【読んでみましたアジア本】必ずやあなたの持つ印象を変える「未完の禁書」:トルグン・アルマス『ウイグル人』

世界の注目が集まっているとき、これまでほとんど気にかけていなかった国のことを知ろうとするのは、「世界を知る」ための基本だと思う。

もちろん、いまではネットが発達し、情報収集の最初の手段はほぼネットだ。だが、ネットの情報はだいたい1本3000字が最大文字数とされており、それ以上の記事は読む側が萎えてしまうというのが一般的な認識である。つまり、ネット情報はニュース拡大版としてならまだしも、全体像や基本知識を掴むには向いていない。入り口を見つけるための「手段」と考えるのが無難だ。

しかし、ならば、と書籍を探しに書店に向かっても、あるいはネット書籍サイトを探しても、ネットばりの「感情豊かな表現」が盛り込まれたタイトルの書籍が並ぶ。今や知識を得るまえに感情を刷り込まれる時代であり、客観的な姿勢で情報や知識を得るのはますます難しくなっている。

前回ご紹介したミャンマーにしても、今回探し求めたウイグルにしても、わたしはまず感情的な言葉が踊る本を排除する。これから基礎的知識を得ようとする読者にとっては、感情が全面に出ている本を最初に手にとってしまうと「その感情の裏に何が隠されているのか」を知ることはほぼ困難だからだ。

もちろん、感情を表に出していない本の中身にも著者の感情が縦横無尽に染み渡っていることもある。だが、「眼球を惹きつけてクリック」が一般になってしまった今の時代、パッケージにおいてその感情を滲み出さない努力というのは称賛に値する。たとえ、販売戦略で多少扇情的であったとしても、書籍それ自体が感情を高ぶらせていないのであれば、一読の価値がある、わたしはそう思っている。

今回取り上げた『ウイグル人』はぴったりそれに当てはまる。2019年に刊行された本書は当然ながら、当時すでに大きな問題として世界的に取り上げられていた、いわゆる「ウイグル人強制収容所問題」を背景に出版にこぎつけたのであろうことは間違いない。それでもタイトルにも、帯にもそうした感情的な表現がない。そのこと自体、版元の良心に支えられた一冊といえる。

●読むための心構え

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