【ぶんぶくちゃいな】「港人治港」が向かうべきところ

巷が、今北京で開かれている全国人民代表大会(全人代)での「香港に国家安全法導入を検討」のニュースで大騒ぎになっている中、ちょっとヒートアップした頭を冷やしていろいろ考えてみたいと思った。

なので、大騒ぎになってガンガンに熱くなった「話題の中身」に手をつけてヤケドをする前に、と情報を探していたら興味深い資料を見つけた。

香港独立監察警察クレーム処理委員会(以下、監警委)の元英国人専門家、クリフォード・ストット氏に、香港の若者政党「香港衆志 Demosisto」(以下、香港衆志)の羅冠聡(ネイザン・ロー)・主席が話を聞いた動画だ。

ストット氏は昨年、香港政府に監警委に招かれて、同じように海外から招聘された他の4人とともに、昨年の香港デモについての調査報告を作成するために外国人専門家として9月に着任。だが、12月末にその4人とともに「監警委に与えられた権限があまりにも制約されている」として辞任を宣言。その後、監警委は「辞任は支障はない」として、先週その結果が発表された。

だが、支障がないわけがなかった。というのも、この監警委に任された調査報告は、もとはといえば市民の間で高まっていた、デモから発展した衝突の全容究明のために独立調査委員会設立を求める市民の要求を林鄭月娥行政長官が拒絶、しかしその代わりとして提案したものだった。その際に、完全に香港世論を二分しているデモへの第三者的な役割として外国人専門家を招聘し、客観性をもたらすことを長官は約束した。

その専門家たちが全員辞職したまま、香港人委員のみで進められた調査に客観性があるのか?

その内容の一部を前回の《ぶんぶくちゃいな #325 「市民をにらみつける行政長官と「香港の真相」》でもご紹介したが、警察の視点からまとめられているのは一目瞭然。民主派からは激しい批判が続いている。

そして、この動画でストット氏も、監警委はもともと香港の警察に向けられたクレームを分析して警察のイメージ向上に役立てるための機関であることから、「昨年のデモの全容を解明するという期待に答えるには構造的に無理だった」と述べている。

たとえば、委員に許されていたのは報道資料の分析のみで、その資料はすべて警察から提供されたものに限られており、それぞれ起きた出来事の現場にいた人物への聞き取り調査も許されなかったという。つまり、根本的に「警察によって提供される資料を分析することになり、期待されていた調査を我われは果たすことができなかった」と説明している。

ちなみにストット氏自身は暴力的抵抗における群集心理の専門家であり、自身の研究は「資料と調査を通じて、現場で起きた出来事とともに現場にいた人たちが目にした実際の状況、そして人々の行動につながった心理的要素などすべての条件から、起こったことを客観的に時系列にまとめ上げる」ものだと述べている。

だが、同氏らが監警委に招聘されて求められていたのは、現場で起こったことを還元するための調査そのものではなく、監警委に対する能力評価だったという。つまり、外国人専門家の専門性は完全に報告書も「客観性」というアリバイ付けのための「お飾り」だったということになる。それが、外国人専門家の集団辞任を引き起こしたというわけだった。

●イギリス人専門家が語った舞台裏

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