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テン年代のエロゲを振り返る(2014年編)

2014年、多くのエロゲプレイヤーを支えてきたWindows XPのサポートが終了した。秋葉原ラジオ会館も改装再オープンし、オタク業界にはラブライブ旋風が吹き荒れていた。次世代のオタクたちの可処分時間はスマホへと向かっており、「若者のPC離れ」が進んでいくのではないだろうかとすらささやかれ始めていた。

PCゲームの衰退が決定的かと思われた中で、spriteより発売した『蒼の彼方のフォーリズム』は一定の若いファン層を取り込んだ稀有な作品であった。加えてこの年を境にSteamを中心に多言語対応したギャルゲーの流通が始まった。その中には『ねこパラ』のような大ヒット作も含まれている。加えて『対魔忍決戦アリーナ』などエロゲーメーカーがDMMのオンラインゲームでちゃんとしたヒットを生み出した。

その一方で2014年のヒット作は軒並み過去のヒット作の続編であった。例えば『ランスIX -ヘルマン革命-』『月に寄りそう乙女の作法2』などが過去作品から引き連れた魅力的なキャラ、設定を武器に売り上げ、人気の両面で好成績を残している。加えて萌えゲーもある程度安定した売り上げを持っており、乳袋な萌えゲーを作るClochetteよりリリースされた『サキガケ⇒ジェネレーション』がさらなる躍進を遂げ爆発的なヒットを残したようだ。ほぼ同様のコンセプトを持っているように見えるまどソフトの『ヤキモチストリーム』あたりも急成長を遂げている。
また『銃騎士Cutie☆Bullet』のCG不足事件というかなり目立つ炎上案件が発生したことは印象深い。かねてから延期体質のあるエロゲ業界であるが、ここまでの炎上は久々のものであった。

続編依存、延期体質がもたらす未完成大炎上など業界の衰退がさらに浮き彫りになっていく一方で、一方でDMMソシャゲの勃興、Steamビジュアルノベル界隈の盛り上がりなどもあり、いろいろな意味で分岐点となった一年だったといえるかもしれない。

基本データ

・批評空間での中央値一位は「ランスIX -ヘルマン革命-」
・2chベストエロゲソングは幻想楼閣
・萌えゲーアワードは「蒼の彼方のフォーリズム」
・2chベストエロゲは集計にもよるが「月に寄りそう乙女の作法2」「あの晴れわたる空より高く」
・Getch.comの売り上げ一位は『サキガケ⇒ジェネレーション!』
・アミューズメント館のエロゲ売り上げランキングなんてのもあったので挙げておく。ソフマップ単体で17位ぐらいまでは1万本近い売り上げがあったようだ。

個別作品

蒼の彼方のフォーリズム

2019年現在での人気ということを考えると、spriteより「蒼の彼方のフォーリズム」が最大なのではないだろうか.ラブライブなどから入ってきた若いエロゲファンも取り込んだことで、今後の業界を牽引していくかのようにも思えた作品である。(しかし、その後spriteは死んでしまうが……)。美少女が空を駆け回るというのはオタクが囚われがちな夏の幻影なわけだが、そのような幻影を体現した架空のスポーツ「フライングサーカス」をやる熱血部活もの.実際のところ話の作りにくさゆえか、オタクが運動部に抱えるトラウマゆえか、熱血スポーツもの路線でヒットした作品は多くはない。そういう意味でも爽やかにスポーツを描き切った「あおかな」は稀有な作品だろう。

架空のスポーツを考える渡辺僚一先生も本作顔負けの熱い戦いをしていたようだ.

あの晴れわたる空より高く

「あおかな」が運動部ものだとしたら、「あの晴れわたる空より高く」は文科系部活ものとして高い評価を受けた。ロケットに関する専門知識をふんだんに盛り込みながら試行錯誤・仮説検証を繰り返すというエロゲーらしからぬ本格的な展開は特に理系、工学系の人に響くものがあるだろう。青春ものなおチュアブルソフトは解散してしまったが、元プロデューサーのイシダ氏が宇宙開発関連の事業に携わっているなどのいい話がある。

