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【ぶんぶくちゃいな・全文無料公開】謝海涛「上海オミクロン封鎖日記」

中国で新型コロナウイルスの感染が再び広がり始めた。すでに吉林省、山東省、上海市、深セン市、東莞市などが厳戒体制に入っていると伝えられる。ただし、あっという間に都市及び省まるごとのロックダウンが伝えられた吉林省や深センに比べて、上海市からはまだまだ「いつもどおりの生活ができている」という声も複数聞いた。

そんなとき、上海在住のジャーナリスト、謝海涛さんが新型コロナ対策下の様子をまとめた日記をSNSで発表し始めた。日々の市民生活と上海で実施されるコロナ対策の影響についてをまとめたものだが、ニュースで伝えられる「公式発表」の下で、庶民がいかに事態を理解し、過ごしているのかを知ることができるので、謝さんの了解を経て翻訳して紹介する。

謝さんは、これまで複数のメディアで記者として働き、庶民の生活視点での問題を報道してきた。2020年1月に新型コロナウイルスの感染拡大措置として武漢が封鎖される直前、謝さんは武漢入りして、同地でほぼ10カ月あまり過ごして記事を発表している。この「ぶんぶくちゃいな」でも、同年7月に「見えない痛み:新型コロナウイルス後遺症に苦しむ武漢の患者たち」というタイトルで謝さんの記事をご紹介した。あれは、日本語のみならず中国語や英語を含めても最も早く、新型コロナウイルス感染者が苦しむ後遺症について触れた記事の一本だったことは間違いない。

なお、同記事は「転載料はいらない。少しでも多くの人に現実を知っていただければ」という謝さんのご厚意により全文無料公開しているので、ご覧になっていない方はぜひどうぞ。

文尾にも付け加えたとおり、謝さんの日記は今も続いて発表されているが、ここでは文字数の関係で、3月11日から16日までを綴った3本をご紹介する。なお、文中、()は筆者による注意書き、[]はふるまいによる注釈である。また、翻訳掲載の過程で読みやすさを考えて、原文にはない段落分けと小見出しをつけた。

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【謝海涛「上海オミクロン封鎖日記」】


また感染拡大だ。まるで2020年に逆戻りした気分だ。「人生は短し、さりとて疫病3年」、このまま時間が無駄に過ぎていくのもしゃくなので、自分の日常を記録し、「パンデミックの走り書き」にしてみようと思う。

●2022年3月11日(金):広がる感染と封鎖の噂

この日は、まだ自分が自由であることを実感していた。

朝早く、上海市衛生委員会は、2022年3月10日0-24時の間に、新型コロナ肺炎の確定症例が11件(うち5件は10日のうちに発表済み)、無症状症例が64件(うち21件は10日のうちに発表済み)となり、無症状の3件は濃厚接触者への検査によるもの、残りは隔離中に明らかになったと報告した。また、指定場所での隔離検疫では、新たに海外から持ち込まれた確定症例32件と無症状患者10件が見つかった。

ぼくが暮らす地域ではまだ感染者はでておらず、まだまだ遠い場所での話だ。だから自分は幸せだ、「とりあえず幸せなんだ」と思った。実はこの幸せは後になって感じたもので、その時は「ふつうのこと」でしかなかった。

一日中、家で仕事をし、夕方になって食料を買いに出かけたとき、路上では歩行者を見かけたし、何の違和感も感じなかった。スーパーでは、「ご入店の際、健康コードを提示し、体温を測定してください」というアナウンスが流れていた。 ぽっちゃりした店員がドアをふさぐように立ち、「健康コードを見せればOKです」と言っていた。

別のスーパーに行くと、健康コードをチェックする人はおらず、入り口にぶら下がっているカーテンにマスク着用の注意書きが貼ってあっただけだった。 店内は野菜や果物が山積みになっており、ぼくは大きなキャベツ6.7元[約125円]とリンゴ3個ほどを2.6元[約50円]で買った。

野菜を背負って小さな広場を通りかかったら.退廃的な音楽がぼんやりと聞こえてきた。おっさんがおばさんの丸い腰に手を当ててくるくるステップをフンでいる。いつもより人の数は少なく、ミント色のマスクがちょっと目を引くものの、ぼくは感嘆した。「マジで雨だろうが風だろうが、お楽しみは忘れないんだな。でも、踊ってる連中は昨日もマスクをしてたんだろうか?」。後日、この場面を思い出したとき、亡国を知らずに歌い続ける歌姫の話を思い出し、少し感傷的になった。まぁ、これを比喩として使うのは不適切だが。

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踊りまくるおじさん、おばさん :photo by 謝海涛

ぼくは買物を続けた。あるチェーンのミニショップの前を通ると、9時になってないのに店は暗くなっていた。急いでもう一つのミニショップに行くと、転院が掃除を始めていた。7時過ぎには品物がほぼ売り切れてしまったと言う。この先数日、野菜が買えなくなるのではとみんなが不安に思っている。この店は夜になると値引きする。8時半以降に行くと4割引、9時以降なら5割引……いつもなら9時半くらいに来ても、野菜や肉はまだあるんだけど。

