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うらかたり 特別編

こんにちは。どらま館企画部技術班の中村マサシです。
今回は12月のうらかたりを執筆いただいた目黒さんに、技術班の2人(大澤・中村)でインタビューをさせていただきました。前回の目黒さんの記事はこちらをご覧ください。興味深い話ばかりなので少し長いですがぜひ最後までお楽しみください!

はじめに

中村:
うらかたり記事、執筆ありがとうございました。
大澤:
ありがとうございました。
目黒さん:
いえいえ。
大澤:
記事を拝見して、もう、めちゃくちゃ素敵だな……と思いました。
目黒さん:
ありがとうございます。
中村:
聞きたいことはいくつかあるのですが……、まず記事の前半のことについてなのですが、

衣装プランを考える。


中村:

演出さんと打ち合わせをしてそれから衣装のプランを作る段階で、打ち合わせの情報を色彩とか素材のイメージに移していく、その変換が書いてあって、なるほどっていう思いと、こうつながっていくんだ!っていう驚きがありました。自身の意識として、その変換は結構感覚的にやっていくのか、それともロジカルにやっていくのかっていうのはどんな感じなんでしょう?
目黒さん:
そうですね……うーん……。例えば、ジレンマを抱えているキャラクターがいるとして、その衣装に柔らかい素材と硬い素材を分けようって決めるみたいなことは結構ロジカルに判断しているかな、と思います。ただその色とかは、結構私が持っている偏見とか感覚で選んでいるのかなって思いますね。
中村:
なるほど。ここでその、ジレンマを素材の質、硬さで分けたのは、どんなところから着想を得たんでしょう?
目黒さん:
その、模様とかじゃなくて素材にしたのはなんでかっていう?
中村:
そうですそうです
目黒さん:
確かに……確かにそういわれるとこのチョイスは感覚的なのかもしれないですね。衣装プランを組むときは、最初に色とか模様を考えるんですけど、だいたいその色は、キャラクターの性格とか、人物像とか、役同士の関係性で反対色使ったり、そういうことから固めていくんですね。だからあんまり細かいジレンマを抱えているとかまでは(色や模様では)伝えにくい。人数の少ない舞台だったら、いろんな色を一人の中で使えるのでそれもできるかもしれないんですけど、人数がある程度いるとどうしても担当カラーみたいな感じで使うのが分かりやすくなるので。だから内面の部分をそういう色に託すよりは、素材とかのほうがやりやすいな、と......。といっても、この役の場合も反対色を頑張って使ったんですが。

衣装を“選ぶ”


 中村:
    記事を読んでいて思ったのが、というか普段から思っているんですけど、衣装っていうセクションがすごく特殊だなって思うんですよね。普段でもやること、って言う点で。服を選ぶっていうことは、みんなある程度当たり前にやっていて。でも、演劇っていう特殊な空間ではセクションとして”衣装”があって。目黒さんは普段着と舞台の衣装で考え方が違うところはありますか?
目黒さん:
そうですね。普段服を着る時は、だいたい自分の服を選んで自分で着るので、まず人に選んで人に着てもらうっていうのが一つ条件的な違いです。だから、そういうすごく基礎的な部分でいえば、サイズの違いは大きいですね。他にも、演劇というものの特性でいえば、私個人の好みだと一週間あったら全然違うジャンルの服をなるべく週の中に入れたいんですよね。「この人はこういう系統の服だな」みたいな、そういうことをあんまり固定化したくない、という気持ちがあって。ただその衣装ということになると、衣装変えがあることもありますけど、大抵の場合そのキャラクターとか、その演劇の世界の服ということで、1パターンしか作れない。それが違いですね。
大澤:
衣装を選ぶときに、その役への衣装っていうのと、役者さん自身との兼ね合いって考えますか?
目黒さん:
そうですね、結構あります。サイズとか、最近骨格が、とか言いますけど、やっぱりそれはあって。サイズの面で役者の身体に合うかって言うのは勿論あるけど、それよりもう少し踏み込んで、「この人こういう体のバランスをしているからこういう服の方が合うなあ」みたいなことはよく考えます。あと、単純によく知ってる人物とかだと、こういう服の方がすきだろうなって思って選ぶこともあります。逆もありますね。この人こういう服全然着てないな、着ろよっみたいな(笑)
大澤:
素敵ですね(笑)

