学生運動メモ:学生運動とクラシック

中上健次『黄金比の朝』(1974年)では、主人公(浪人生)の兄が過激な党派に入っていて、主人公の部屋に転がり込んできます。こんな描写がされます。

兄はまず歌謡曲にダイヤルをあわせた。それからFMに切りかえ、クラシックにダイヤルをあわせた。ぼくと斎藤(注:主人公の予備校仲間)がけげんな顔をしていると思ったのか、兄はわらい顔をつくり、「そら、ブランデンブルグきくほうが麻丘めぐみきくよりよっぽど良えというのを知らなあかん」と方言で言った。

クラシックを意識的に聞く。わざわざそれを歌謡曲と比較して弟たちに説明する。ずいぶんな気どりと言えるのではないでしょうか。村上春樹『1973年のピンボール』でも、学生運動(全共闘だと思われます)で教室棟を占拠した学生たちがクラシック・マニアになっていたという描写があるので、当時の政治的な学生はクラシックを聞くのがかっこいいと思っていたのかもしれません。もちろん1970年前後はジャズが流行っていたので、そちらの方が気どりが少なく聞けていたかもしれません(中上健次は大学には行っていなかったけれど学生運動に関わっていました。若い頃新宿のジャズ喫茶に通い詰めていたことがよく知られています。)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?