新疆焼肉屋の前を通ったらナンがあったので、しっかりと黄金色にやけたのを5元[約90円]で買った。この2日間、友人たちも食料を買いだめしといたほうがいいと声を掛け合っていた。ぼくも食料の戦略的備蓄をしといたほうが良さそうだ。別の青果店で木綿豆腐2丁とインスタントラーメンを3袋を買って16.80元[約314円]だった。

この日はごく普通の一日で、上海や全国で起きている状況とはあまりに似つかわしくなかった。

上海市はこの日、初めて今回の感染源となったのは華亭ホテルだと発表した。以前から華亭ホテルについてはネットでさまざまな噂が流れていた。ある友人が出張で上海に来るたびにそこに宿泊すると言っていたので、その情報を彼に送り、華亭は今外国人の入境隔離ホテルになっているから、今後泊まらない方が良いよと伝えておいた。華亭ホテル事件は、緻密とされる上海の防疫作業の別の面を見せつけた。 ロシアのウクライナ侵攻で「ロシアホラ」が暴露されたと友だちは言ってたけど、華亭ホテル事件は「上海ホラ」の欠点が露呈されたわけだ。

この日から市内すべての小中学校の授業はオンラインに切り替えられ、野獣たちが学校から自宅に放たれた。 2020年そっくりじゃないか。

ぼくはこの日、たいしたこともなく過ごしたが、友人たちは波乱万丈だった。SNSのタイムラインにはレストランの美食や大量の花をさらしてみせたやつがいるかと思えば、大学に隔離されているやつ、そしてPCR検査のための列に並ぶやつもいた。

ある友人は、今はあっというまに2週間隔離にされちまうから、不安に苛まれている学生たちを慰めてきたところと言った。PCR検査の列に並んでいた彼の同僚は陽光の下で2時間も待たされ、気を失いそうになったらしい。その同僚は「もうこの学期中に学校に来なきゃいいんだろ」と激怒したという。

大学で教えている友人は、「もし自分が隔離されたら家で飼っている猫はどうなるんだろう」と心配していた。その後、別の友人が「猫を飼っている人はちゃんと猫のことも考えてあげて」と呼びかけていた。諸行無常のパンデミック下では、猫にお使えするのも楽じゃない。

公園で行われているPCR検査に行った友人がアップした現場写真には、ものすごい数の人たち、老若男女が移っていた。友人によると、そこで行われているのはプール検査[*]で報告ももらえず、検査したという証明書が渡されるだけ。それに3時間くらい並ばされたらしい……

*プール検査:複数の人たちのサンプルをまとめて検査し、そのグループに感染者がいないかを調べる方法。グループで感染者が見つかった場合、グループ全員を再度集めてもっと細かい検査を行い、感染者を特定する。中国での集団PCR検査は多くの場合、この手法が取られた。]

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友だちから送られてきた写真。検査の列に並ぶ人たち:提供・謝海涛

友人からさらに「誓約書」なるものも送られてきた。団地が記入するよう求めたものらしい。そこには「わたしは過去21日間、以下の地区には行っていないことを誓います。上海市閔行区梅龍鎮、シン荘鎮[「シン」は草冠に「辛」]、浦江鎮、呉ケイ鎮[「ケイ」はさんずいに「徑」のつくり]……」とあり、たくさんの地区の名前が書かれていた。ふと、上海は本当に広いんだな、ぼくはいろんなとこにまだ行ったことがないや、先にウイルスに上陸されちまったと思った。

この日、国務院合同感染予防管理システムは、PCR検査に加えて抗原検査を行っていくことを発表した。

●2022年3月12日(土):「落ち着きとメンツを失わず」

上海市衛生委員会の朝イチの報告によると、2022年3月11日の0-24時に、新たに新型コロナウイルス肺炎の確定症例5件、無症状感染症78件が見つかり、うち確定4件、無症状57件は隔離管理中に、残りは濃厚接触者への検査で発見されたという。また入境隔離中の人から新たに感染例22件と無症状患者9人が見つかった。

この日の上海市新型コロナ肺炎感染予防工作指導グループはニュースリリースを発表し、目下の感染状況から判断して、有効的な感染拡大阻止のためには、必要がない場合市民は上海を離れてはならず、その必要がある人物は出発前48時間以内のPCR検査の陰性報告を提出する必要があるとした。また、上海に来る人や戻ってくる人も到着前48時間以内の検査による陰性報告を提出しなければならないとされた。

ぼくは呼びかけに応えて、自宅にこもって執筆に専念した。太陽の光が降り注いでいたので上半身裸でベランダで作業した。邪悪な暑さだった。太陽を浴びるとビタミンDが増えるという。ぼくは複数の医師から、新型コロナ肺炎の進行を抑えるには、ビタミンCとビタミンDが有効だと何人もの医師だと聞いていた。

自宅での仕事の他に、ぼくはWeChatのタイムラインを眺めて、友人たちと一緒に人が少ない淮海路や、やはり人出のない南京西路をぶらついた。いつもの土曜日ならどこも多くの人でにぎわっているはずだった。

タイムライン上では、別の友人とともに武康路のビルについて行った。3月の日差しの中、まるで巨大な帆船のように寂しげにビルが佇んでいた。周囲には人っ子一人いなかった。ある友人は昔、人が寝静まった時間にそんな様子を見たことがあるといった。ぼくが写真をタイムラインに載せると、ある人がなんだか孤立してるように見えると言い出した。また別の友人がこの建物、隔離されちゃったの?と尋ねてきたので、誤解を生みそうだと感じ、写真を削除した。