舞台美術と衣装


大澤:
あと、もう一つ気になったのが衣装と舞台美術の関係性です。例えば簡素な、わりと単一的な舞台美術だったら、逆に衣装をカラフルにしてみようとか、その逆も然りで、美術と衣装の関係はどんな風に考えていますか?
目黒さん:
基本は演出家の意向を聞いてそれにそった形を目指します。でも、そんなにオーダーがないときは、例えば『犀臨』(劇団木霊2021年新人公演)って作品だと、ある役が舞台の中央に立った太い柱の後ろで手を広げるっていうアクトがあったんですね。だからそのお客さんからは手しか見えないっていうシーンがあって。そこで、なんとなく柱と同じような色の方がいいなと思ってそうしてみました。あとは逆に、自分の衣装を組んでみてなんかちょっとこの辺の色足りなかったな、と思った色が後から美術でついてくれると、うわぁっありがとう!って気持ちになりますね。

「平らに稽古するだけ」の衣装


中村:
ここからは、「平らに稽古するだけ」の時のお話を伺いながら、目黒さんの衣装観、みたいなものの本質に迫っていけたらと思っています。この時は、演出もご自身で、他の人からのオーダーに答える、という形では無かった訳ですよね。その中で衣装を作っていく。その時に、スタートが他者の演出家からのオーダーじゃないってところで、普段とは異なっていただろうなと。この時はどんな風にプランを組んでいったのか、伺いたくて。
目黒さん:
そうですね……。まず単純に私の好みとして、なんか、あの、キモイのが好きなんですよ。(笑)
大澤:
キモイもの(笑)
目黒さん:
はい(笑) キモイって色々あると思うんですけど、私が特に好きなのは、バイクのカバーとか、車の日よけのカバーとか。あとダクトホースとか、うねうねしてるやつ。あと、配管とか、配線とか。そういう、人工物なんだけどなんか有機的な感じがする、みたいなのがすきで。そういう衣装を作りたいな、ってやったのが一つですね。
あと、あの、「肉体逃走合宿」だったかな、そういう試みがあって、
still human | Shin Hanagata
 
普段って頭に目がついてて、そこから見るじゃないですか。だけどこれはこの全身タイツを着た人の足先にカメラが付いてたり腰にカメラが付いてたりする。そして、そこから見える映像がこの人の目の前にあるモニターに映し出されてるんです。それで、この人たちが逆立ちしたり、うねうねしたり、二人ですごいからみあったりしてるんです。……身長って違うじゃないですか、人によって。だから、なんか悔しいなっていうか、背が高いひとは高いところから見ていて、悔しいなというか変えられないというか。目線がみんな一緒だったらもうちょっと世の中違う事もあったんじゃないか、みたいなことを思うこともあり。今は目線の例で話しましたが、その”目”が付いた”顔”、があるわけですよね。顔ってその人の代表じゃないですか。その代表の位置が人によって違うっていうのも、なんかなっていうので。
この衣装は馬鹿でかいフードが付いていて顔が見えないんですね基本。ト書きしかないような脚本のようなものを書いて、それを俳優にやってもらったんですけど、全然周りが見えないから、頑張ってこう、わずかな隙間から、しかも暗くした場内で、足元だけを頼りに歩くんです。靴下とかズボンとかは俳優の私物を持ってきてもらうことにして。作品の中で、だれかを捕まえるとか、この人だと思って触るみたいなことがあるときは、その足を見ないと分からないようになっていて。
あとはまあこの時私も出たんですけど、まだ人前で俳優なんかやったことなくて、ちょっと顔見られるの恥ずかしいなと思って。どんな顔してたらいいんだ、みたいなそんなこともありましたね。自分が出るからこそ、じゃあ自分で衣装作っちゃえばいいかっていう。

