【ぶんぶくちゃいな】「宴」のあとで:中国人留学生たちの言論空間

5月も末に近づき、日本の学校では新しい環境にもどうにかみんな慣れたよねという時期だろうが、9月に新しい1年を迎える海外では今はちょうど卒業式ラッシュである。わたしも中国のネットで起きた騒ぎでそれに気がついた。

騒ぎの舞台は中国のネットでも、「震源地」はアメリカのワシントンDCに隣接するメリーランドの州立大学だった。21日に同大学で卒業式が行われたが、毎年教職員と学生の投票によって卒業生総代に選ばれたのはなんと中国人留学生。そのスピーチで「アメリカに来て5年」と言っていたので、中国育ちの楊叙平さんがネイティブのアメリカ人学生に混じって学び、その中から総代に選ばれるというのは並大抵の苦労ではなかっただろう。大変な栄誉といえる。

だが、その総代スピーチで「事件」が起きた。

彼女は冒頭で、自分が「メリーランド大学に来た理由は?」とよく尋ねられるというエピソードを紹介、一息置いてにっこり笑い、「Fresh Air」(新鮮な空気)と答えるんです、と述べた。YouTubeに上がっている動画を見ると、会場から笑い声が上がっていた。

わたしも思わず笑った。多少なりとも中国のニュースに注目しているならば、中国の大気汚染がどれほど深刻化はすでに常識だ。わたしが暮らしていた頃の北京では、高層ビルの中階層から上が立ち込めるスモッグに隠れてしまい、まるで映画「バットマン」の描くゴッサムシティのような重苦しい空の日々が続いた。先日北京から一時帰国した知り合いによると、昨年の夏は青空も多かったそうだが、冬になるとどんよりしたスモッグが続く。住んでいる人たちはそれを受け入れて暮らす以外方法はない。

楊さんはそれをジョークにした。だが、その一瞬、わたしは不安になった。これを一番最初に持ってくるなんて、ちょっとインパクトありすぎじゃない?

楊さんは、自分が育った中国ではマスクをせずに街を歩くと病気になりそうだったと語った。だから、アメリカに留学する時、マスクを5枚バッグに忍ばせてきたが、いざアメリカでマスクをつけようとした瞬間、その空気を吸ってそのままマスクをしまいこんだという。

空気がこんなにおいしくて、フレッシュだなんて、とても贅沢だと思いました。驚いてしまいました。

だが、空気の話は文字通り導入部でしかなかった。彼女は続けて言った。

ほどなくして、メリーランド大学でわたしはもう一つのフレッシュな空気を感じることができました。それは自由に表現する空気です。そのことについてわたしは永遠に感謝し続けることでしょう。

確かに中国人学生としてはかなり大胆な切り込み方だった。

●楊さんのメリーランド生活とは

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