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【ぶんぶくちゃいな】ポッドキャスト「不明白播客」:Netflix版『三体』の文革シーンはリアルか、陰謀か?――わたしの文革体験(前編)

3月21日、世界的な人気を博している人気中国人SF作家の劉慈欣作品『三体』の実写版の放送が、Netflixで始まった。中国を舞台に中国人社会を中心にして展開する原作と比べると、さまざまな人種が登場するNetflixらしいそのドラマ版は、多くの原作ファンたちの度肝を抜いた。

Netflixは中国では配信されていないものの、Netflix自体は、中国語で「奈飛」とか「網飛」などと呼ばれてその存在は知られている。実際には、海外居住経験のある人や、所在地のIPを変えることができるVPNなどの技術を使った人たちがNetflixのアカウントを取得し、中国国内で視聴されてもいるようだ。さらには、配信開始後数時間のうちに、そうした視聴可能な人たちがこっそり作品をコピーし、国内の動画サイトに提供したと見られる海賊版も出現した。

こうして、正式配信開始とほぼ同時に中国のネット上でも『三体』ファンたちによる、Netflix版『三体』への評価が投稿された。

中国人原作ファンにとって、やはり最大の「違和感」は主要登場人物が白人だったり、黒人だったり、インド系だったり、さらには原作登場人物の性別が書き換えられていたりすることだった。

だが、国籍を超えてそれ以上に注目されたのは、冒頭10分あまり続く文化大革命(以下、「文革」)時代の批判大会のシーンだった。そこでは、主人公の父親が紅衛兵によって舞台に引きずり出され、批判を受ける。しかし、自分の「罪」をがんとして認めない父親は、衆人環視の下、そのまま紅衛兵になぶり殺されてしまうのである。

それはかなり衝撃的で、ドラマの出だしとしても強烈なシーンだった。

さらに、中国人視聴者の間ではそれをどう受け止めるべきかについての大議論が巻き起こった。米国企業であるNetflixの製作側の「陰謀論」を疑う声が湧き上がった一方で、多くの人たちからは「大変リアルだ」と称賛の声も起きた。

称賛というのは、今ではそんなシーンは中国や香港でも描くことができなくなっているからである。映像作品で時代の残酷さを記録し続ける重要性について、さらには文革自体の記憶についての討論も始まった。

もちろん、中国国内では堂々とそれを公開の場で論じることはできない。Netflix版ドラマのネット上での感想発表も、ネット禁止用語を使ったり、削除対象の話題に触れるという「地雷」に触れてしまえば、あっという間に削除された。その結果、ネット上に並ぶ評価も目にできるのは似たりよったり、アメリカ製作者の陰謀論などの表面的なものばかりとなった。さらにはその後、作品評論サイトにおけるNetflix版『三体』のコメント欄は閉鎖されてしまった。

こうした超「敏感」な動きの裏で、人々は文革を論じることの重要性を喚起されつつある。かつて文革について語ってきた人たちがまたその記憶を振り返ったり、関係者の声を聞くという動きが起きている。

ここで、すでに何度かそのコンテンツを借用させていただいたポッドキャスト「不明白播客 Conversations with Yuan Li」から、ホストの袁莉(Yuan Li)さんのご許可をいただき、文革体験者による当時の現実についての語りを2回に分けてご紹介する。

袁さんは中国出身のジャーナリストで、中国国内メディアで国内外の取材経験を積んだ後、米国の大学でジャーナリズムを専攻。その後、「ウォールストリート・ジャーナル」や「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)の中国駐在記者を務め、現在はニューヨークに移ってNYTのコラムニストとして活動している。この「不明白播客」(「不明白」とは「わからない」という意味で、「わからないことを尋ねるポッドキャスト」と名前になる)を2022年5月に開始した。

今回のゲストの高さんは、まさに文革に投身した当時の大学生だった女性。中国国内で暮らしておられるようで、その身の安全を守るために番組内ではその姓しか明かされていない。だが、その生々しい証言は一読に値するはずである。

なお、以下の内容において[]は訳者である筆者による補足であり、他に一般の日本人読者にはすぐにはピンとこないはずの中国的な用語について個別に注釈をつけた。


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