玉ねぎの皮


大澤:
最後の方で、衣装と声、について書いてくださってますよね。衣装は玉ねぎで例えると一番外に出る、着脱可能な皮みたいなものっていう風に。それに確かになって思って。これは演劇の衣装とはちょっと離れちゃうかもしれないんですけど、服を着るときとか選ぶときって、自分を表現するっていうのと同時に”見られる自分”っていうのをめちゃくちゃ意識するなと思うんです。表現したい、こうありたい自分と、人から見られることを気にする自分みたいな。これは私の気持ちになっちゃうんですけど、その人から見られることを気にする自分がなんか気持ち悪いなって自分で思うことがあって。その兼ね合いというか、服を着てる自分が、もしくはその役者が、どういう風に見られてるのかというのに興味深く思いました。だから、自己と社会との距離を図るきっかけがあると仰ってるのが、その通りだな、おもしろいな、と思いました。
目黒さん:
    ありがとうございます。衣装をやる場合って、役者も一人の人間として、玉ねぎの例で恐縮なんですけど、つまり玉ねぎであって。役者が役をやるときって稽古や役作りの中でその果肉の部分を重ねて作っているわけですよね。それで、人前に立つときは基本的に外側の皮をまとった状態で出る。役者が自分で衣装を選ばない場合、私みたいに衣装がいる場合は、役者自身がこう見られたいなとか、こう表現したいなと思って選んでないわけです。演出家のオーダーがあってやる場合もあるし、勝手に衣装がこういう玉ねぎかなってやることもある。だからすごい怖いことをしているなと。
    他には、例えば私が持ち寄りで私物の衣装を誰かに貸して、その公演が終わって、衣装が手元に返ってきて私のクローゼットにかかったとき、もう完全に役のイメージがついているんですよね。玉ねぎをくるむっていうこともそうだけど、その皮はつまりその玉ねぎを代表して表に出ているということだから、かなりそこにはそのイメージとか性格みたいなものが付与されていて、そのくらい人の視線を集める膜のようのものだなと感じますね。だから、着づらくなりますね、結構。衣装で提供したあとは。

衣装という仕事


中村:
    記事を読んでいても、今お話を聞いていて思うのですが、すごく素敵な衣装哲学がありますよね。「平らに稽古するだけ」のときみたいな自分の自由な作り方があって、そして一方で普段のオーダーを受ける形での作り方がある。自分ならではの思想やアプローチと、演出家からのオーダーとをどんなさじ加減で仕事しているんだろう、と疑問に思いました。普段こんな風にしている、みたいな基準はあるんですか?
目黒さん:
基本は勝手にやって怒られたり幻滅されちゃうのが怖いので、オーダーがあるものはまずオーダーに忠実に作っているつもりです。ただ、どうしても演劇作るとき、美術とかつくる時もそうだと思うんですけど、頭でイメージしたものを具体的なものにするっていう段階で必ずギャップがあるんです。頭で、抽象的な段階で考えていたものが100%だとしたら、多分実際、具体的に形にしてみたら70%くらいだなみたいなのってあると思うんですよ。だから、そこはがっかりするかもなって思いながら、細かいところで抵抗するっていうか、
大澤:
うんうん。
目黒さん:
例えば、衣装プランでは、水色のシャツとしてしか書いてなかったけど、具体物としては、見つかったもののボタンがすごい可愛かった、とか。プランでは靴下のこと考えてなかったけど、靴下選んでみたらめちゃいい感じだね、とか。そういう事は諦めないようにいようって思っていて。逆に、そういうところでは演出家のオーダーとか、想像が届いてない時があるので、ここには私の好みだとかを入れていく......。
大澤:
そういう、しめしめじゃないですけど、にまにまできるポイントがあると嬉しいですよね。
目黒さん:
ですよね。美術でもありますか。
大澤:
ありますね。なんか、あんまりそう深く言及されてない部分でちょっと遊ぶ、みたいな。
中村:
今までで一番しめしめと思ったというか、これはうまいことやったなみたいなのはありますか?
目黒さん:
なんだろうな……。結構その、しめしめとなるときって買い出ししてる最中なんです。これちょっとオーダーの細部聞いてみないと分からないけど、聞かずに提案したら通せるんじゃないか、みたいなのに出会う瞬間があって。例えばこの写真(はらいその上段真ん中)の白いワンピースに、ハイネックのニットと、前掛けみたいなセーラー服の襟みたいなのが付いていて。もともとはみんな羽織っていうかマントみたいなのが欲しいって言われていたんですね。でもこれを見たときに、いや、と。これいいぞ、と。
中村:
いいですね(笑)
目黒さん:
演出にマントを途中で着脱するっていうのがあって、多分本当はマントのほうがみんなやりやすかったんですけど結果押し通しちゃって(笑)この役の人だけマントを脱ぐときにハイネックに頭をくぐらせることになったっていう。まあ、負担はかけたかもしれないけど、私的には、かわいいだろ!っていう(笑)

