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Memoriesに想いを寄せて

8年間ツアーが発表されるたびにSHE’Sのライブに足を運んでいた2人だが、次のツアーが一緒に観戦する最後のライブになる。

ライブ中に眼と眼が合う瞬間が好きだった。

彼女はバンドマンからも匂いが好きだとか、可愛いと言われるのに、恋愛なんてちっとも興味がなさそうだった。でも身内が炎上しても前倣えして踊らされることはなく、正しいかどうかは自分で判断する。自分をしっかり持っている人だった。

そんな彼女がSHE’Sのライブに誘ってきたのは2016年の年明けに行われた『One-Two-Three,For!! TOUR』という対バン。3つ歳上で大学生だった彼女が僕の誕生日に「もうすぐ大学生になるから私が好きな邦ロックのCD、渡しとくね」と『Night Owl』の入ったCDをプレゼントしてくれたのがきっかけだった。

「Evergreenばかりセトリに入ってる」なんて彼女が話していたのを覚えている。当時のSHE‘Sのファンは9割が女性だったこともあって男1人でライブに行くことは難しく、この日をきっかけに彼女とSHE’Sに参戦するのは当たり前となった。

まもなく下北沢クアトロでメジャーデビューが発表され僕らはcinema staffとのツーバンに参戦した。その日、『幸せ』を歌う前に話していたカンボジアの子供の「僕、不幸じゃないよ」という話は過去のライブの話をするたびに話題に上がる名MCのひとつだ。

「SHE‘Sは映画のエンドロールで流れたらきっと合うよね」。ライブ帰りにいつもそんな話をしていた僕らに吉報が届いた。『Ghost』が松井玲奈主演の映画主題歌に起用されたのだ。発表と同時に僕らはすぐに映画の予約をして週末に観に行った。その映画は全国にいくつかあるミニシアターでの上演だった。イオンシネマやTOHOシネマズが当たり前だと思っていた大学生の僕は池袋のミニシアターに入った時、そのアングラな雰囲気に驚いたのを覚えている。映画もパンチが効いていたが、主題歌が流れる瞬間を今か今かと待つ瞬間がたまらなかった。少ししけたポップコーンも悪くなかった。

『プルーストと欠片』のツアーファイナルは当時バンドの登竜門と呼ばれていた赤坂BLITZでの開催だった。開演前に「アルバムはどの曲が良かった?」と彼女に尋ねると偶然にも僕と同じ『グッドウェディング』が好きだと返答があった。「もしも他の誰かと結婚したらグッド・ウェディングを結婚式で流してね。」、冗談っぽく放たれた言葉と同時にSEが大きくなった。

その後、参戦した草月ホールは当時、SHE’Sに行ってみたいと話してくれた共通の友人を誘っての参戦だったのだが、2日間の開催にも関わらずチケットが取れなくて苦戦した。でもSHE‘Sでチケットが取れなかったのはこれが初めてのことだったので嬉しかった。

『Wandering』の発売時は数少ない男性ファンだったことが功をなしてかUniversal Music本社へ行ってプレミアム先行視聴会に参加した。「All My Lifeで旅に出て紆余曲折ありながらもHomeで帰ってくる」その説明を聴いてすぐに大好きなアルバムになった。

コロナ禍もあって僕が社会人になってからは、彼女と僕はSHE‘Sのライブに参戦する以外では関わらなくなり、ツアーのたびに会っては少しお互いの近況報告をして解散する流れが定番となった。

昔の曲を演奏するたびに「懐かしいあの曲だ」とイントロが流れると同時に眼と眼が合う瞬間が名残惜しかったこともあり、そのとき僕に恋人がいても、敢えて話さないでおいた。もしかしたら彼女もそうだったのかもしれない。

そういえば一度だけ映画に誘った。
新宿のTOHOシネマズで上映していた『ブルーサーマル』という映画だ。「ほんとに全国の映画館でSHE‘Sの曲が流れたね〜!」。SHE‘Sにひとつ夢を叶えてもらった気がした。

迎えた『SHE’S in BUDOKAN』はSHE’Sを長年応援してきた僕らにとっても集大成だった。SHE‘Sの音楽をバックグラウンドに年月を重ねた僕らは少し大人になった。『Un-science』のイントロが流れた瞬間 、走馬灯のように今までのライブが浮かんできた。同時に『SHE‘S』という屋号はボーカルの井上竜馬さんが中学時代に気になっていた恋愛感情もなければ話したこともない独特の女の子をモデルにしているそうだが、いつのまにか自分のSHE‘Sの投影先が彼女になっていたことに気づいた。

さらに年月を重ねて先日、2度目の日比谷野音を前から5列目、特等席から観戦した。帰り道、「そういえば(彼女)が住んでいる街がいま観ているドラマの舞台になっているよ。◯◯ってやつ」なんて話を切り出したところ彼女は珍しく神妙な顔をして「実はいま、あの街には住んでない。」と言った。続けて「恋人ができて同棲を始めたんだ。今は○○って場所に住んでる」と彼女はとても丁寧に話した。次のツアーに行く約束を既にしてしまっていた僕は少し気まずくなったこともあり、駅に到着したと同時にさらりと別れを告げた。

しかし、「チケット代を渡し忘れた」と彼女からLINEが来たため言葉を返す必要ができた。悩んだ末に「Take care see you again」と送った。

「Take care see you again」 は新曲『Memories』のサビ頭の歌詞だ。バイバイほど軽い言葉ではなく、今生の別れの様に重くもない。言うなれば”人生という旅路の安全を祈る“と敬礼のような言葉な気もする。その言葉に合わせるように「思い出をありがとう。」の一言が返ってきた。

次のアルバムとツアーのタイトルも『Memories』らしい。

「学生のころ、SHE‘Sを教えてくれて本当にありがとな。幸せになれよ!....」

零れた言葉を詰め込んで、思い出の花束を添えられたら。

8年間ツアーが発表されるたびにSHE’Sのライブに足を運んでいた2人だが、次のツアーが一緒に観戦する最後のライブになる。

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