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衛星データを活用したインフラ監視。課題はコストと人材の不足【WARP STATION Conference Vol.1 レポート②】

10月8日に開催したカンファレンスイベント「WARP STATION Conference Vol.1」のダイジェストをお届けします。サステナビリティの文脈において、宇宙産業が貢献できることについて議論したセッション1に続き、各産業の現場の声に耳を傾けていきます。

セッション2のテーマは「インフラモニターを変える衛星データ活用」。

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高度経済成長期に集中して整備された道路や橋梁、上下水道など社会インフラの老朽化が深刻です。国土交通省によると、2033年に一般的な耐用年数といわれる建設後50年が経過する橋梁は63%、トンネルは42%、下水道管は21%。点検や修復が急がれています。とはいえ、社会インフラの点検には膨大なコストと時間を要するという課題も。そこで注目されているのが衛星データによるインフラモニタリングです。

衛星データを使ったインフラモニタリングを実践した経験がある二人をパネリストとしてお招きし、成果や今後取り組もうとしている方へのアドバイスを訊きました。

水で7%の水が行方不明…衛星データの導入で約260箇所の漏水を検知

「水道局の仕事は、24時間365日、透明で安全な水を供給することです。水は透明なのが当たり前だと思われているかもしれません。水道管はサビが付きやすく、バルブをいじると濁った水が出てしまうことがあります。そういうことで市民の皆さまにご迷惑をおかけしないように、細心の注意を払いながら業務にあたっています」(岡田さん)

こう語るのは、愛知県豊田市・上下⽔道局で⽔道の維持管理を担当されている岡田俊樹さんです。

安定して水を供給できるよう、厚生労働省は水道設備の点検を義務付け、ガイドラインを2020年9月に発表しました。その中で、一般の水道管は年2回、老朽化が進んでいる箇所は月1回の頻度でパトロールするよう定められています。ところが、岡田さんは現行のやり方では、この頻度での点検は難しいと話します。

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「人員と予算が限られていて、点検に回れないところがあるのが現状です……」(岡田さん)

さらに、豊田市では漏水の影響により約7%の水が失われている可能性があることが疑われていました。

そんな状況の打開策として、岡田さんは2020年8月に衛星データを活用した水道管の漏水調査に乗り出したのだといいます。

解析を依頼したのは、イスラエルのソフトウェア技術ベンチャーUtilis社(ユーティリス)。JAXAの陸域観測技術衛星「だいち2号」が撮影した衛星画像から、水道水に特有の反射特性を解析し、漏水の可能性がある箇所を特定するという仕組みです。

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調査の結果、556区域が漏水の可能性がある区域として上がり、そのうち154区域・259箇所で漏水が検出されました。実際に漏水が見つかったのは3割でした。しかしながら、従来の作業員が歩いて全ての区域を見回る手法では5年かかっていたのが、衛星データを活用することで約2カ月に短縮できたのは、十分な実績だと言えるでしょう。

衛星が捉えた夜景の変化から途上国の経済成長率を算出

インフラのモニタリングは、国際協力の場面でも重要です。

政策効果の検証や途上国支援事業の評価を手掛けるメトリクスワークコンサルタンツの石本樹里さんは、衛星が撮影した“夜景”を業務に活用しているといいます。

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石本さんは、事業が社会にもたらした影響を測定する「インパクト評価」を大学院で専攻された“評価の専門家”です。そんな石本さんは、なぜ衛星データを使うことになったのでしょうか。そのきっかけは、前職の国際協力機構(JICA)での業務で直面した課題にありました。

JICAでは、安定的に電力を供給することで経済発展を補助しようと、カンボジアのある町で小水力発電所の建設事業が進められていました。石本さんが担当していたのは、事業完了後に計画通りに運用されているのかを確認する事後評価です。

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「小水力発電所を建設した地域は、非常に小さな田舎で、そもそも経済成長率が整理されていなかったのです。それで困っていたところ、夜間光データと経済指標は相関がある-夜間光が増加傾向にあれば、経済活動が活発化していると考えられることを知ったのです」(石本さん)

夜間光データを数値に落とし込み、グラフ化することで、経済成長率を可視化。小水力発電所の完成以降は夜間光が増加していることがわかり、経済成長につながったと評価したそうです。

コストの高さと人材不足が衛星データ利活用のネックに

豊田市の岡田さんとメトリクスワークコンサルタンツの石本さんの取り組みは、インフラモニタリングに衛星データを活用した数少ない実例です。セッションの後半では、衛星データを使う上で課題に感じたことを聞きました。

岡田さんは、衛星画像のコストが高いことを挙げました。

「今回はパイロット価格だったため割引があったのですが、2回目以降もやろうとすると膨大なコストがかかります。それはちょっと辛いかなと感じています」(岡田さん)

衛星データは広い範囲を一度に撮影できます。岡田さんが利用した「だいち2号」の場合は、豊田市だけでなく近隣の自治体までを画像1枚で写し出すことができるのです。ほかの自治体と連携して調査を実施すれば、衛星データの価格は頭割で安くできるのではないかと、岡田さんは考えているといいます。

衛星画像のコストについては、石本さんもネックだと感じているようです。

「JICAの事業は国民の血税を使っているので、予算はシビアです。高額な衛星データを購入するときは、それを使うメリットが本当にあるのか。どれだけ付加価値を付けられるのかを真剣に検討します」(石本さん)

さらに、石本さんは衛星データを扱える人材の不足を指摘します。

「JICAに在籍していたときは、コンサルティング会社に解析を発注する側の立場でした。ところが、依頼してみると『できません』と断られてしまって……。衛星データを扱える人が周りにいなくて、自分でやってみたのです」(石本さん)

石本さんのような評価の専門家がいて、課題が明らかになっているものの、「このデータが使えますよ」と、手段を提案できる“橋渡し人材”が不足しているのです。

民間企業が続々と衛星を打ち上げていますが、衛星が撮影したデータを地上でダウンロードするのに必要な通信は不足している状況にあります。つまり、通信が確保できないために、衛星が撮影できるキャパシティを使い切れていないのです。衛星データの中には、雲がかかっていて解析ができないものも多く、利用できる画像は限定的です。

衛星の撮影スケジュールを立てる際に、通信を気にかけなくてもいいほどに通信環境が整備されれば、データの選択肢が広がるでしょう。衛星1機あたりで撮影できる画像も増えるので、データの価格も徐々に下がっていくと考えられます。 そして、誰もが衛星データを試せる環境を整備されれば、事業での利用を検討が進み、自ずと橋渡し人材の育成にもつながるのではないでしょうか。

農業がテーマのセッション3では、衛星データソリューションのエンドユーザーである農業従事者とソリューション開発を行う事業者にご登壇いただき、課題や活用のアイデアを議論しました。

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