2022年11月の俳句。
手に南瓜じさま半生 語りだす
じっさまは じいさま 爺さま 祖父さまのこと。
有人が寺の境内のベンチで休んでいたら 老人に話しかけられたという。
「南瓜は食べるか」と聞かれて、「嫌いではない」と言うと、これをやるから持って帰りなさいと手にした南瓜を差し出された。
礼を言って有人はそれを受け取った。老人は名前を名乗ると、今年で95歳になると話した。
それにしてはお元気ですねと言うと、彼はうれしそうにうなずいて、自身のことについて話し始めた。
どこからこの町に来て、どのようにして現在の店を築いたのかなどなど、気の良い友人はなかなか話を中断することもできずに半時間ほど 老人の話に付き合ったという。
螽斯 破れ網戸の カザルスよ
明け方廊下の突き当りの方からジージーという音が聞こえた。少しずつ近づくと 破れかけた網戸に螽斯が留まって、悠然とおのが羽根をこすり合わせて 秋の音色をかなでていた。
※カザルス・パプロ・カザルス(1876―1973)スペイン出身、20世紀最高のチェリストといわれた。
盆のくぼ 西日集めて 秋の暮れ
盆の窪と呼ばれるのは 東部から首にかけての中央部にあるへこんだところ。
回覧板を持っていくのに 日の落ちかけていた通りに出た。
そのときいきなり後ろから盆のくぼにスポットライトを当てられたように夕陽が差してきた。
土塊に 球根らしきもの 小春
チューリップの球根を植える季節。
手ごろな鉢を探していると雑草が少しばかり生えていて他には何もないように見える鉢がいくつか。
念のために鉢の中の土に手を入れてみると、寝生姜ほどのちいさなものが出て来た。
何だか球根らしいものなので捨てずにどこかに埋めることにする。
マンドリンの 「もみじ」伴奏 冬立ちぬ
「宮林先生をしのぶ会」にて九月に急逝された宮林先生をしのぶ会が11月の上旬に行われた。
歌声の会でみんなとよく歌っていた季節の童謡を歌って先生の魂を送ることにした。
「故郷 里の秋、紅葉、月の砂漠」を歌った。
ピアノの伴奏をしてくれる人がいなかったので 私がマンドリンでささやかな伴奏をした。
みんなで歌うと暖かなものが流れた。会員の一人がそこに先生がきていっしょに歌っていると言った。
風の夜に 壊れ行くもの 冬の雨
強い風が夜に吹いていた。木々はゆさぶられ はを落とし、家などの構築物も揺り動かされ微妙に痛んでいく。そこにおりからの冷たい雨が当たり始めた。
自然の力の浸食は人が眠っている夜の間にも 着実に進行していくのだ。
おるごーる 止まりて 聞こゆ 冬の蚊の
冬温し ジャングルジムの 小さき部屋
ジャングルジムの本来の目的はアスレチックな道具としてあたかも森の木々の代用としての金属の棒による立体的な構築物としてそこに手足を掛け、上下にからだを動かして 筋力を要請するために存在している。
しかし 私はジャングルジムの内部に興味があった。その立方体の集合のような内部の空間に入ると、そこはなにか独特な空間の雰囲気をかもしていた。
そこには何か独特の地場があった。狭い立体的な空間が 小さいけれど一つ一つの部屋のような地場を有しているように感じられるのが 不思議だった。
冬紅葉 手押しポンプの 今は無く
子供の頃 私が育った家には井戸があり、手押しポンプで水を組むことができた。
その背後にはちいさな池があり、楓の低木木が植えられていた。その楓も秋から冬にかけて紅葉した。
今はその手押しポンプもなく、池も埋められてしまった。
ただ楓の木はゆっくりと成長し、大人の背丈ほどになり、紅葉が初頭の庭に色を添えている。
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