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ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず[上] 1 (新潮文庫) | 本とサーカス

ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず[上] 1
著者 塩野七生
出版社 新潮社
発売日 2002年

 言わずと知れた、古代ローマ通史の名著。
 単行本で全15巻、文庫本で全43巻にも及ぶ大作である。

......よ、よよよよよ43!?

 と、この第1巻を手に取る前に尻込みしてしまうほどの爆裂超大作だが、そんなに身構える必要はない。読みやすい文体かつ時代背景が丁寧かつ緻密に描かれているため、予備知識がそれほどなくてもOKだ。学生の頃、世界史の成績が鼻くそだった筆者が言うのだから間違いない。一度走り出してしまえばページを捲る手が止まらなくなり、鼻をほじっている間に5巻は読了しているはずである(それでも残り38巻♡)。

 さて、古代ローマは王政期(紀元前753年〜紀元前509年)、共和政期(紀元前509年〜紀元前27年)、帝政期(紀元前27年〜紀元476年)と大きく3つの時代に区分されるが、本書(文庫1巻)で描かれるのは「王政期〜共和政の初期」である。つまり、紀元前753年のローマ建国から紀元前509年の王政期にかけてこの一巻のみで完結しているわけだが、この時代は信憑性に欠ける<神 話フィクション>であるゆえ、詳細は省いたらしい(王政時代をもっと詳しく知りたいぃ!となった方には、リウィウスの「ローマ建国史」をお勧めする)。

 王政ローマでは7人の王が登場する。
 初代王ロムルスによるローマ建国にはじまり、ローマに平和と秩序をもたらした2代目王ザマ。近隣都市アルバを攻略し、後のユリウス・カエサルを生む「ユリウス一族」をローマにもたらした3代目王トゥルス・ホスティリウス。オスティアを攻略し、塩田事業を切り開いた4代目王アンクス。ローマ初となるエトルリア系で、ローマに数々のインフラ技術を導入した5代目王タルクィニウス・プリスコ。約2500年後の今日でもその片鱗を見ることができる<セルヴィウスの城壁>を築いた6代目王セルヴィウス・トゥリウス。そして最後の王タルクィニウス・スペルブス
 ここで、ローマが独裁である<王政>から少数の者たちが国家を支配する<共和政>へ移行するきっかけとなった事件を紹介しようと思う。

 最後の王タルクィニウスの息子セクストゥスは、親族であるコラティヌスの妻ルクレツィアに恋をした。
 ある日、「んもぅ我慢できない!」と戦場を抜け出したセクストゥスは彼女の家を訪れる。親族でもあり、王の息子でもあるだけにルクレツィアはセクストゥスを招き入れた。しかし、彼は暴挙に出た。

 夜も深まり家中の人々が寝しずまった時刻、短剣をふところにしたセクストゥスはルクレツィアの寝室に忍びこんだ。短剣を突きつけてであったというが、若者は女をわがものにするのに成功する。ただ、若者は、このような場合には絶対にしてはならない誤りを犯した。寝台に伏したままの女をそこに残して、早々に屋敷を後にしたのである。

p.107

 恥辱ちじょくを受けたルクレツィアは戦場にいる父と夫の元に、信頼のおける人だけを連れて急いで来て欲しいと知らせを送った。父ルクレティウスはヴァレリウスを、夫コラティヌスはブルータスを連れてただちに向かった。到着した4人に事情を説明した後、ルクレツィアは「女の敵を許しておかぬと、右手をさしのべて誓ってください」と4人に誓わせ、短剣を胸に突き刺し、絶命した。

ブルータスは、市民たちを前にして演説した。貞節で行い正しい女たちを、二度とこのような蛮行の犠牲にしてはならないと言い、王タルクィニウスが、先王セルヴィウスを殺して王位を奪った者であることを人々に思い出させた。そして、王と王の一家全員をローマから追放することを、市民たちに提案したのである。

p.108

7代目の王であった彼とともに、ローマの王政時代も終る。ロムルスが建国した紀元前753年から数えて244年目の、前509年のことであった。これ以後、ローマは共和政時代に入る。

p.109


 
 本書はシリーズの全体から見ればまだほんのプロローグであり、ローマ人の物語はこれからどんどん波瀾万丈になっていく。

 著者が「世界史のブランド品」と述べるほど我々後世に多大な影響を与えた古代ローマ。是非、皆様も躊躇なく本書を手に取り、その壮大で波瀾万丈な物語に浸っていただければと思う。




以下、「これは...!」と筆者が思わず椅子から立ち上がった箇所を引用する。

・「技術力の向上は経済力の向上につながる。」(p40)

・「敗者でさえも自分たちに同化させるやり方くらい、ローマの強大化に寄与したことはない」(p58)

・「宗教は、それを共有しない人との間では効力を発揮しない。だが、法は、価値観を共有しない人との間でも効力を発揮できる。いや、共有しない人との間だからこそ必要なのだ」(p75)

・「人間の行動原則の正し手を、宗教に求めたユダヤ人。哲学に求めたギリシア人。法律に求めたローマ人」(p76)

・「ローマ人は、エトルリアの技術者たちの指導に従って働きながら、まねし学びとったのである。これが、後の世界的なエンジニアたちを育てあげる基礎になった」(p92)

・「共同体も初期のうちは、中央集権的であるほうが効率が良い。組織がまだ幼い時期の活力の無駄使いは、致命傷になりかねないのだ。そのような時期には、一人が決め一人が実行の先頭に立つほうが効率的なのである」(p110)

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