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市民の尊厳を踏みにじる香港政府

香港政府は新型コロナウイルス感染第三波で確定患者が激増するなか、昨日からレストランの営業をテイクアウトオンリーに制限。同時に、集会制限令で禁止される「集会」を3人以上に引き下げた。

香港人は平均的に外食する人が多い。これはその制限を発表する際に政務長官も認めている。となると、買ったテイクアウトはどこで食べるか。夜なら自宅? じゃあ昼は?

もちろん、日頃からテイクアウトしてオフィスでお昼を食べる人はたくさんいる。それが普通になっているのも事実。だが、外で働く人たち、たとえば配送業者、工事や建設業者、あるいは外回りの営業担当、さらにはオフィスワーカーでも出先で時間節約のために食堂で食べたりする人たちはどうすればよいのか?

その質問に政務長官はこう答えた。「郊外公園ではいかが? もちろん、ゴミはきちんと持ち帰り、清潔に保つことが条件だが」

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香港は確かにちっちゃいくせに郊外公園がたくさんある。地図で見るとこんな感じ。で、青い線で囲んだあたりが最も人が集まるビジネスエリア。

「郊外」っていうから、ビジネスエリアからは当然遠い。ランチタイムに弁当買ってピクニックに行けと? だいたい、亜熱帯の香港で外にでずっぱりの仕事をしている人は、低賃金労働者が多い。逆に言えば、時間数でお金を稼ぐしかない人たちだ。当然ランチタイムにぴょーんとピクニックに行って時間内に帰ってこれるような自家用車だって持ってない人がほとんどだ。その人たちに「郊外公園に行ってランチすれば?」だと? 冗談にもほどがある。

その結果、昨日のランチタイムのニュースは大きく取り上げられた。有線電視(ケーブルテレビ)なんか、1時からの株式市場実況ニュースを中断して特別ニュースとして街のランチタイムがどうなっているのかを報道していた(香港のランチタイムは通常1時から始まる)。その様子がこれだ。

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(なお、画像は夕刻のNOWテレビニュースのもの。ランチタイムのケーブルテレビの映像は衝撃的すぎてカメラを構えることも思いつかなかった。)

昨日はランチタイムに大雨が降ったそうで、最後の写真は雨避けしながらご飯を食べている。5、6枚目は政府が雇うゴミ収集労働者たち(高齢者が多いことで知られている)は、当然市政府のオフィスには入れず、ゴミ収集所脇の休憩室でぎゅうぎゅう詰めでご飯を食べるという状況であることを伝えている。

わたしは1980年代に中国に行って強烈に印象付けられたことがある。それは、人々が職場や学校の食堂で持参のアルマイトやプラスチックの弁当箱に料理を入れてもらい、職場や宿舎に向かって歩きながらそのままむしゃむしゃ食べている光景だった。なにが悪い、というわけではないのだが、歩きながら弁当を食べるという器用さ(ハンバーガーやおにぎりではない。弁当箱をかっこんでいるのだ)と、公衆の面前でちょっと食べる、という感じではなくごんごんと普通にあちこちで食事を取っている、ということだった。

ただ、同じ80年代後半に香港で暮らすようになって印象的だったのは、香港の人たちはたとえお弁当を食べるにしても、さすがに歩きながらはほとんど目にしたことがない。ベンチに座って膝をテーブル代わりに食べるか、とにかくどこかにテーブルを見つけてそこに置いて食べるか、がほとんど。外国人にとってはそれほど見た目では違わない、おなじ「華人」であっても、食べ方一つでまったくその姿は違った。そこには「尊厳」があった。

だが、ここにきて香港政府は外にテーブルも用意せず、「どこかで勝手に食べろ」と言い放ったのだ。写真を見てもらえば分かるだろう。オフィスなど自分のデスクがある人たちはまだいい。だが、多くの人たちがテーブルもない街角で、ビルの外壁のちょっとした隙間をテーブルに見立てたり、配送用の箱をひっくり返してテーブルにして食事を取っている。亜熱帯の香港で、車や人がひっきりなしに走る町中で、彼らは食事を取らざるを得ない状態に置かれているのだ。インタビューに答えた人たちは、その狼狽ぶりを口にする。彼らの人間として尊厳は完全に踏みにじられている。

こんなことは少なくとも、わたしが知る1980年代後半以降の香港植民地時代にはなかった。どんなに緊急事態が起きて、日常の生活を制限せざるを得なくなっても政府は必ず、低所得者や条件が整っていない人たちへの最善策をまず発表していた。

祖国の懐に戻った後の特区政府の高官がこうやって低所得者たちの気持ちを踏みにじっていることに、ニュースを見ながらただただ心が痛む。こんな政府が本当に「人民の政府」なのか? その正当性はどこにある?

●追記:

流石にまずいと思ったらしい、香港政府は30日から香港各地に点在する政府の行政ビルの食堂を一般に開放することに。

でも、新型コロナ対策的に見て、政府系の食堂は大丈夫で、一般の食堂は危険、というのはどういう基準? もし、それこそ万が一、政府が心配するように政府系食堂で感染者が出たら、どうするんだろう? 頭使って考えているというより、すべてが場当たり的。

●追記その2:

批判にたまりかねたようで、やっとのこと明日31日からレストランでの食事が解禁される。ただし、1テーブルに2人(集会制限令上限)のみ。

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ひゃっほーい!
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フリーランスライター/香港14年+北京13年半から今日本。中国や香港の市民社会について日本メディアがあまり伝えない話題を紹介。まるっと講読は夜間飛行配信メルマガ「§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな」(月864円:http://bit.ly/1Sp0eJq )がお得。