後になって、この武康路の建物はメタファーだと気がついた。 そして、ある友人の言葉を思い出した。「この街は大きなプレッシャーにさらされている。さまざまなパニックが起こるかもしれないが、落ち着きを忘れず、大事なメンツを失うことなく、無茶なことはしないでほしいよ」。

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時代のムードを漂わせる武康路のビル:photo by 謝海涛

ぼくはタイムライン上でもう一人の友だちと一緒に松江にまで足を伸ばした。松江の人たちは隔離されているから、桜を見に来たんだと彼は言った。太陽の光の下満開の桜が、木の下にいる人と仲良く過ごしている様子は羨ましすぎた。こっそり彼が撮った花の写真をタイムラインに貼り付けて見せびらかしてやった。

この日、ある友人は、「昨日、団地を出入りするためのカードを作ったばかりなのに、今日はもう外に出られなくなった。住民全員が強制的にPCR検査を2回受けることになってる」と言った。

また、別の友人によると、外は明らかに人が少なくなっており、ぐるりと街を歩いたところ、今日は商店街のレストランはすべて閉まっていて、カフェが1軒まだ営業していただけだったと言う。八百屋では根菜類とウリ類以外はすべて売り切れになっていた。おかしなことに川べりにテントを建てて週末を過ごしている人がいるらしい。たった今、上海市は感染者数が大きく増えていると発表したところだ。

夜になって再び食料の買い出しに。 昨日、健康コードチェックをしていたスーパーは、もう職員はそこにはいなかった。2軒目は、そのままいつもと同じ。野菜も普通に並んでるし、果物も山積みだった。またあの広場を通り過ぎようとして、ふと、今夜は誰も踊っていないことに気がついた。おじさんもおばさんの姿はなかった。

そして2軒のミニショップまで来ると、1軒は真っ暗で、もう1軒は照明は点いていたが、棚には何もなかった。カウンターの上に餃子が5、6袋並べられており、ほかにもこんもりと野菜が残っていたが、あれはもう買い手がいるからと店員が言った。 餃子を2袋取って時間を見ると、もう9時半を過ぎている。60%引きの10.29元(約192円)だった。「この時間にまだ野菜が残ってるってどういうこと?」 と尋ねると、昨日より半分多めに入荷したとのことだった。

夜になって、グループ内の友人が「今夜、○○大学がロックダウンされた」と言って通知写真をアップした。だが、通知には発表者の捺印がなく、大学名も書かれておらず、さまざまな憶測が飛び交った。だが、別の友人は、自分が聞いた大学内の事情は楽観的になれるものではなく、その通知は本当だろうと言った。

●2022年3月13日(日):免疫力をつけなくちゃ

早朝の上海市衛生委員会の報告によると、2022年3月12日の0-24時における、新型コロナ肺炎の確定件数は1件、無症状患者は64件で、うち確定患者1件と無症状患者60件は隔離検査で、また残りは濃厚接触者への検査で発見されたた。 海外からの入国者の新規確定者数は13件、また無症状患者は1件で、いずれも入国隔離中の発見だった。

今日は昼間ずっと仕事をして、夜に食品を買いに出かけた。最初に入ったスーパーではまず、床に置かれたカゴに5、6個の食品袋が積まれているのを見た。デリバリー業者がさっと入ってきて「180番」と叫ぶと、店員が慌ただしく食品袋についた番号を確認していた。ぼくが目にした181番には、こんなふうに書かれた伝票がくっつけられていた。「注文時間:2022-03-13 19:38:33、配送予定:2022-03-13 20:38:42。商品5個:『オレオ』アイスクリームサンド(抹茶味ビスケット)97g、『Watson’s』飲料水(蒸留水)4.5L、『農夫山水』飲用天然水4L、『閑趣』スパイス焼きのり味ビスケット90g/袋、『米多奇』トーストナンクラッカー50g」。

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スーパーでは、オンライン購入が増えていた:photo by 謝海涛

2軒目に入ってすぐ目に入ったのは、思いのほか多くの人がレジに並んでいたことだった。棚の野菜はほぼなくなっており、売り場のかごのいくつかをバナナが占領していた。500グラム2元[約37円]で、処分品だったのだろうがそれほど傷みはなかった。袋に数キロを詰め込んで、さらに小さなりんごを2つ、合わせて9.70元[約181円]なり。それにニンジン2元を手にとった。レジに向かったら、人の姿がほとんどなく、こっそり喜んでいたら店員が「レジが壊れているので、裏口で精算して」と叫んでいた。裏口に行くと、珍しくすでに10メートル以上の長蛇の列ができている。みんな結構な量をかごに入れていて、それを引きずっている人も多くいた。かごをいっぱいにしているのは、若者が多かった。レジでは1人がコードをスキャンして支払いを受け取り、もう1人が袋詰めを手伝っていた。蒸し暑くて汗が噴き出しそうだった。手にしたバナナやニンジンが重くて辛かった。

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3月13日、このスーパーでは多くの野菜が売り切れていた:photo by 謝海涛

