【読んでみましたアジア本】「ピープルズパワー」はいかにしてドゥテルテを生んだのか:見市建、茅根由佳・編『ソーシャルメディア時代の東南アジア政治』

書名を見ればピンとくるだろう、今回ご紹介するのはいわゆる大学の先生たちによる学術研究論文集である。わたしがいちばーーーん、苦手とする種類の書籍だ。

苦手とする理由は、とにかく研究者の書く文章は仲間内でのシェアを考慮して書かれており、また仲間内で知られている条件をもとに「オレの見解では」をアピールするのが必須なので、その学者がどんな位置にあるのかはあまり興味なく、総体論を知りたい一般読者は読んでいて疲れる。それでも学者本を手に取るのは、少なくとも学者たるもの、巷にあふれる「トンデモ」とは無縁だろうと信じるからだ。あ、もちろん、大学名を名乗りながら「トンデモ」もありますけどね。物理学の教授が中国関連のトンデモ本出してたり。

そしてもう一つの理由は、仲間内でのシェアを考慮しているがために、一般社会への理解浸透をからっきし考慮していない点だ。一部の出版社はノルマとなっている先生方の論文出版を、科研費付きで持ち込まれるのを生業としており、印刷する前から科研費がついているのでと最初から赤字回避できるし、また学術書なので一定量の大学図書館などによる購入が期待できるという。だから、価格が一般庶民が購入するにはお高い…(なので、図書館、あるいは古本販売のご利用がおすすめです!)

分からない、相手にされてない、そしてお高い、となると、誰もがそこにその本があっても手を伸ばしたいとは思わない。日本は大量の書籍が出回っているのだけれども、出版界においては、こうした一般読者をまるっきり相手にしていない書籍がかなりの割合を占めている。

そう思いつつも、この本を手にとったのは、一方で日本では韓国、台湾、中国(ヘイト本がほとんど)を除くと、アジア本があまりにも少ないからだ。そしてそのほとんどが学術書だからだ。

この本もそのうちの一冊だった。

だが、「ソーシャルメディア下の政治」にはわたしはとても関心がある。自分がソーシャルメディアを使って次第に書き手として認知されたという「時代」を生きていたこともある。そして、東南アジアへの関心を刺激された、2年前の香港でのフェローシップで知り合った東南アジアのフェローたちが自国政治を語る時、ソーシャルメディアの存在を無視しては語れない、ということを繰り返しおしえてくれたからだった。

正直な話、中国もそうだが、彼らから聞いたソーシャルメディアの使い方と社会的地位は、さまざまな意味で日本の何倍も大きく、高い。日本ではすでに会社員新聞記者だって目を皿のようにしてソーシャルメディアを参考にしているのに、実際にそれについて語られるときは常に「亜流」的な扱いを受けている。その意図的、あるいは無意識の扱い方については、専門家の研究に任せる(偶然だが、この夏、日本のソーシャルメディア社会論的な書籍が複数出版されているのでググってみてほしい)が、フェローたちとの意見交換は、中国のネット事情以上に刺激的だった。それをこの本できちんとおさらいしておきたかったのだ。

そうして手にとったこの本…結果から言うと、驚くほど読みやすくて、わかりやすく、ためになった。

●ソーシャルメディアの燃料は「気持ち」

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