これから衣装でやってみたいこと


中村:
最後に、衣装でこれからやってみたいことはありますか?こういう風な衣装をつくってみたいとか、こここだわってやれたらいいなとか。
目黒さん:
うーん、むずい……。そうですね、衣装、じゃなくて、服全般、に関していえば、ゼミの制作で『bricolage clothes』っていうのを作りまして。私一週間の中でいろんなジャンルの服を着たいって言ったんですけど、その内の一日で人と会ったらその人はその日の私のイメージしか持たないじゃないですか。なんかそれは悔しいというか、私の中には日の区切りとかではなく常にいろんなものが流れていて、それを服に反映させたいと思っているのに。でもこういう服にはこういう服を合わせるだろうとか、こういう場面ではこういう服を着るだろうとか、社会ルールとか規範みたいなものがある。そういうものを全部こう、一回ごちゃごちゃにしようって思ったんです。みんなで古着を持ち寄って切って作ったんですけど、自分のあるいは他人のすでにあった要素が組み替えられることで新しい形になっていくのが見えるし、既製服っていう枠組みをちょっと壊して膨らませるようなこともできるのがいいなあと思いました。
衣装は、私が入る前の木霊の本公演に『グレート・ギャツビー』(2019年)っていう作品があったんですけど、それの衣装がすごかったんです。いまだに全然勝てないという気持ちがある。勝つとか負けるじゃないかもしれないんですけど……。『グレート・ギャツビー』がやってたのが、がっちりスーツセットアップとかなんだけど靴はめちゃめちゃスポーティーな蛍光スニーカーとか、すごく柔らかいドレスみたいな着てるんだけど、すごく堅そうなチョーカーしてるとか。さっき言ったのとちょっと近いかもしれないのですが、役というのがある種の役割だとして、それを壊していく、みたいなことをしている。
そういった衣装、服、を作っていけたら、と思っています。
中村:
 すごい、素敵ですね。
大澤:
 とても楽しみです。本日は本当にありがとうございました。
目黒さん:
 ありがとうございました。

おわりに

非常に興味深い内容が盛りだくさんで、とても濃密な時間を過ごさせていただきました!これからの観劇、作劇の際にはぜひ衣装にも注目してみてください!

中村マサシ
劇団夜鐘と錦鯉主宰。(普段は中荄啾仁として活動しています)
演出・脚本・照明を中心に活動を行い、哲学を生かした演劇と存在の現れに関心を持っています。

大澤萌
舞台美術研究会ではスタッフとして照明の仕込みバラシをお手伝いしたり、美術の製作をしています。

目黒ほのか
劇団木霊4年代スタッフ。主に衣装や映像配信を担当。ほか、詩を書いたり弾き語りをしたりクレヨンで絵を描いたりする。声優ラジオを1日5時間聞いて生きている。いろんな恰好をする。


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