20分ほどして裏口から出て来ると、やっと爽やかな気分になれた。 その時初めて、路肩の花が咲いていることに気がついた。街路樹の花がすっかり満開になっていた。だが、道路にはほとんど人がおらず、さむざむとしていた。広場にも、あの艶めかしい音は響いていなかった。

チェーンのミニショップがどちらも灯を落としているのを見て、しまったと思った。別の青果店に行ってみると、店内の野菜や果物は充実しており、入り口そばには魚が5、6匹積まれていた。魚は2種、名前は聞いたけどど忘れした。店主がどっちがいる?と尋ねてきたので、安いのを2匹もらおうと、価格を尋ねた。店主によると、この魚は行きたままだと1匹20元(約373円)はするんだぜ、1匹10元(約187円)でどうだと言うので、それを2匹もらった。プロテイン補充である。感染に対抗するには、よく食べよく寝て、最高の免疫力でウイルスと戦わなくちゃ。

買い物から戻ると、今日起きたことを振り返ってみた。ある元同僚は買い物から帰ってくると、自分が住む団地がロックダウンされていたという。彼の、家に帰るべきかそれとも…?という質問には、他の人もこの先苦しめられる事になりそうだ。

この日の「事件」はもう一つあった。大学で隔離されていた友人が、11日ぶりにシャワーを浴びたことだ。もう一人の大学で働く友人は家で2回のPCR検査を終え、キャンパスに戻るための準備をしたと言っていた。

大学がセミロックダウンされたという情報が時折、タイムラインに流れてきた。復旦大学、同済大学、上海師範大学、上海海大学.....

旅客ターミナルが封鎖されたようだという知らせもあった。あるメディア関係者は、上海は2020年以来最も厳しい管理下に置かれていると言った。上海の一部はすでにソフトなロックダウン状態に入っているようだ。

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満開の花とすっかり人の姿が消えた道:photo by 謝海涛

この日、上海市第六人民医院に注目が集まった。ネット上に流れた噂に対して、上海市は公式声明を出し、「第六医院の定期検査で陽性患者が見つかったことはすでに発表した。後続の検査でさらに感染者が見つかった。市の衛生健康委員会では市の指導グループと専門家グループを病院に送り込み、指導と支援を開始した。同時に感染防止策と生活物資の保障を行った」という。第六医院によると、「ネット上で流れた院内の救急科医療担当者間の衝突動画は、たしかに本院のものであった。非常に遺憾である」とコメントした。友人たちの中には、第六医院には失望した、市民の期待を裏切ったという人がいる。でも、「遺憾」と感じることができれば、それは改善の可能性があるってことじゃないか。

この日、上海が精確さを誇る感染防止モデルにも疑問が呈された。上海でこれほどまで感染が広がったのは、その盲目的な自信とのせいだという声もある。タイムライン上ではまだ多くの人が、上海への信念を捨てていない。

ネット記事「こんなになっても、まだ上海を信じている」ではこう述べている。

精緻な感染防止策である「上海モデル」は神話ではなく、哲学なのだ。生活と感染防止は両立できると信じているし、感染防止の目的はより良い生活をするためなのだと信じている。間違ったなら修正すればいいだけ、大したことではない。きちんとした市民なら、農耕時代の家父長型社会のような面目ばかりを気にして自ら苦しむようなことはしないはずだ。

●2022年3月14日(月):「無敵」の幻想は打ち砕かれた

最近は朝目が覚めると、まず上海市の発表を見るのが習慣になった。まるで2020年に武漢の感染を心配していたときのように。

2022年3月14日のニュースは、あまり芳しいものではなかった。上海市衛生健康委員会によると、2022年3月13日0~24時における新型コロナ肺炎の確定者数は41件、無症状感染社が128件だった。確定者のうち2件は以前の無症状が確定に転じたもの、32件の感染例と90件の無症状患者は隔離中に明らかになり、その他は濃厚接触者の検査で発見…。

あまり良くないというのは、まず上海の患者発見数が過去最高になったこと、次に無症状患者の情報に、ぼくの近所に見覚えのある地名があったことだ。 へー、うちの団地の南側と北側で患者が出てる。とは言え、恐ろしいとは思わない、ぼくは2年前に武漢をうろつき回ったからね。

夕方、いつものように食料を買いにスーパーのある道に出たところ、それほど離れていないところでたくさんの人たちが並んで、ボランティアと書かれたベストをつけたおばちゃんたちが秩序整理にあたっていた。もっと前に向かううちにその列が200〜300メートルも伸びているのを知った。最後尾まで来ると警備員や警察官が秩序整理をしており、次々とやってきて並ぼうとする人にボランティアのおじさんが、「もう8時を回ったから、明日の2時から8時の間にまた来てくれ」と断られていた。おじさんによると、「居民委員会の発行する券がないと、並んじゃダメ」なんだそうだ。券ってなに? おじさんは小さな紙切れを取り出して見せてくれた。そこには「PCR検査票」と書かれていた。

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PCR検査に並ぶ長い列:photo by 謝海涛。

スーパーそばまで行くと、その横の空き地にテントが立っていて、防護服のスタッフが数人、片付けながら地面に消毒液を撒き、撤収準備をしているのが見えた。どうやらここもまたPCR検査場になっているようだ。