彼女のセイイキ
fengが8thプロジェクトをほっぽり投げて作った低価格作品。フルプライスを作っていたメーカーであるfengが、1998円という低価格帯でゲームを作ったことで話題になった。コンパクトな1ルートのみの作品だが、抱き枕付き豪華版を10800円と利益を出す手段も確保。シナリオは星空のメモリアのなかひろ氏を起用し、低価格帯ながらクオリティの高いものとなっていた。堀江昌太作曲のOP「冬に咲く華」とED「夜明けのベルが鳴る」も良い。続編も二つ作られるなどこのフォーマットは商業的にそれなりに成功したようで、ぱれっと、Frontwingなどがこのフォーマットで新作を展開している。

紙の上の魔法使い
新ブランドウグイスカグラによる斬新な路線をいった作品。ストーリーは全体的に説明しづらい内容なのだが、「現実に物語を開く本」という設定のもと展開されるメタフィクションもの。このような設定が好みの人にはお勧めできる一作であろう。ただしやや冗長の文体や演出の弱さゼロ年代ばりのバグ・誤字の多さなどからやや評価が低くなりがちな一作である。珍しくOP・EDがない。

なないろリンカネーション
シルキーズプラスデビュー作。タイトルの通り輪廻をテーマにしたハートフル伝奇もの。平凡ながら丁寧に作りこんである良質なエロゲ。

魔女こいにっき
SAGA PLANETSを退職した新島夕が立ち上げた新ブランドによる作品。主人公視点+南乃ありすの日記という二つの視点が入れ替わりながら進行していく。いつもの新島夕っぽさのある作品。

恋が咲くころ桜どき
異常に宣伝に金がかかっていて期待度も高かった作品。しかし致命的な欠点こそないものの、シナリオの質がイマイチな無駄シリアスなどともいわれてしまう悲しい作品。OPはとてもいいが……

http://blog.livedoor.jp/geek/archives/51443331.html

星織ユメミライ
tone's workの力を見せつけた一作.スクール編・アフター編という複数部構成で丁寧に恋愛を描いていく正統派ギャルゲーメーカーとしてのスタイルを確立した。

ハロー・レディ!
異能バトルもの。正直既視感がだいぶあったが、テンポが良い。

アストラエアの白き永遠
「After snow -白き永遠- 」が名曲。みなさんも暖かな白き永遠の微笑みになりましょう。

以下は続編系。

ランスIX -ヘルマン革命-
根強いファンを持つランスシリーズ。終結に向けてストーリーに力が入っていたことで高評価を得た。

Clover Day's
「Clover Heart's 2」発売決定というエイプリルフールネタから始まった、『Clover Day's』が発売。 エイプリルフールネタで公開されたキャラデザがかなり好きだったので買ったが、シリアス気味恋愛路線のAlcotは平凡という印象が強い。2011年にメーカー特典でのロゴ入れ替え事件が起きたFavoriteとAlcotが本作ではコラボしてプロモーションを行っていた。

ハピメア Fragmentation Dream
ハピメアのFD。前作で描かれなかった妹との決別を描いたことで一定の評価を得た気がするがイマイチ印象に残っていない。相変わらずOPのクオリティが高い。美月琴音の歌った「後ろ髪の証跡」も陰に隠れがちだが必聴。

BALDR SKY Zero 2 -バルドスカイゼロツー-
不評だった前作をプレイしきった者のみが買っているということもあるが比較的評価は高い.特に前作ラスボスまわりの過去話を回収したことで、前日譚として一定の評価を得た.個人的にはボリュームがあることに加えて延々と回りくどい会話が続くため,つらかった。

とはいえOPの「Reboot oN/↓0 」の歌詞が好き。だれも生きることを許された尊き存在だと信じてゼロから掴み取ろうね。

レミニセンス-Re:Collect-
『暁の護衛』の主人公が登場し、前作で回収されなかった伏線が明らかになる――はずもなく、いつもの衣笠作品らしい味のある結末が紡がれた作品。2016年にセット版が追加シーンありで作成されたが、その際の広告で『起承転「結」を満足させる刻がきた』などと揶揄されてしまう有様であった。

月に寄りそう乙女の作法2
おつりろがヒットしたことでさらなる続編が作成され、曲芸商法じみてきたように思える本作だが、意外と評価は高い。前作主人公の子供である小倉朝陽を中心として前シリーズとはまた一風変わった様々な舞台での女装主人公の活躍が描かれる。

