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宇宙空間の微重力と水中の中性浮力について

こんにちは!プロダイバー兼宇宙ビジネスコンサル兼宇宙スタートアップ役員兼宇宙美容関連の理事・・・と大量に手を付けてしまっていて若干器用貧乏になっている感が否めない森です。WARPSPACEでは国内外、特に国外における事業開発戦略やコマーシャル周りの統括をさせていただいております。

ラッキーなことに様々な活動を仕事にしておりますが、実は最初のキャリアはプロダイバーでした。18歳のころにプロダイバーのライセンスを地中海で取得し、主に沈没船や洞窟の探索・ガイド等々の仕事を地中海中心にしておりました。レクリエーションだけでなく軍や調査潜水にもかかわっており、特に沈没船ダイブの経験が豊富で米国海兵隊の方を連れて沈没船の中に入っていったりしていました。(図1参照)

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図1 米国軍人をリードして潜ったマルタの巨大沈船Un El Faroud (全長100m以上)(撮影:森)

他にもメキシコで洞窟を潜ったりするのも好きで、国内でも地形が豊かな沖縄・宮古島の洞窟とかももぐったりしていました。(図2、3)要するに、ダイビングの中でも要求スキルが多く死亡率も高い種類のダイビングを好んで行っておりましたので、挑戦が好きな単なる「特攻野郎」とも言えます(笑)

その他の経歴としては時系列としては前後しますが、英国の大学で理論宇宙物理を学び、飛び級入学&首席卒業したり、宇宙産業/DXの経営戦略コンサルもしているため、冷静なキャラかなとも思われがちですが、バックパック一つで世界一周したり、山を走ったり、スカイダイビングしたり、小型飛行機操縦したり、FX取引したり・・・という感じで過半はエクストリームに生きております。

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図 2 メキシコのセノーテでのケイブダイビング(撮影:森)

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図 3  宮古島の洞窟ダイビングスポット 悪魔の宮殿(撮影:森)

 私が英国で宇宙物理を学んでいるとき、宇宙×水中で面白いことを考えている方にロンドンで出会い、事業の立ち上げを手伝っておりました。その会社の名前は「Blue Abyss」 といいまして、宇宙飛行士の訓練を水中で行うという点で、世界初の民間企業として立ち上げられました。現在はコロナで一部工事が止まっていることもありますが、イギリスのコーンウォールで行われているG7でBlue Abyssがスピーチをさせていただく機会をいただき、現在スペースポート(空港ならぬ宇宙港)をコーンウォールで準備中ということもあり、Blue Abyssの施設もコーンウォールで施設建設すると発表させていただきました。BBCやGuardianなど英国の主要メディアでも続々と取り上げられ、近年のVirgin GalacticやBlue Origin等の宇宙事業の進展もあり、より認知されてきているなと感じております。

参照: https://blueabyss.uk/
https://www.bbc.com/news/uk-england-cornwall-57328408

長々と脈絡のないお話を書いてしまいましたが、ここでようやく私の自己紹介と経歴から本題にかかわる話が始まります。

私自身2年前に日本に戻ってきてから、何度かイベント等でBlue Abyssの事業を紹介する機会をいただき、よく聞かれる質問があります。今回はその質問について詳しく回答して幕を閉じられたらと思っております。

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図 5 Blue Abyssが建設予定の宇宙飛行士訓練施設 (出典:Blue Abyss)

その質問とは「無(微)重力と水中環境がどう似ているのか詳しく知りたい」です。

まず皆さんは無重力という言葉をよく聞くかと思います。文字通り重力がないということです。ニュートンの万有引力の法則によると、質量があるものはいかなる場合でもひきつけあい、その力が「重力」と呼ばれております。

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図 6 万有引力の法則 (出展:物理学解体新書)

この重力が、宇宙ステーションなど地球を離れるとなくなり、“無”重力となると思っている方が大半かと思いますが、それは実は間違っております。完全に自分自身にかかる重力をゼロにすることはかなり難しく、太陽系の端まで行ったとしても太陽による重力は「ゼロ」にはなりません。宇宙ステーションは高度400㎞弱の場所にあり、重力の大きさは地球の中心からの距離で変わるため、同じ体重の人が地上にいる場合と宇宙ステーションにいる場合の重力の大きさを比べると、宇宙ステーションにいる方は地上にいる方と比べて89%ほどの重力を受けているのです(地球の半径6,371km、宇宙ステーションの平均高度380km)。ほとんど変わらないですよね?参考として、月面の重力は地球の17%程度(6分の1)で火星面での重力は38%程度(約3分の1)となっています。

実は宇宙ステーションの環境はよく無重力ではなく微重力空間と言われます。タイトルにもあるように微重力とは何なのでしょうか?これは重力以外の力も含め総合して自分の体にほとんど力がかかっていない状態を示すことが多いです。(参考:図5)宇宙ステーションの場合はとても速いスピードで地球の周りをまわっているため、遠心力という水の入ったバケツを回したときに落ちない力が常に地球の外側の方向に向けて生じています。そのため宇宙ステーション本体や宇宙ステーションの中や周りにある人やモノは力を総合して力を受けず、まるで重力も何もない空間にいる状態になります。

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図 7 宇宙ステーションにかかる遠心力と重力の相殺(出典:JAXA)

ここでやっとタイトルのように宇宙とダイビングがつながるのですが、実は微重力状態とはスキューバダイバーが水中にいるときに頑張ってダイビング機材を使って浮力を調整して維持をしている「中性浮力」状態と物理的に全く同じなのです。実際にNASAはヒューストンに中性浮力研究所(neutral Buoyancy Laboratory)という施設を建設して宇宙飛行士を水中で訓練し、特にスキルが必要な船外活動(External Vehicular Activity)、通称宇宙飛行の訓練にはこの水中訓練にかなりの時間を割いております。

どうでしょう? 最後の説明はさらっと済ませてしまいましたが、中学生の時に見た物体にかかる力の矢印の総和が方向に限らずほとんどゼロの状態が俗にいう“微重力”ということだとご理解いただけたでしょうか?

宇宙ステーション上にいる人や物は、遠心力という力で外に振り回される力により重力をうまく相殺しており、また水中では浮力が重力をうまく相殺しており、物理的にはほぼほぼ同じ状況を再現できてしまうということなのです。

実際に水中で宇宙遊泳の訓練をする場合には、水の抵抗があるので、宇宙空間より動きにくくなり、かつ水中のものもすべて中性浮力(微重力)にするために浮きをつけたりしております。

結びとなりますが、是非とも興味がある方は、YouTube等で宇宙飛行士が水中訓練している様子を見てみてください。常に宇宙飛行士自身が中性浮力を保っている様子も見られますし、小道具に浮きをつけてすべての物体を微重力空間(中性浮力)にあるように再現している様子が見られて、私の説明の理解がより深まると思います!

もし皆さんの中性浮力や宇宙飛行士の訓練に関する興味がありそうであれば、続編で水中における宇宙飛行士訓練について深ぼっていきたいと思います! God Speed!

Hiro

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図 8 NASA中性浮力研究所での宇宙飛行士訓練の様子 (出典:NASA)

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図 9 中性浮力(図の中央)の説明
重力と浮力が相殺し、微重力状態のように力がかからない限りその場にい続けることができる。

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