3月11日に健康コードをチェックしたスーパーの入り口には新しい体温測定器が設置されていた。入店する人が手のひらを測定器に近づけると、体温を測定してくれるやつだ。2軒目のスーパーでは、野菜売り場はあちこちからっぽで、ほしかった白菜や青野菜は残っておらず、マンゴーと小さなりんごだけ買った。

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野菜はもうほとんど売り切れ:photo by 謝海涛

スーパーの近くを歩いていると、歩道の上にフェンスが立てられ、通り沿いの店もその中で囲まれているの見えた。フェンスは横に長く伸び、店と団地の入り口を塞いでおり、少し離れたところには警備員が立っていた。フェンスの中の店主に尋ねると、今日塞がれたばかりだと言う。今朝読んだ情報を思い出した。そこで触れられていた無症状患者はここに住んでいるようだ。

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フェンスで遮られた商店と団地:photo by 謝海涛

団地のもう一つの入り口の前にはパトカーが停まっていて、警備員が5、6人、まるで敵陣を前にしたかのように殺気立っていた。団地の門の前には地面にしゃがみこんで品物の入った袋を整理している人がおり、門の内側には誰かが待っており、たぶんなにかの配達なんだろう。バイクが通りかかり、警備員がそれを呼び止めた。「一旦入ったら、もう出られないぞ」

もう一つの団地も封鎖された。ぼくの住むあたりには感染者が出ないという自信は打ち砕かれた。2年前の2020年2月にもスーパー近所を通りかかった時、壁に貼られた張り紙で近くの団地で感染者が出たらしいことは知っていたが、それは今回とは別の場所だった。

●封鎖と解放

見たところ、オミクロンの強力な伝染力の下では、無敵の身体など幻想に過ぎないようだ。数日前に隣町に住む友人に「調子に乗るなよ」とからかわれたことを思い出した。

この友人のマンションは3月12日に封鎖された。その日の午後5時頃、彼はSNSの住民グループで「上部の感染防止担当局からの緊急通達により、本団地の某ビルを封鎖し、関係者と環境の徹底検査を行う」という通知を受け取った。通知によると、PCR検査のために階下まで降りられない人が家にいる場合は同グループ内で報告し、妊婦がいる場合は必ず報告せよとあった。また、健康管理サイトのPCR検査コードを準備しておくようにと告げ、欠勤証明書が必要な場合もグループ内で申告するようにと住民に促していた。

その後、友人は居民委員会から電話で呼び出され、階下で登録を行い、PCR検査をまた受けた。「検査はまず、5階から始め、上の階の住民を階ごとに呼び出して並ばせる。並ぶ人が減ったら、今度は5階から下の階のドアを叩くんだ…」

51時間のロックダウン後、3月14日の夕方になって友人はようやく2回目のPCR検査の知らせを受けた。 夜8時すぎに階下に降りて検査を受けた。彼は言った。「10年前にここを買って以来、下に降りるのがこれほどワクワクしたことはこれまでなかったよ」。彼がワクワクしたのは他でもない、住民たち全員のPCR検査が終わって陰性となれば、ロックダウンが解除されるからだ。

別の地区に住む友人Kは、3月14日の夕方に団地の封鎖が解かれたとの吉報を受けた。彼のマンションは、まず団地の出入許可証が必要となり、その後PCR検査のために2日間封鎖された。3月14日は3日めにあたったが、その日の朝、Kは「封鎖が続いている。なにかあったらしい」と言っていた。ラッキーなことに夜になって状況に変化が起きたのだ。周囲の団地もその時には次々と封鎖が解かれたらしい。

近所に住むKの友人、賈さん(仮名)はこの日、新たな問題に直面していた。正午に団地管理者がドアベルを鳴らし、明日か明後日から団地が2日間封鎖されるからと知らせてくれたと言う。「うちの団地では1軒ごとにドアベルを鳴らして、食料を買い込んでおくようにと知らせてくれたんだ」

それ以前にも団地はすでに集団PCR検査を行っていた。そのときもやはり1軒ごとベルを鳴らして呼び出され、その後夜11時半頃に再び戸別訪問で、検査を受けたかと尋ねられたという。

Kは、事前に告知してくれるのはありがたい、通いのお手伝いさんや宅配業者が団地に閉じ込められることはなくなるからね、といった。彼は賈さんに、多めに買物をしとけ、2日したら解放されるとは限らないんだからと念を押した。

やはり近所に住む珊さん(仮名)によると、彼女の団地ではPCR検査を受けていない住民は団地から出られないという通知を受けたばかりだそうだ。

皆でよく食事に行くショッピングモールは完全に閉鎖されている、と珊さんが言った。昨日は明かりがついていたのに今日は真っ暗で、いつまで封鎖されているのかも分からない。

学校で教えている彼女は、学生たちのことを気にかけていた。尋ねてみると、学校の寮が封鎖されている間も、食事のときだけは寮の外に出てよいことになっているそうだ。

その前日、彼らの友人の洪さん(仮名)も住んでいる団地が封鎖され、通り全体が封鎖された。珊さんが「3日分以上の野菜を買いだめているか」と尋ねると、洪さんは「少しはあるから3日くらいならもつだろう」と答えた。彼の団地は3月15日に封印を解かれた。

上海はあちこちで封鎖が行われている。インターネットに流れたリストによると、3月14日時点での封鎖地点(14日間封鎖)が16カ所、臨時隔離指定地が2カ所となっている。

