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【ぶんぶくちゃいな】市民をにらみつける行政長官と「香港の真相」

5月15日、香港の独立監察警察クレーム処理委員会(以下、監警委)が、昨年6月の「逃亡犯条例」改定案立法化反対市民デモ以来続いてきた抗議活動に関する調査報告を発表した。

監警委による調査報告は昨年、市民が突きつけた「独立調査委員会」設立に対して、林鄭月娥行政長官が市民に約束したもの。同長官は独立した新規の委員会設立を求める声には耳を貸さず、既存の警察に向けられたクレームを独立調査する監警委に海外からの専門家を迎え入れる形で決着をつけようと強行した。

市民が求める「独立」は政府からも独立した機関である一方で、監警委の「独立」は警察組織からのそれであり、政府の傘下にあることはいわずもがな。つまり、監警委では一連の抗議活動において、市民、警察だけではなく行政をも調査対象とする調査は不可能なことは日を見るより明らかで、現在に至るも市民は納得していない。

その監警委といえば、昨年9月に招き入れたばかりの五人の海外(イギリス籍2人、ニュージーランド籍、オーストラリア籍、カナダ籍それぞれ1人)専門家が、12月に全員が辞職を発表。辞職理由は、同委は関係警官の喚問ができず、また一部資料の公開権限の不足などさまざまな面でその権力が不足しており、目的を果たすことができないというものだった。

当時監警委は5人の辞職は作業の実施に影響はないと述べたが、実際には昨年7月には「半年以内に報告書を発表」としていたものが、今にまでずれ込んでいる。また、外国籍専門家が明らかにしたように、今回明らかにされた報告書でも監警委には「法的拘束力がな」く、「警察の改善提案を行う」ことがその旨となっている。つまり、市民の独立調査の要求は結局のところ、行政長官に宛てた「警察改善提案書」という、以って非なるものにすり替えられてしまった。

同長官は一足早く12日にこの調査報告を受けて、約1000ページにも渡る内容をまる1日かけて目を通したという。そして、監警委の報告書発表記者会見後に、「香港の真相」(The Truth About Hong Kong)と大きく書かれ、黒装束のデモ隊や炎に包まれた街の写真を貼り付けたボードをバックに記者会見を開き、報告書を「客観的で全面的、事実を基礎にした」ものであると評価し、報告書内の52の提案を受け入れるとしている。

だが、それと同時にこの報告によってすべての混乱が収まるとは考えておらず、暴力によって政府に要求を呑んだり、暴力分子の「思い通り」にはさせないと述べている。

報告書は、主に6月から8月までの間に起き、抗議活動の動きを変えた節目的な事件を中心に取り上げ、デモの変化と警察の具体的対応を述べている。

その事件とは、6月9日の100万人デモ/同12日の立法会ビル封鎖/7月1日の立法会議場突入/同21日地下鉄元朗駅無差別襲撃事件/8月11日の地下鉄駅構内での催涙弾・ペッパースプレー噴射/同31日地下鉄プリンスエドワード事件――の6事件。

この報告書は行政長官が受け入れたことで、今後政府の正式な調査報告書と見なされることは間違いない。ならば、ここになにが書かれているのかを知ることは、それを受け入れるかどうかは別として、香港政府のスタンスとして知っておく必要はあるだろう。

●2019年6月9日 100万人デモ:「早めに介入」

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