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バクのおせち

皆さんは、バクをご存知でしょうか。
そうです。白と黒で鼻がちょっと長くて、カピバラよりは大きそうだけどカバよりは小さそうなイメージの動物です。
けっこう珍しい動物なので、バクの多くは有名で大きな動物園に連れていかれます。
しかし、僕は寂れた動物園のバクです。
僕の故郷と、今居る街が姉妹都市だとかで、その街ではちょっと希少な大きめの鳥と交換でここに来ました。

ところで、皆さんが気になっていることがあると思います。
バクは本当に夢を食うのか。
夢で腹が膨れるのか、と。
結論から申し上げましょう。
我々は、本当に夢を食糧にしてカロリーを得て活動しています。
夢を食べなければ生きてゆけません。
では、どうやって夢を食べるのか。
本来、野生のバクはハンターさながら、様々な動物の夢を狙って夜な夜なヨダレを垂らして歩きます。
しかし、動物園で飼われている我々のようなバクは、毎晩飼育員が交代で私の部屋に布団を敷き、夢当番として眠り、その夢をいただいているのです。

しかし、僕の動物園は悲しくなるほど経営難なので、飼育員が見る夢も貧相な夢ばかりです。
最近食べたのは、ダチョウにつつかれる夢、通帳の残高が2桁になる夢、階段を降りようとしていたら踏み外してウワーッ!となる夢などです。
こういう幸が薄くて貧相な夢は、分かりやすく例えるとすると薄味です。華やかさはおろか、コクや旨みの無い、すまし汁やお粥のような夢です。不味くはないけど美味くもない。
バクは「悪夢を食べてくれる」というイメージが強いようですが、それはサービスに過ぎません。
幸せな夢が一番旨いに決まっているではありませんか!!
ハワイ旅行だとか、一億円当たるだとか、ステーキが沸いてくる泉だとか…。
そういう、歯ごたえ抜群の、夢のある、旨〜い夢を食べたいものです。

ある冬の夜、夢当番として園長が来ました。
「ユメタロウ、今日の夢は期待していいぞ。娘に良いおまじないを教わってきたんだ」
園長はウキウキと布団を敷いて、枕の下に小さな紙を仕込み、僕の背中を撫でた。
「なんたって、今夜の夢は初夢だからな!」
…そうか!世はお正月じゃないか!!
初夢は、バクにとってのおせちにあたる一年に一度のご馳走です。
お正月くらい、バクもご馳走をいただきたいところです。
園長とおやすみを言い合い、園長は布団に潜り込み、僕は園長の枕元に座りました。

…しかして、園長の夢は独特でした。
ぼんやりと浮かんできた大きなプッチンプリンの上に、園長が乗っています。
園長は、あれ?という顔をしながらプリンのカラメルをぺろりと舐めて「わはは、これはこれでまぁいいか」と飛び跳ねはじめました。
すると、プリンの丘に向かってヨチヨチと歩いてくる者が現れました。
うちの動物園のフンボルトペンギン、サクラちゃんです。
サクラちゃんはいつものように、「アワーッ」と鳴くと園長のズボンの裾をつつきはじめました。
「サクラ!こら!やめなさい!やめなさい!」
サクラちゃんは普段から園長と相性が悪く、夢の中でもこんな調子でした。
そうこう言っている間に、空から大量のバナナが降ってきました。
降ってきたバナナは足元のプリンをグズグズに崩し、園長はどんどんプリンに飲み込まれて行きます。
サクラちゃんは降ってくるバナナに混乱して、園長への威嚇をやめられません。
それはまるで、マグリットの新作のような夢でした。
「ユメタロウ!!助けてくれ!!はやく食べなさい!!」
崩れたプリンの中から園長の叫びが聞こえました。
いけない!はやく食べなくては!!
僕は急いでナイフとフォークを取り出し、園長の夢をバクバクと食べました。

「ふぅ、危ないところだった…。ありがとうユメタロウ」
僕が夢を食べ切ると、園長はスッキリと目を覚ましました。
「しかし、どうしてこうなっちゃったんだろうね」
園長は枕の下に入れていた小さな紙を取り出しました。
そこには、大きなプリン、羽をひろげた目つきの悪いペンギン、そしてバナナが描かれていました。
「一富士二鷹三茄子…うーん、おまじないなんてそんなものなのかもしれないな」
園長は布団を畳み、「まぁ、プリンにバナナはスイーツっぽくて美味かっただろ」と満足げに朝の業務に出かけて行きました。


皆さんは、スカスカおせちのニュースをご存知でしょうか。


【参考文献】

これめちゃくちゃ良いツイートですよね
ぼーいさん、許可をありがとう。

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