友人の情報からKが推測するところによると、おそらくどこも少なくとも2日間は封鎖されるようだという...それは濃厚接触したかどうかは関係なく、最近あるメディアが触れていた「グリッド化[碁盤目式の]フィルタリング」が行われており、問題があれば封鎖が続き、そうでなければ解放されるようだ。

徐匯区に住む友人も以前、同じことを言っていた。友人のグループ内で彼は、「たった今居民委員会がドアをノックしたよ」と言い、たぶんこれから上海の団地は逐一PCR検査と48時間封鎖が行われるだろうと見ていた。リスクレベルに応じて、エリアをいくつかに分けて逐一行い、48時間後にPCR結果が出るのを待って、問題なければ封鎖を解除するというわけだ。

その翌々日に上海市は記者会見を開き、「上海は地域のリスクレベルに応じていくつかの重点地域を指定し、ブロックごとのグリッド式PCR検査を実施し、さらに感染予防を強化する」と発表した。

●「ビビらなくても大丈夫」

食材を買いに出かけた夜、近くの地下鉄駅を通りがかり、そこがガラガラなのを目にした。いつもなら出入り口からたくさんの人の群れが吐き出されているのに、今は誰もいない。ときおりぱらぱらと人が出てくるだけで、閑散としていた。

ぼくはWeChatのタイムラインを開き、ぼくの暮らす街以外の上海を眺めた。地下鉄の中はどこもガラガラ、淮海路や南京路などの繁華街でも人通りはまれになっていた。そこに立つ華やかなビルは、まるでうちの団地の中庭に咲く花のように、寂しく花開き、寂しく佇んでいた。

WeChatのグループでも「昨日は散歩したけれど、今日は行きたくなかった」という声があった。 朝は食材アプリで注文し、夕食はオンラインスーパーで注文して終わり、外出しないと言う人もいた。

郊外の町ではまだその実感は薄く、レストランにも道路にもバスにも人がいた。ただ、歩いていると時々、「なんか大変なことになってるよな」と言っている声が聞こえて来た。 みんな戸惑ってはいるものの、わかっているのだ。

街中の静けさに比べると、WeChatグループのコロナ対策と隔離についての話題は盛り上がっていた。そこではさまざま隔離情報が飛び交っていた。

ある人は、「大したことないよ。隔離中の最大の問題は食べ物だ。食事さえ確保できてれば大した問題じゃない」と言った。だが、徐匯区在住者のグループでは、「一番大事なのは散歩にも行けないことだ。オレは戌年生まれだから気が狂いそうだ。食事をちょっと抜いたところで気にならないんだけど」と論じていた。

一旦話題が食に触れると、無数の話題が立ち上ってきた。徐匯区在住グループでは、「問題は自宅で料理ができないケースだ。旧街区の旧式アパートには1階にしか公共キッチンがない。そこが封鎖されてしまえば、デリバリーを頼むかラーメンをすするしかない」と訴えた。

それにグループの人たちがさまざまなアドバイスをしていた。「発熱機能付きの小型鍋を食べればいい」「すぐに小型のIH調理器や小型炊飯器をネットで注文して、2週間分の食料をしっかり備蓄しておいたほうがいい」…

コロナウイルスに対する不安も、よくグループ内で話題になっていた。

隔離中の人から質問が飛ぶ。「みんな、ゴーグルをつけて地下鉄に乗ってるの? あと何日したら出られるんだろう、外の世界がどうなっているのかもうわからなくなっちゃった……」

そこから大合唱が起きた。

「その防御策はさすがに高度すぎるんじゃね?」

「それほど大げさじゃないわ」

「こちら張江だけど、下の公園はイヌや子どもを連れて日向ぼっこしてる人がたくさんいるよ」

その人は続けた。「おそるべし、わたしは14日間も団地に大事に囲われてきたお花なの。隔離に慣れきってしまって、完全武装じゃないともう安心できないわ」

それより先にある人物が、グループのメンバーを元気づけていた。「オミクロンの毒性はかなり下がっているわ。フランスでは一番ひどいとき、1日に数万人の感染者が出たけど、パニックにはならなかった。みんな、ビビらなくて大丈夫よ」

友人の李さんはタイムラインでこうつぶやいていた。「感染事情は怖いとは思わないけど、あっちこっちで耳にするむちゃくちゃな施策が一番怖いよ」

この夜、インターネットで張文宏医師[*]の文章を読んだ。それによると、今は2年間の感染攻防戦において最も苦しい時期なんだそうだ。「これは長く続く冬なのか、それともまだ肌寒い初春なのか? 本日午後、香港大学のウイルス学者と数時間かけて討論した。そして今後について、両者の意見はかなり一致した」と言う。

*張文宏医師:上海復旦大学付属華山医院感染症科主任。最初の大感染のときに「前線で頑張ってきた医療関係者をすべて、共産党員の医療関係者と交代させる。指図ばかりしているだけでは事態はよくならない」と論じて一躍注目された。その後もユーモラスな口調とわかりやすい解説で、上海のみならず中国の人たちの絶大な信頼を獲ている。]