ChuSinGura46+1 -忠臣蔵46+1- 武士の鼓動
なんか忠臣蔵だが新選組が出てくる。前作同様演出も光るFD。

大図書館の羊飼い -Dreaming Sheep-
箱がでかい。

CHAOS;CHILD
CHAOS;HEADの続編。情報強者を気取る主人公がニュージェネレーションの惨劇の再来を追うといった内容。震災やニコニコ、TwitterなどのSNSを介した新しい情報流通の在り方をベースに情報によって紡がれる現実の危うさを描いた作品。本作の主人公はかなりオタクとしてリアリティがあり、だいぶ身につまされる展開も多かった。そういった点でSteins;Gateに比べると爽快感はないが、重いテーマ性がある作品。

ストリップバトルデイズ
Getch.comの売り上げランキングで地味に6位になっているオーバーフローの久々?の新作。このころはオーバーフローも一応息をしていたのだと感慨深かったので言及しておく。


炎上

「銃騎士Cutie☆Bullet」は3月28日に4か月の延期を経て発売した。人気原画家を登用し、クオリティの高いフルアニメのOPを用いたプロモーションもあって、期待度が高かった。しかし蓋を開けてみるとシナリオの粗雑さに加え、CG枚数が35枚とフルプライスのゲームとしてはかなり少なかった。グラフィックに期待していたユーザーも多かった中で、このボリューム不足は致命的であり、未完成商法とみなされ大炎上を起こした。

炎上を起こしたまま発売ブランド『エフォルダムソフト』は解散してしまった。事態を重く見た親会社のあかべぇそふとはニコ生で謝罪をを行い、追加パッチの作成およびに同じく翌年同じく騎士物の『聖騎士Melty☆Lovers』を購入者を対象に無償で配布することで手を打った。

https://megalodon.jp/2015-0406-1828-21/www.akabeesoft2.com/info_7.html

『ギャングスタ・アルカディア』も同様にCG枚数の不足で炎上を起こした。こちらはFDとはいえCGが29枚だったことに加え、発売後に別の原画家を使用していたことが発覚し。個人的には猫撫~ギャングスタ・リパブリカに至るまで高いクオリティを保っていたOPが、素人がフリーソフトで作ったようにしか見えないクオリティになってしまったのが残念だった。一方でシナリオでは一定の評価を得ている。

似たような騒動としては2007年のDies iraeおよびGardenの未完成商法事件、通称「怒りの庭事件」が有名。

https://w.atwiki.jp/god14/pages/125.html

エロゲ翻訳業の勃興

今までも細々と日本産エロゲが翻訳されることはあったが、極めて限定的で、ファンによる有志の翻訳パッチの作成が主な翻訳手段であった。しかしこの年が一つの起点となって、クラウドファンディングを活用した公式翻訳がSteamでリリースされるようになった。経緯はわかっていないが、2012年にSteam Green Lightというシステムが導入され、一定のファンからの支持がいればSteamストアへのリリースが容易になり、「Analogue: A Hate Story」など実際にヒットする作品が生まれ、ビジュアルノベルに需要があると認知されたことが一つのきっかけと思われる。2014年以降翻訳される作品は増え、実際のところ2018年においては現在確認出来る限りで昨年50本近いエロゲーが翻訳されている。日英中同時リリースといったことも増えてきている。

2014年には同人からは「WORLD END ECONOMiCA」「Hatoful Boyfriend」などが翻訳、リリースされた。コンシュマーからは「planetarian」が翻訳。フリー配布で翻訳パッチも普及していたので発売の経緯はよく分かっていないが、『narcissu』のSteam版もこの年にリリースしている。

http://key.visualarts.gr.jp/product/planetarian/steam/

単なる翻訳ではなく、オリジナルのゲームを日英同時に展開するというケースもこの年の時点であった。

テン年代で一番売れたエロゲであろう、『ネコぱら』の発売もこの年である。ネコぱらは中国出身、元ageのスタッフであるさより氏による同人誌『NEKO PARADISE』を基にギャルゲーとした作品であり、当初はコミケでの発表を予定していたが、2014年7月に『Sakura Spirit』というお色気系海外産Steamギャルゲーが誕生したことをきっかけにSteam GreenLightに登録、日英中での同時リリースを行うこととなった。当初は数千本の売り上げを見込んでいたが、結果的には2017年時点で170万本を売り上げることとなった。販売価格は1000円程度であるが、予算はE-moteなどが入ったことで、商業ゲーム以上のものとなっていた模様。

https://www.gamespark.jp/article/2014/07/11/49984.html

https://www.inside-games.jp/article/2015/01/05/83886.html

https://news.denfaminicogamer.jp/interview/171025

MangaGamerなどを通して翻訳版をリリースしてきた、国内エロゲメーカーOverDriveから海外向けに「Go! Go! Nippon! -My First Trip to Japan-」が発売。

https://milktub.exblog.jp/22643185/

加えてCLANNADについても2015年リリースの予定でクラウドファンディングが開始している。これ以降クラウドファンディングである程度集金したうえで翻訳版を作成Steamというモデルは広く普及していくこととなる。

https://www.kickstarter.com/projects/sekaiproject/clannad-official-english-release

