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川崎フロンターレ ”鬼木流”で突き進んだ栄光と苦難の科学 〜 7年間のデータから変化を見る 〜

※本投稿は、早稲田Uデータサイエンスラボの学生が作成したレポートを、ゼミ発表資料として原文掲載しております。予めご了承下さい。


Abstract

今回は4度のリーグ優勝を果たすなど輝かしい実績を残した川崎フロンターレの黄金期と現在の不調について、鬼木達監督指揮下の2017年から2023年までの7シーズンを、我々が独自に算出したデータを元に分析しました。
結果として、我々はデータから川崎フロンターレは明確に弱体化した、と結論づけました。が、それは決して川崎だからこそ起こり得た問題ではなく、日本サッカー界全体に共通するある大きな問題の一端の結果ではないかと、私は思っています。

Introduction

鬼木達監督のもと2017年から2021年の5年で4度のJリーグ優勝とまさに「最強時代」を迎えていた川崎フロンターレ。
しかし2022年以降はリーグタイトルから遠ざかり、昨シーズンはなんと8位という低調な結果に。

---- 川崎フロンターレは何が変わってしまったのか?

鬼木監督のもと黄金時代を過ごしたフロンターレは、一体何が変わってしまったのか。
そして、復調のためのピースとは。
今回はそんな川崎フロンターレの2017年から2023年までの7シーズンをデータ分析の観点から評価・考察します。

Method / Results

まず、今回の分析では鬼木監督就任後のシーズンをJ優勝シーズンとそれ以外とに分けてそのデータの相関性を調べました。
具体的には、
勝ちシーズン:2017,2018,2020,2021
負けシーズン:2019,2022,2023
です。

では早速データから弾き出されたKPIデータを見てみましょう。

---- 勝ちシーズン時に増えるスタッツ

勝ちシーズン時に増える相関KPI(数値の高いものだけを抜粋)

上記のグラフは、勝ちシーズン時に増える相関KPIを数値の高いものから並べたもの。
言い換えると、グラフの上に行けば行くほど、ズバリ勝ちシーズンにはできていたけれど負けシーズンでは課題となってしまった場所、「変化」といえる。

一番上はShots on target %、すなわち枠内シュート率。
負けシーズンではシュートを放ってもなかなか枠内に飛ばせなかったことがわかる。
その原因でもあるのだろうか、シュートに結びつくセットプレーの割合も負けシーズンには減少している。
そしてラストパスの成功率・成功数、空中戦勝率、Match tempoとはボール保持時間1分あたりのチームパス数、ロングパス成功率・・・と続く。

このグラフから読み取れることは主に以下の3点。

勝ちシーズン→負けシーズンでの「変化」は・・・

①枠内にシュートが入れられなくなる
②保持時のパス数は減少もパス成功率は悪化
③地上・空中ともにボールロスト率が増える

当たり前と言えば当たり前のことだが

---- 勝ちシーズン時に減少するスタッツ

続いて勝ちシーズン時に減る相関KPIのグラフを見てみよう。

これはすなわち先ほどと逆、勝ちシーズンにはなかったが負けシーズンでは増えてしまった事象についてのデータだ。

このグラフから読み取れる「変化」は、

①ロングパス・クロスに頼るようになった
②警告・退場・ファウル数の増加→守備で後手に回るようになった
③被失点数・被シュート数の増加

が主には挙げられる。

Discussion

以上の2つのデータから、川崎フロンターレは勝ちシーズンから負けシーズンを見た時に、

---- 負けシーズン時の攻撃

相手守備を崩せなくなり、単調なロングパスやクロスに頼るようになった。またシュートの精度が下がった。

---- 負けシーズン時の守備

地上戦・空中戦ともに後手に回るようになり、その結果ファウル数が増えた上に被シュート数も増加した。

…が「変化」として現れた。

一般的な弱体化といえばそれまでですが、やはり川崎フロンターレの場合は主力が海外に流出してしまったことも大きな要因の一つでしょう。
三笘が去り、田中碧が去り、守田が去り、中村憲剛が去り・・・。
そんな代表主力クラスの穴を埋めるのは容易なことではもちろんありませんが、データとしてその代償はしっかりと現れているように思います。
また後方からの繋ぐサッカーへの対策も近年の川崎を苦しめてきた事象の一つでしょう。
ロングパス関連のデータがグラフにも多く登場していた通り、負けシーズンではロングパスに頼らざるを得ない状況を、相手に作り出されていてしまいました。

---- 川崎はどう生まれ変わるべきなのか?

では今後、川崎はどう生まれ変わるべきなのか。
正直今シーズンも、かつての川崎の後方からの繋ぐサッカーが復活したとは言い難いでしょう。
しかし、そこを逆手に取ったサッカーを川崎は今、少しずつ掴んでいるように私には見えます。

---- 重要KPI(ロングパス)との向き合い方

ゴミスの補強はその一手でしょう。彼の空中戦での強さを活かすことができるのは、むしろロングパスを用いたサッカーでなければなりません。
どのチームも、主力の高齢化や海外流出の波が来ればそこを乗り切るのは容易いものではありません。
今回の川崎の弱体化は、今のJリーグが抱えている問題を大きく反映したものとも言えるのではないでしょうか。
選手が活躍すればするほどその評判は世界に知れ渡り、逆にチームは苦労を強いられる。
あれほどの人材を放出しておきながら川崎が直近5年で手にした移籍金は総額900万€程度、Jリーグの中で見れば多いとも思えるかもしれない額かもしれませんが、そんな角度からマーケットを見ているようではいつまで経ってもJリーグは「安価な刈り場」でしかありません。
川崎はその刈りを乗り越え次の苗を植えようとしている、新たなサイクルの一歩目にいると言えるのかもしれません。

Author

早稲田ユナイテッドデータサイエンスラボ所属
福嶋 陸人
聖光学院高等学校3年。東京都出身。
10年来のサッカーファンで好きなチームはレアル・マドリード。
Xアカウント:  https://x.com/challenger06G

Chief Editor

早稲田ユナイテッド代表
岩崎 勇一郎
早稲田大学および大学院修了(工学博士・MBA取得)
 研究職時代は遺伝子改変による遺伝的アルゴリズムの解析など
FC大阪 スポーツデータサイエンスディレクター
Xアカウント: https://twitter.com/iwasaki_wu

About this article

本投稿は、早稲田ユナイテッドデータサイエンスラボの学生が作成したレポートを、ゼミ発表資料として原文掲載しており、ゼミ内での質疑応答に使われております。

早稲田ユナイテッド データサイエンスラボとは

隔週で開催されている早稲田ユナイテッドデータサイエンスラボ(朝活のオンラインゼミ)では、上記のゼミ発表に対して、各種ローデータと共に、Jリーグやプロサッカークラブ現場における実践的なデータサイエンス視点から補足データ説明や現場見解の共有をゼミ生向けに随時行なっております。

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早稲田ユナイテッドデータサイエンスラボでは、統計学に関わるプログラミング(Python・SQL・Rなど)を学習すると共に、世界のプロサッカービックデータ解析を通じて、定量的にサッカー界の原理原則を理解し、データサイエンス人材の育成・輩出と、日本サッカー界が発展していくための強化コンサルティングを現場実践していくことを最終的なゴールとしています。

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