、物語を携えて。


物語を描く人がいる限り、"その人"は孤独じゃない。それは、これまであらゆる人が繋いできた、私の足元まで続くひとつの道だ。


その一端としてなら、私がここに来たことにも意味があるかな。そして、この記録を読む誰かにも。


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ゴーンゴーンと、教会の鐘が鳴った。厳かな音が静かな村に鳴り響いて、思考が止まった。

この美しい場所に来られて良かった。教会の鐘を聞きながら、眩しい初夏の日差しと柔らかい風の中で、ぼんやりと思っていた。



あと20分で電車が出る。もうちょっとここに居たいと思う。と同時に、何かに背中を押されるような思いがして、重い腰を上げて歩き出す。

この道の先を行けば「チェイテアンダーグラウンド」っていうホラーハウス。ここに来る前はめちゃくちゃ行きたかったけど、いや確かに行くつもりだったけど、今は違うな。そういう話を今から聞くのはちょっと野暮だし、今の私にはもうこれで充分だ。


電車、これ逃すと2時間後だしさ。また出会えるものもあるさ。何ならまたここに来るかもね。さあ、行こうか。


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両側がお墓に囲まれた、駅に続く道路。昨日は気がつかなかったけど、それぞれのお墓がたくさんの色とりどりのお花で飾られている。春の優しい花、夏の鮮やかな花。大きな輪にしてあったり、花束が置かれていたり様々だ。風が吹くと花びらが舞う。

こんなに綺麗な墓地、初めて見た。今日は何かの日なんだろうか?それとも、もともとこういう感じなんだろうか。


柔らかい風が吹いて、ふと目をやると、ひとりのおばあさんがお墓の前で両手を合わせているのが見えた。側に自転車があって、彼女の目の前のお墓には大きな色とりどりの花束が備えてある。こちらに背を向けていて、表情は見えない。

おばあさんの静かなその姿は、拝むというよりも、敬虔な祈りだった。

大切な人が眠っているんだろう。その人のことを想う、その祈り。


柔らかな初夏の風の中、たくさんの花越しに見たその美しい景色が、目に焼き付いて離れなかった。


ふと、「人の死を想う、いい村だな」と、思った。



おかしいな、大量殺人鬼とされる人の村に来たのに。こんな美しい景色に出会うなんて。

いつか、私も、あんな景色を描けたらいいな。



電車には間に合った。多分到着が発車時刻より遅れていた。スマホで券を買いながらギリギリで飛び乗ることができた。村から歩き始めた時は正直絶対無理だと思ったし、正直何で間に合ったのかよくわかんない。でも電車には乗れた。

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一応指定席も取ったけど、席まで行く気力がなくて、キャリーに座ってぼんやりと車窓を眺めていた。


行きと同じ、Nové Mesto nad Váhom駅で乗り換えて、首都ブラチスラバへ。


【3日目:ブラチスラバ編】に続く。

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