【読んでみましたアジア本】中国ITを支えるのは「モチベーション」だと再確認/山谷剛史『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』(星海社)

一時はほっと気が緩んでいたのに、冬に入ってまた新型コロナウイルス話題が日々のニュースのトップを飾るようになった。専門家が冬に向けてずっと警鐘を鳴らしていたことは知っていたけれど、それでも心のどこかでそれを打ち消してしまいたい気持ちは誰にもあったと思う。

喉元すぎれば熱さ忘れる。

わたしのような凡人の世界ではあいかわらずそれが繰り返されているわけなのだが、それでも新型コロナのビフォー/アフターともいえるその「成果」をすでに身を持って体験している。

もちろん、多くの人たちにとってそれは一言で「成果」などとは読んではならない忌まわしい体験が含まれている。会社や仕事を失った人たち、家族を失った人たち、大事な大事なチャンスを逃した人たち、楽しみにしていたなにかが吹っ飛んでしまった人たち…全体において大変不幸なことが多かった1年であることは間違いない。

だが、その一方で、というか、その経験を通じて社会が問題に気づき、それに対処し、前進するための思考を促したことも事実だ。その多くは実は新型コロナの前から叫ばれていたことではあったものの、社会がその必要性に直面していない、あるいは直視しようとしてこなかったものが多い。そして、新たにこれまでまったく気づいていなかったようなリスクも出現した。

しかし、我われがいまやるべきはそれを嘆くだけではなく、起きてしまったこの事態や結果に対していかに対処していくかを考えること、それが最優先事項であろう。もちろん、その間にもこれ以上の感染拡大を防ぐ方法を守りつつ、である。

逆境から考えるのは、社会前進のための最大のモチベーションだ。その意味で、新型コロナの発生地となった中国は文字通り「モチベーションの爆発地帯」になった。そのモチベーションと前進の動きがいったいどういう形で実用されたのか――が、今回ご紹介する『中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?』である。

いまさら中国のITなんてもういいよ、中国の新型コロナ対策なんて興味ないよ…そう思う人もいるだろう。正直をいうと、わたしもそうだった。いまさら中国の新型コロナ対策を振り返ってみても、技術者でもなく、また医療関係者でもないわたしに意味はないんじゃないの? そう思い、この本や同類の本には一切手をつけてこなかった。

だが、違った。ここで正直に著者の山谷さんにお詫びをしたい。この本で学べるのは、「中国が何をやったか」「中国が何を持っているか」のおさらいではなかった。中国人と日本人が今生きている社会の成り立ちの違い、そして思考と行動力の違い、さらには社会的モチベーションの違いがここにある。

中国を体験したことのない人、あるいは中国自体に否定的な人はそれでも懐疑的だろう。でも、読みながら想像してほしい。ここに描かれている中国人の生活と自身の環境の違いを。そして、ここで描かれているような環境下で暮らす人たちの目に映る日常生活とはどんなものかを。

政府の規制や政策が云々という前に、これらのほとんどがそこに暮らす人たちと企業のモチベーションで成り立っていることを。

●中国ITの熱き「モチベーション」

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