【ぶんぶくちゃいな】新千歳空港「中国人観光客暴行」事件に見る伝統メディアの機能不全

「ネットメディアの急速な成長には、もちろん世界的なインターネット時代の到来という背景はありますが、香港の場合、香港独自の理由も大きいと考えられます。ネットメディアの愛読者の多くが伝統メディアへの失望を口にしているからです。この件について、伝統メディア出身のあなた方はいかに分析し、その分析を、今あなた方が新たに興そうとしているこのネットメディアに活かしていくおつもりでしょうか?」

今年の元旦、わたしは香港でとあるネットメディアの立ち上げ記者会見に出席してこのような質問をした。このメディアの発起人に名前を連ねる10人は香港記者協会歴代主席3人、中立紙「明報」元編集長と元副編集長、香港の公共放送「RTHK」の元ニュース責任者などなど、一部学者を除き全員がそうそうたる伝統メディアの編集長・副編集長経験者だったからだ。

このような質問をした背景には、これまで「ぶんぶくちゃいな」で何度も伝えてきたように、香港では今中国政府による民心掌握戦略のおかげで明らかに政治的立場の対立がメディアでも活発化しているからだ。人々は明らかに、「言いたいことを言わ(せ)ない」伝統メディアを見捨て、組織資金力が低い代わりに小回りの効くネットメディアを読むようになった。もちろん、スマホやモバイルなどツールの発達はいうに及ばないが、それでもネットを主戦場にしたネットメディアの躍進ぶりは日本以上となっている(詳しくは、朝日新聞社刊「Journalism 2016年12月号」の寄稿を御覧いただきたい)。

だが、この質問に対して、香港の現状を憂い、「意を決して」伝統メディアから離脱してネットメディアを立ち上げると宣言した「元」伝統メディア人たちの返答は残念ながら、大変あいまいなもので、ネットメディアの愛読者たちが求めている「言わ(せ)ないメディア」を超越するものではなかった。

彼らの頭の中はまだ、かつてメディアが業界関係者の考えだけで動かされていた「伝統メディア」の時代から脱出できていなかったのだ。

しかし、今ここでわたしは日本に向けて同じ質問で問いかけたい。

「伝統メディアの皆さん、ネットメディアはダメだ、パクリだ、プロじゃないなどと非難しますが、あなた方はなぜ人々がネットメディア情報を読むようになったのか、本当に理解できていますか?」と。

●「暴れた中国人乗客」の真相

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