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髪切るくらいで失恋が癒えるかっての


2019年の思い出といえば。


失恋したから、ベタに、まあ。髪を切ってみた。

胸の下くらいまでのロングヘア。
ベリーショートなんかにするほどの決意も自信もないから、「鎖骨につかないくらいで」とだけ伝えてみた。
けど、人生初の丈。


バッサリ切っちゃうんですね、伸ばしてたわけじゃないんですけど、あ〜でも毛先とかパサつきありますし良い機会かもしれないですねこれから梅雨になるし広がりますから、梅雨いやですね〜、この季節だと縮毛矯正かける人も多いですよ毛先内巻きとか外ハネにはできますしどうですかだいぶ雰囲気変わると思いますよきっとお似合いです、そうですねじゃあそれで、分かりました先カットざっくり行きます〜

ザクッ

明確に覚えている、この美容師さんとの会話と、ハサミが最初に入った音。


衝動的な予約だったし、日曜日だったこともあり、美容院の中はやけにバタバタしていた。
バッサリ髪を切る女なんて、彼らにとっちゃそう珍しいもんでもないだろうけど、少し拍子抜けした記憶がある。

でもそんなことどうだっていい、一刻も早く軽くなりたい。

綺麗に掃除された床に焦げ茶の絨毯ができるのを見つめ、これで心機一転だ、と胸躍らせた。


はい、できました〜、との言葉を聞き、鏡の中の自分はにっこりと笑っていた。
ひどいくせっ毛が、ストン。
毛先はオーダー通り、鎖骨につくかつかないかの位置で切り揃えられ、均一に内にカールされている。
切れ毛や枝毛は全て取り除かれ、ツヤっとした手触り。

え、かわいい〜。切って良かった!

どうですか?全然違うでしょ?と満面の笑みでこちらを覗き込んでくる美容師さんに、反射的に口がそう動いた。


美容室を出て、髪に指を通す。
うん、確かにまるで自分の髪とは思えない。

これで良かった、そう良かったと帰途についた。


実際、褒められることは増えた。
前に見た女性雑誌の「洋服、化粧品より、スキンケア、ヘアケアへの投資が良いってウワサ☆」みたいな見出しを思い出しつつ、笑顔を貼っつけていた。

自分でも前の剛毛くせっ毛より、だいぶ清潔感も出て、今の方がずっと良いと思っている。

だけど、何かが引っかかるのだ。

話が逸れたが、失恋の話だった。

変にドラマチックな場面が幾重にも重ねられただけに、私は舞い上がってしまった。
何もせずに身をまかせていれば心地がよかったけど、欲が出て手を伸ばせば、すぐに指の隙間からすり抜けた。

なーんて書いてみたが、(めちゃくちゃ嫌いな文体だ)まじ恋愛ってタイミング!wという教訓を得た、陳腐な話に過ぎない。

なのに。


私はどうしてかものすごくショックを受けていた。
大好きな、大好きなご飯が食べられないほどに。

別に失恋が初めてとか、そんなことでもない。


↓私の大学一年生の時の失恋。思い返せば失恋ばかりしている。
そしてこれを書いた時と比べて、精神状態のむらがすごい。

https://note.com/warottapizza/n/nfe873d1e4494

もう半年以上経つが、これを書いている今も、その傷は正直癒えていないのだ。くそっ。

何でそんなに?
WHY?WHY?WHY?????????


その人のこと、すごく好きだったから?

まあ、最初にこれは来るよね。
確かに好きだった〜、本当に。
それはある。

いけると思ってたのに、叶わなくてプライドへし折られたのが嫌なんでしょ?

こういう時の自分って、本当に意地悪だ。
でも、おっしゃる通りで、私はそういうとこ、あるよ。

ありのままの自分でぶつかったのに、さらりと交わされたもんね?


わー、核心突かれた。
もう1人の私がケタケタ笑っている。
ふざけんな、バーカ。


私にとって誰かの前でありのままでいる、ということは大変難しいことだ。
誰しもそうかもしれないが、本当に心を許せる数人以外と接する時、私は相手に応じてこうありたいという姿を演じようとしている。(できているかは置いておいて)

しかし、溢れ出る思いを伝えるためには、そんな演技なんて出来やしなかった。
この思いを前にしちゃ、不可能だったのだ。

こんな恥ずかしいことを言えるくらい、我を失い、生の自分をさらけ出す、ということをせざるを得なかった。



そんな大変なことをやってのけたのに、相手の反応はこうあって欲しい、と思っていたものではなかった。
そのことに私は、悲しみでも悔しさでもなく、ただ怒っているのかもしれない。

なんと理不尽クソ野郎。
一歩間違えればストーカーになりかねないぞ、と思う。


私の髪の毛は一本一本が太く強い意志を持っていた。

あっちへ動きたい、こっちに跳ねてみたい。対格にいるやつとは違う動きがしたい、ちょっと今日はグレてうねりたい。

美容院では手を焼かれることも多く、ストレートパーマなんかじゃ太刀打ち出来ない、扱いづらい髪の毛たち。


だけど、私は彼らのことを気に入っていたのだ。

日々本当の自分を見せずに過ごしている私の中にある、そのまんまで正直な唯一の場所。
美しくもなんともないけど、愛おしかった。


だから極力アイロンやコテは使わなかったし、ブリーチをしたりもしなかった。


ところがだ。

失恋して、私は何年も守り続けてきたそのポリシーを、いとも簡単に捨ててしまった。


ヤケになった訳では無い。
多少はなったけど。


最後の砦であった髪までも、ついに武装してしまったのだ。
髪を結ぼうとして、「あ、ない」と思うその瞬間、「そのまんまでかわいい」と言われた記憶がふと蘇る。


バカだ。バカバカバカバカバカバカ。大バカ。
気を許した自分がバカだった。

記憶の中でキュンとしてんじゃねーよ、バカ!



だから今日も私は武装する。

髪の毛は毎日のトリートメントで、もはや触れがたいほどに艶を出す。

内側から発光する肌、よし。
1本ずつセパレートされた上向きまつ毛、よし。
白目に輝きを与える潤みまぶた、よし。

弾倉に弾は満タン。

バカな自分と戦うために。

隙は絶対に見せない。
ぶちかますぞ。

でもそんなふうに完全武装したとて、
きっと私は何にも言えず、集団の中にいる姿を気にしないようにすることで精一杯なのだろう。
しかし、それでいい。


この髪が、私に強く立つ力をくれるかもしれない。


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