【読書感想】 旅する練習 乗代雄介著
第164回芥川賞候補作、乗代雄介さん著書「旅する練習」を読みました。
個人的に、この作品も受賞してほしかったと思うほど好きな作品でした…!
多くの人が再読せざるを得ない本ではないかと思います。
サッカーとオムライスが大好きな少女、亜美と、
口数は少ないけれど優しくて博識な小説家の叔父が、
それぞれの練習をしながら、歩いて目的の地を目指す「練習の旅」を決行。
亜美は主にリフティング、叔父は見たもののありのままを書いて表現すること。
旅の途中で偶然知り合う女子大生のみどりさんも加わり、二人の旅は三人の旅に。
無邪気で、まっすぐで明るい亜美を眩しく思うみどりさんは、
とても自信がない女性で、彼女の気持ちに共感してしまう人は男女問わず、多いのではないかなと思います。
初め、彼女は不思議系おっとりさんかしら?なんて思いながら読んでいたのですが、誰も気に留めないようなその人の小さな魅力に気づくことができる優しくて素敵な女性です。
人の素敵なところに気づいてあげられる人は、自分の素敵なところには気付きにくい人が多いのかもしれません。
そんなみどりさんに亜美のかける言葉のあたたかさといったら…もう思い出すだけでも涙が出てきます。
みどりさんだけではなくて、この本を読んだたくさんの人が
亜美の言葉や行動に励まされるのではないかなぁと思います。
亜美の成長とみどりさんの心の変化が叔父の巧みな文章で描かれており、
楽しく、そして時に切ない思いで旅を見守りました。
叔父は野鳥や植物に特に詳しく、作中でも多々描かれます。
鳥の名前や特徴が詳しく書かれており、その都度画像検索をしながら読みました。
ちょっとした図鑑を読んでいる気分になります。
この本の読後の余韻がとてつもなかったです。
その日、ふとした瞬間に登場人物たちのことを考えてしまうほどでした。
文章の表現力の豊かさのおかげか、とても感情移入してしまいました。
ここから先(イラスト画像以降の文章)は、
まだこの作品を読んでいない方には読まないでいてほしいです。
そうして、読んでからまた戻ってきて頂けたら嬉しいです。
このイラストは亜美をイメージして描きました。
こんな笑顔の女の子なのではないかなぁと勝手に想像しています。
それでは、ここからは読んだ方向けの感想です。
途中、何度か引っ掛かる部分があって、「この言い方って…なんだか…」と思いつつ、読み流していて…。
終盤に進むにつれて、文章から叔父の亜美への愛情が伝わってくるなと思うようになりました。
亜美に実際にかける言葉は少ない叔父だけど、抱いている想いは熱いもの。
ラスト3ページは思わず鼓動が早まった気がしました…。
「嫌だ嫌だ」と駄々をこねながら読みました。
叔父の亜美への想いから後悔が滲んで…ボロッボロに泣きました…。
突然の死別って、信じられない気持ちとか、
理解が追いついていかないというか、
ポカンとしてしまって、遅れて「ああもう会えないんだ」と理解してどうしようもなく悲しくなるような、そういう経験が文章という形で再現されていて、苦しかったです。
愛犬を亡くした日をまざまざと思い出しました。
亜美の死を知るみどりさんのことを想ってまた泣きましたし、
伝えなくてはならない叔父の辛さを想ってまた泣きました。
でも、思い出も存在も大切なままで、
叔父が書き残してくれたことで私たち読者は亜美に出会えました。
だから、この本は悲しいだけの体験をくれた本ではありません。
これからずっと先、私はこの本をたくさん読み返すと思います。
そうしてまた何度も泣くのだろうなと思います。
すごく気が早いけど、2021年出会えてよかった作品の一つになったこと間違いなしです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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藁中 みずか
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