ウィルスの毒性は明らかに減退している。今回の香港での大流行は、亡くなった患者の大半が高齢であることのほか、重大な基礎疾患を抱えていたことが最大のリスクとなった。つまり通常の免疫力があり、ワクチンを接種した人の場合、ワクチンの種類に関係なく、またブースターを売っていれば基本的に問題はない。このウイルスに向き合うにはまず不安を取り除くこと。まさにその一歩を我われは踏み出さなければならない。

翌日、ネットで「張医師は、重大な局面で大事な真相に触れた」という記事を目にした。そこには、世論に最も信頼されている医療界のプロフェッショナル、張文宏がまた言葉を発するようになったと書かれていた。彼の千文字あまりの記事には情報量がたっぷり詰まっていた。だが、その最大の価値は、彼が「新型コロナウイルスは想像するほど恐ろしいものではないかもしれない」という重要な常識をぼくたちに伝えてくれたことだろう。

張文宏の言葉を借りれば、「このウイルスに向き合うにはまず不安を取り除くこと。まさにその一歩を我われは踏み出さなければならない」なのだ。

●2022年3月16日(水):妄想を捨てて、食料を手に入れろ

朝、目を覚ますと、なにか異様なムードが漂っていることに気がついた。

とうとう落城だ、とある友人が言った。もう一人の友人は、残念ながら決勝戦で敗退だと言う。そしてもうひとりが言った。「列に並んでるけど、団地が封鎖されてるよ」

一人が不満を漏らした。「朝イチで封鎖された。なんの事前通知もなく」

もう一人が言うには、「オレのところは今朝ブロックが終了されるはずだったのに、さらに48時間延長すると通知が来た。わかったよ、家で酒びたりになってやるよ」

また別の友人が漏らした。「まだ外をうろつきまわってるなんて、そっちのほうが怖すぎるよ」

友人がネットKOLの記事をシェアしていた。そこには、「中国は何年もかけてようやくCOVID-19を無事に乗り切った。地球上の人類社会でも死者は最低だった。これは歴史的な勝利じゃないか。皆さん、どう思うかね?」とあった。

8時にもならないうちに、ネット上でシェアされているリストや通知、住民への告知などを目にした。

リストというのは、上海の15重点地域(通りや町名)をリストアップしたもので、光栄にもぼくが住む町もそこに名を連ねていた。

通知や住民への告知とは以下のようなたぐいのものだ。

- 閔行区梅龍鎮における集中PCR検査実施のお知らせ
- 徐匯区湖南街の淮中・興武居民委員会より、同地区の臨時封鎖管理に関するお知らせ
- 楊浦区控江路地区でのPCR検査実施のお知らせ
- 楊浦区江江路街でのPCR検査実施のお知らせ…

その他、ネットユーザーが自ら集めた統計情報もあった。

例えば、今日から48時間のPCR検査が実施される地域は、その統計によると11地区あり、そこには少なくとも28の道路沿線が含まれているという。先のリストと比べてみると、確かに封鎖された道路があり、その信憑性は高かった。

なぜ、これほど多くの団地を封鎖するのだろう? 政府の説明を探してみると、コミュニティ情報サイト「閔行Today」にはこう書かれていた。

上海が現在採っている対策の一つである「流動減少+PCRチェック」は、社会における動態的コロナゼロ化の効率と効果を高め、できるだけ速く感染チェーンを断ち切り、社会における動態的コロナゼロ化を実現するものである。
例えば、上海では現在、各地区を碁盤の目のようなグリッド化で把握する手段が採用されている。グリッド内での行き来を一時的に引き下げ、検査によるスクリーニングを行い、陽性症例がないことを確かめられればよしとする。隣の地区でもグリッドに沿ってスクリーニングを行い、もしそこで陽性症例が見つかれば、その地区を一時的に封鎖して管理を行う。感染者、濃厚接触者、次濃厚接触者の検査を行い、さらに一定期間を置いてからその地域でスクリーニングを行い、クリーンであることが確認されれば、「クリーンアップ」と言われ、感染者はいなくなった、良くなったということになる。
上海市の感染防止指導専門家グループのメンバー、呉凡・復旦大学上海医学院副院長は、「感染者がいないグリッドを一つずつつなげていけば、社会はクリーンになる」と述べた。「一旦感染者が見つかり、リスクのある地域を我われが抑え、コントロールしていけば、そんな地域はだんだん減り、だんだん小さくなり、社会面でのコロナゼロ化が達成できる」。

このわかりにくい説明を、プロ庶民たちは以下のように読解した。

上海では絨毯爆撃型スクリーニングを実施して、各居住区を順番に48時間ずつ封鎖して2回目のPCR検査を行い、陽性患者が出ればさらに封鎖を12日間追加する。心理的準備をして、物資もそれなりに蓄えておけ。
上海はロックダウンはしない。ただ段階的な団地封鎖を行う。市内全域の区や県では段階的に団地の封鎖措置が行われ、48時間にPCR検査を1、2回実施する。まず10人をまとめた混合検査を行い、陽性が発見された団地は2+14日の隔離を行い、陽性者の濃厚接触者に対しては2+12日の隔離を行う。上海市は最短の時間を使って区・県ごとの状況をつかむ。段階的に区画を封印して、徹底的に全地域住民のPCR検査を行っていく。つまり、団地封鎖は時間の問題であり、自分の居住区でまだそれが行われていないのはやらないというわけではなく、段階を追って進めるというだけだ。ただし、それは時間差で行われるもので、いわゆる上海市全体をロックダウンするものではない。