↓2014年には記事が書かれる程度にはビジュアルノベルがSteamで浸透してきていることが分かる。

https://www.gamespark.jp/article/2014/12/31/53961.html

ソシャゲ

KeyからAngel Beats! Operation Warsが、サービス開始。若年層ファンも多いABのパズルアクションということでそれなりにヒットするのではないかとも思われたが2016年に1年半ほどでサービス終了してしまい。ソーシャルゲーム業界の厳しさというものを見せつけられる形となった。

https://www.inside-games.jp/article/2016/03/10/96745.html

その他には「対魔忍決戦アリーナ」(決アナ)がサービス開始。こちらは地味にプレイ人口が多かったらしい.実質的な後続サービスとなる対魔忍RPGがリリースされるまで(2019年3月29日まで)長らくサービスが継続した。最近は「アクション対魔忍」のリリースも話題になっているが現在に続く第二次?対魔忍ブームの端緒はここにあるのかもしれない。

http://w4t4n4b3.hatenablog.com/entry/2014/08/09/230605

アニメ

特異的にエロゲ原作アニメが増えた年である。
グリザイアの果実
全ヒロインルートを回収する京アニ版Kanonスタイル。シネマスコープ(アスペクト比が1:2.35であり)で作成している珍しいアニメ。原作の空気が良く再現されていたように思える。睡眠の重要性が学べる第三話は必見。

大図書館の羊飼い
夜明け前より瑠璃色はではキャベツ、Fortune Arterial の際にはメディアミックス展開の一環であったであろうPS3版の開発中止など、アニメには苦い思い出があっただろうAUGUSTより四作目のアニメ化。原作をオリジナル要素を混ぜつつうまくリファインしておりそれなりに評判は良かったようだ。

失われた未来を求めて
発売時にPC版は絶版しており、なぜアニメ化したのかよく分からない作品。アニメ化の影響もあって一時期中古が高騰した。3D作画ではないのだが第一話から妙な3Dっぽさがあるなど、作画がやや不安定だった。走っている途中で服が変わってしまうシーンがそこそこ有名。OPとEDはいい曲。

Fate/stay night [Unlimited Blade Works](ufotable)
技術の進歩もあって、圧倒的な映像のクオリティを見せた一作。多くの中学生を"I am the born of my sword..."に引き込んでしまった罪深い作品でもあるだろう。そういえば原作と比べて微妙な設定変更があったりした(十二の試練の回数、アーチャーの壊れた幻想がバーサーカーに利いている)ようだが、変更の理由をそういえば知らない。

DRAMAticalMurder
NitroのBL系ブランドから出たエロゲがアニメ化していた。調べるまで全く存在を知らなかった。

天体のメソッド
Keyの伝説的ライター久弥氏がシナリオを書いた作品。可愛らしい絵柄と美しい風景描写とは対照的にかなりギスギスとした雰囲気が終始流れており、シナリオの着地点が予想外にポエミーな形になったためあまり大衆受けする形とは言い難かったが、カルト的人気を誇っている。OPがI'veのLarval Stage Planningでゼロ年代感がある。加えてEDのfhána「星屑のインターリュード」と江畑諒真氏の一人原画で爽快感あるEDは必見。

その他の話題

・王雀村が『始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇 』 を刊行。2015年の二巻発売以降2019年現在音沙汰はなく…
・Gamergate 事件が起きたのがこの年。エロゲも海外進出がこの調子で進むと色々と問題に直面することもあるのかもしれない。
・dアニメストアがドコモ以外のユーザーへ門戸を開く。そのほかにもNetflixが日本法人を開設し、サブスクリプション制映像サービスが一気に浸透し始める。




(ヘッダー画像はhttps://www.flickr.com/photos/fukapon/15436839880/ よりCCライセンスに基づいて使用しました.クロップ加工をしています.)


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