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30代人妻だけど寝ぼけてションベンを漏らした

先日あった悲しい事件の記録です。
戒めのために書き残しました。
タイトル通りの情けない話になるので、お食事中の方は閲覧を控えてください。


 去る11月末日の未明、私は尿意を催して目が覚めました。
昔は一度寝たら排泄感も空腹感も全キャンセルして14時間ぶっ通しで眠れる人間でありましたが、寄る年波には抗えず30歳を過ぎてからは尿意で目が覚めることが増えました。

 最近冷え込んできたからかなぁ、などと思いつつのそのそと起き上がります。
私は裸眼だと世界の全てがボヤけて見えるレベルのド近眼なのですが、ここに引越してから1年と少し経っているので心眼で見れば大丈夫だろうと判断してメガネをかけずに寝室を出ました。

 視界がボヤけており、起きてるのか寝てるのか判然としない頭のままで薄暗い廊下を歩き、トイレに入りました。
その後は人生で何回も繰り返してきたルーティンワークです。

便器の蓋を開け
ズボンとパンツを下ろしながら中腰になり
脱いだら座って
『解放』(リリース)

間違う訳がない一連の動作です。
でも、この日の私は違いました。

便器の蓋を開け
ズボンとパンツを下ろしながら中腰になり
ジョロロッ
脱いだら座って
『解放』(リリース)

おかしい。
なんか下半身が、生温かい。
その感覚に脳が一気に覚醒していきました。
途中からジョロロッ言うたよな??なぁ????

 そうなのです。
ズボンとパンツを脱ぎきる前に、先行入力していた『解放』(リリース)コマンドが暴発していました。
私の郷里の言葉で言うと「ションベンむぐした」です。
30年と少し生きた私の体のガタが、ここで可視化されてしまいました。

 トイレタイムをこんなに長いと思ったことはありません。
いま、私の膝に引っかかっている着衣がしとどに濡れています。
ただ濡れているわけではありません。異臭を伴って濡れています。
健康に気を遣って就寝前にビタミンサプリを飲んでいることがアダになりました。サプリを飲むと尿は臭くなる。これが事実であると立証されました。

 尿を出し切った後もしばらく便器に座り続けました。
この『異常解放』(イレギュラー・リリース)の産物、どう始末すべきか。幸い、床は無事で汚していません。
 そうなると問題は重く濡れた下半身の着衣です。
幼少の頃、おねしょをした時はズボンとパンツを洗濯機にそのままシュートして浅はかな隠蔽工作を行なっていたことを思い出しました。
もうそれしかない。
私は下半身の着衣を素早く脱ぎ、先日買い替えたばかりの洗濯機にシュートしました。ピカピカの洗濯槽に穢れの概念を付与してしまいました。


 しかし、そこではたと気付きました。
上半身はキッズサイズの160を無理矢理着ているすみっコぐらしのパジャマ、下半身はダルダルですっぽんぽんの成人女性。
森の露出狂a.k.aプーさんスタイルで寝室に戻らねばならないのです。
すみっコぐらしなのにプーさんとはこれ如何に。
 もし、私が動いた気配で夫が起きてしまっていたならば、私は寝ぼけた夫の眼前に突如出現した異臭を放つ露出狂痴女になってしまいます。
尊厳、人権、今後の生活への悪影響。そんな言葉が頭を過ぎりました。

 腹を括るしかない。
いや、ロクに知りもしない男とノリで結婚を決めて生活基盤を捨てて京都に引っ越した時点で、とっくに腹を括っていたではないか。
やるしかない。

 覚悟を決め、寝室のドアを開けました。
夫は、寝ていました。
 私は神に感謝しつつ、行動を開始しました。
まず、汗拭きシートで穢れた下半身を素早く清め、タンスを開けて適当なパンツを引っ掴み、その辺に落ちていたジャージを履きました。
裸眼で活動するとどうしても動きが遅くなるものですが、この時は何故か世界がくっきり見えていたように思えます。
これぞまさに心眼。その間わずか0.05秒。宇宙刑事ギャバンの変身時間と同じです。 
では、蒸着プロセスをもう一度見てみよう!!(見せない)

 その後は何食わぬ顔でベッドに戻りました。
夫は相変わらず寝ています。とりあえずは生き延びた。
 ここから再び寝入るまで、ずっと思考がぐるぐるしていました。
次に起きたら、洗濯槽の中に放棄した『異常解放』(イレギュラー・リリース)の産物を完全に始末しなければいけないのです。
 しかし、我が家では家事のほとんどを夫が担ってくれています。つまり、私が進んで朝から洗濯機を回したらそれこれイレギュラーになってしまうのです。

 私は悩みました。
いい大人がそんな卑怯な真似をして良いのだろうか。
夫は大変良い人です。あと、顔も良いです。あまり真面目に生きてこなかった私ですが、せめて彼に対してだけは誠実でありたい。そう思える人です。
 一度そう考え出すと、ションベンを漏らした事実を隠すのは不義理かもしれない。そんな気さえしてくるのです。
我々は上手くやってきたと自負しております。
私の文字通りの粗相とちっぽけなプライドが原因でその関係にヒビが入ったら……そう考えると恐怖でしかありません。

 告白か隠蔽か。二つに一つ。選択しなければなりません。
人生とは選択の連続です。


 朝、目が覚めました。
夫が先に起きて活動している音がします。
洗濯機の中を見られていないことを祈りつつ、起床しました。
いつも通りおはよーと言いました。
夫は、洗濯機の中に何かが入っていることにも私のパジャマの下衣が変わっていることにも気が付いていないようでした。
やりようによっては『異常解放』(イレギュラー・リリース)の件を完全隠蔽可能です。 

 でも、私はやっぱり告白することにしました。
起きて顔を見たら言うべきだと即断できました。
あばよ涙。よろしく勇気。
串田アキラ氏の力強い歌声を胸に、私は勇気を出しました。

 「あのさぁ、私……今朝おしっこ漏らしちゃった」
いつも通り夫の隣に座り、コーヒーを飲みながら日常会話のように告白しました。
正直、ドキドキしました。夫の感性によってはドン引きされる可能性も否めません。
知り合ってようやく1年半程度なので、こういったヒトの根元に関わるセンシティブな問題についてどの程度まで許容して貰えるのか、いまいち掴みきれていないのです。
引かれるのだけは避けたい。頼む……!!

 「おいおいマジか〜」
普通に笑われました。笑ってくれて良かった。
ここで深刻な反応をされていたら多分立ち直れなかったです。マジでもう一緒に生活出来なかったまである。
 私は安心して『異常解放』(イレギュラー・リリース)の内容を語りました。爆笑されました。
そして、詳細を聞き終えた夫に「それで汚れた服どうしたの?」と訪ねられたので、洗濯機の中にそのままブチ込んであると白状しました。
「汚いでしょ!!水で洗ってから入れな!!!!」
 ここで真っ当なことを指摘されて笑いながら叱られました。
あぁ、ションベンを漏らして夫に叱られるような女になるとは。
改めて、よく結婚できたなぁ自分……。
というか、夫もなんで私との生活が成立してるんだろう……。
よくわかんねぇけど良かったわ。


 結果として夫婦としてステップアップ出来た気がします。
っていうか、やっちまったものはしょうがない。
あばよ過去(きのう) よろしく未来。
そういう精神で気持ちと骨盤底筋を引き締め、引き続き頑張っていきたい所存です。

 

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