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【SVSW】シリコンバレー発の人工衛星ビジネスカンファレンスにスポンサー参加。最先端の技術、世界情勢により浮かび上がるビジネスチャンス、革新的な方法論

 2022年10月11-14日、軍民含めた人工衛星ビジネスニュースをまとめるメディア会社であるSatNewsが主催するSilicon Valley Space Week(SVSW)が開催されました。SVSWは以前ご紹介したWorld Satellite Business Week(WSBW)と同様の、人工衛星関連ビジネスに関する集中的なカンファレンスです。SVSWは前半2日、後半2日の二部制のプログラムであり、前半のSatellite Innovation 2022ではデブリ除去等の人工衛星を用いた新しいイノベーションをテーマとし、後半のMilSat Symposium 2022では安全保障や商用衛星に関連したディスカッションが行われました。ワープスペースは後半のMilSat Symposium 2022にてバッジスポンサーを務め、現地で参加したCSOの森が会場の様子をお伝えします。

ワープスペースはMilSat Symposiumにてバッジスポンサーを務めています。

光通信の可能性:宇宙利用がもたらすビッグデータをどのように輸送するか?

 MilSat Symposium 2022では、光通信事業者ではSkyloom(スカイルーム)、Mynaric (マイナリック)や、Google Xの解体後、コアとなるエンジニアらが再度結集し設立したAalyria Technologies(アーリア テクノロジーズ)などが参加し、様々なセッションでディスカッションが繰り広げられました。中でも特に重要なのが、「Improving Secure Data Distribution using Cloud Services and Big Data in Next-Gen Ground Networks(次世代の地上ネットワークにおいて、クラウドサービスの安全性をいかに改善し、ビッグデータをいかに処理するか)」というパネルです。このパネルには先述のSkyloomのCOOであるCampbell Marshall氏とAalyria TechnologiesのCTO、Dr. Brian Barritt氏が登壇しています。Skyloomは、「スカパー!」を展開する人工衛星事業者であるスカパーJSAT株式会社及びNTTの合弁会社であるSPACE COMPASSと協業しており、静止軌道上に光通信衛星を設置する衛星間光通信を仲介し、地球低軌道で得られた地球観測データを高速で地上へと送る事業を展開予定です。一方でAalyria Technologiesは、光通信を用いて全世界をつなぐ高速の無線通信網を提供することを目指しています。
 このパネルはタイトルからも分かる通り、World Satellite Business Week(WSBW)にてワープスペースが参加したパネルのような「光通信技術」にフォーカスしたパネルではありません。第一次産業から第三次産業までの様々な事業者にニーズがある地球観測データというビッグデータをこれまで以上に高速かつ高効率で地上に送る場合、従来の電波を用いた通信では伝送速度に限界があるため、代替手段として光通信が候補となりうることがこのパネルでは語られました。すなわち、パネル全体のコンセプトとしては「ビッグデータをどう処理していくか?」というものではありますが、このような抽象的な分野の話でも、重要な新技術として光通信が話題に上がっているということです。
 また他にも、アメリカ宇宙開発局(Space Development Agency :SDA)の局長であるDr. Derek Tournear氏によるKeynote Speechや、「RF Interference, Jamming and Cyber Concerns(ラジオ波の干渉やジャミング等、安全性への懸念への対応)」というセッションでのMynaricのTim Deaver氏によるパネル、HedronのCOOであるKatherine Monson氏による光通信デモンストレーション衛星の打ち上げについてなど、様々なセッションにて光通信技術の可能性が議論されました。これらのことから、今後の宇宙を利用した事業において、光通信が欠くべからざるインフラとして注目されていることが改めて伺い知れます。

宇宙開発の地政学:ヨウ素を用いた電気推進システム!?

 一方で、NASAの元長官であるJim Bridenstine氏のKeynote Speechはまた違った観点から注目に値します。スピーチでは、深宇宙探査のための次世代の推進系として、ヨウ素を用いた電気推進システムを開発しているPHASEFOURが紹介されました。

イオンエンジンの仕組み((C)JAXA宇宙科学研究所)

電気推進システムはJAXA宇宙科学研究所のはやぶさやはやぶさ2で利用された実績がありますが、その際には推進剤としてキセノンガスを用いています。推進剤にはキセノンガスの他にも、クリプトンなどの希ガスと呼ばれる元素が推進剤として用いられていますが、希ガスは大気中にごく僅かに含まれるところから大規模な装置により分離する必要があるため、調達には非常にコストがかかります。そこでPHASEFOURは、

  • キセノンと分子量が近く

  • 高密度かつ固体で保存可能で

  • キセノンやクリプトンガスと比較して製造が簡便であり

  • PHASEFOURが所在するオハイオ州で大量に生産されているため、サプライチェーンリスクが少なく価格が安い

と言った特徴を持つ元素である、ヨウ素を推進剤として利用できるイオンエンジンを開発しています。また、希ガス(特にキセノン)を生産するための大規模な装置はロシア・ウクライナに集中しており、その供給は両地域に大きく依存しているため、現在のウクライナ情勢のあおりを受けて、希ガス価格は急激に高騰しました。上記のようなヨウ素の優位性に加えて、ロシアが抱えている資源に頼ってきていたが故に、希ガスの供給に関する問題が顕在化した、という背景もこの事業の追い風となっている点が興味深いです。
 また、今回のスピーチで触れられたわけではありませんが、希ガスの他にもNASAの宇宙探査用の電源として利用されるラジオアイソトープ電池(原子力電池)に用いられるプルトニウム-238なども、ロシアにその供給の多くを依存してきた歴史がありました。そのため、「宇宙開発に重要となる特殊な資源をどの国が抑えているか?」という地政学的な視点も今後の動向を見通すためには重要となりそうです。

宇宙産業の革新的方法論:2年スパンのアップデート計画

 また、先程少しご紹介したアメリカ宇宙開発局 (SDA)の局長 Dr. Derek Tournear氏によるKeynote Speechでも、大変興味深い話題が提供されました。Tournear氏のスピーチでは、米国宇宙軍は超音速ミサイルの追跡など、軍事的に時間に対してセンシティブなデータを中継する地球中軌道(MEO)上の衛星群の設置を計画しており、その衛星群への光通信端末の搭載が予定されている旨が発表されました。(ここでAmazonのKuiper衛星にもSDA準拠の光通信端末が搭載されると発表がありました。)
 特に注目すべきはそのアプローチです。これまでの宇宙利用計画では「長期間に大きな予算をかけて確実性の高い大型の衛星を打ち上げる」という方法論が主流でしたが、今回、Tournear氏は「2年ごとに計画し、打ち上げる。失敗したら別のアプローチでやり直す」という革新的かつアジャイルな「SDA流」を提案しています。この「SDA流」は3年前からTournear氏により提案され、当初こそ実現不可能だとして批判されていましたが、しだいに「早いし安く良いものができる」ことが認知され、今ではアメリカ合衆国国防総省DOD(United States Department of Defense)の他の部門の調達でもコピーされつつあります。新しい技術だけでなく、このような新しい方法論が、これまで誰も不可能だと思っていたような未来を実現していくのだと改めて感じさせられます。

 今回のSVSWでは、ワープスペース自体のプレゼンテーションやブースはありませんでしたが、衛星ビジネス、安全保障の最前線のなかで光通信がいかに重要な技術であるかが改めて認識されました。加えて、今回のバッジスポンサーとしての参加によりできた繋がりをもとにして、来年度以降、ワープスペースもこのカンファレンスに食い込んでいく予定です。

(執筆:中澤淳一郎)

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