ある友だちがこれを見事な言葉で形容した。「上海はずばっと切り込むことはしない。ちょろちょろちょろちょろ切り刻むだけだ」

そこまで読んで、ぼくは食品買い出しにでかけた。幻想を捨てて、食べ物を買いためとかなきゃ。出かける前に団地の警備員に尋ねておいた。ここがすぐに封鎖されるって話はまだないよね? 彼は「ない」と答えた。

●「これは誰の発明なんだ?」

道すがら、SNSグループ内の友人に相談してみた。

Kの団地は3月14日の夜に封鎖が解かれたが、16日にまた封鎖されてしまった。彼は、15日にがっつり買い物ができてラッキーだったと言った。彼はたんまり買い込んだそうだ。野菜はあまり長持ちはしないレタスやナズナのほか、トマト、ブロッコリー、ナス、キュウリ、そしてまだ家に食べ残しがあるカリフラワーにタマネギ、インゲン、ネギなどをたっぷり。

さらに、ポークリブにバラ肉、卵、牛乳を買った。大事なのは半製品だ。ローストされたチキンや魚、醤油漬け牛肉、各種のお菓子、ナン、水餃子、乾麺、ソーセージ、つみれなどを大量に買い込んだ。マントウはできたてほやほやが出てくるたびに奪い合いになっており、手に入れることができなかった。買物をしながら、これじゃ家に両開き冷蔵庫がいるんじゃないか、でも我が家には入らないけど、と思っていたという。

珊さんは、以前仕入れた野菜はほとんどなくなったので、明朝また野菜争奪戦に参加すると言った。賈さんが彼女に、「おれんところは朝5時に封鎖されたから、今すぐにでも買いに行け」とアドバイスした。Kもまた、今すぐだ、明日の朝なんか待ってちゃダメだと言った。

謝写真10

スーパーのインスタントラーメン売り場はほぼ売り切れ:photo by 謝海涛

スーパーを2軒回ったが、どちらもいつもどおり営業しており、野菜や果物の種類も豊富だったが、空っぽになっている食品棚もたくさんあった。近くの2つの団地で感染者が確認されて封鎖されたにもかかわらず、店は大繁盛していた。

ぼくは家に冷蔵庫がないので、白菜1個、餅1袋、小さな袋入りマンゴーやリンゴ、オレンジ、そして制酸歯磨き粉を3箱買った。

Kも冷蔵庫がないから、冷凍食品は買えないと言った。隔離が長くなれば確かに面倒だが、幸いにも今は春だ。夏は面倒だろうけれど。

賈さんが、冷蔵庫は買った方がいいよとアドバイスをくれた。珊さんが、自分も1年前に買い換えたばかりだが、容量は小さいがとても便利だと、1799元[約34000円]のハイアールのカラークリスタル強化ガラス製冷蔵庫を薦めてくれた。またKは、粉ごね、発酵、調理が一体化した機械は肉まんを作るのにとても適しているので、「暇なときには読書ざんまい、忙しいときは肉まん」という生活ができるとおしえてくれた。

団地の入口にある雑貨店でトイレットペーパーを3袋購入した。店内はものすごい混みようで、店主のおばさんが「正月よりも景気がいいわ」と言っていた。

自宅に戻ると、物資を確認してみた。白菜4個、ジャガイモ5、60個、タマネギ5、6個、ニンジン1パック、ピーマン1袋、山芋2袋、里芋1袋、小袋ピーナッツ、かごいっぱいのニンニク、かごいっぱいのショウガ。加えて、5キロ入り東北産米2袋、インスタントラーメン4袋、ナン1枚、パイまんじゅう4つ、ネギ餅5、6個、卵6、7個、揚げラード1鍋、自作ラード油はどんぶり1つ分。

あと、マンゴーが7、8個、ミニリンゴが7、8個、リンゴ5、6個、バナナが2、3本、栗2袋もあった。1人なら、3日から5日分はたっぷりある。

その後、今日と明日の2日間、重点地域の人(すでに管理された区域にいる人以外)を対象に48時間以内に2回のPCR検査スクリーニングを実施するという、上海市の発表を目にした。SNSグループ内のメッセージがそれと同時にわっと盛り上がった。

「明日は[ビジネス中心地の]陸家嘴のビルがそれぞれ48時間封鎖されて、PCR検査が行われる」
「[旧市街区のビジネス街]静安区のケリー・センターも明日からのPCR検査のために48時間封鎖」

ネットでは、上海長征医院の感染症専門家、ミャオ・シャオホイ医師の発言がシェアされていた。

大規模な団地には、数十棟のマンションが立ち並び、数百の家があり、千を超える住民たちがいるのに、感染者が一人出ただけでそこをまるまる封鎖し、住民たちの出入りをストップする。これは誰の「発明」なんだ? これのどこが科学的予防策なんだ? そのどこが「精確」なんだ?

[以上、原文はすべて謝さんのWeChat公開アカウント「大時代小記事」より。なお、3月16日の日記は発表後当局によって削除されている。]

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(ふるまい後記)謝さんが住む団地はこの後すぐに封鎖された。彼は引き続き、日記を発表し続けている。おりをみて、その続編をnoteで公開したい。

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