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【ミヒャエル・エンデ】何でも願いが叶うならば、最後に残る願いとは【はてしない物語】

願いがなんでも叶ったらいいのになあ~・・・

美少女で、成績優秀で、スタイル抜群で、音楽の才能もあって、それでそれで~…!!

『はてしない物語』は、良いとこなしの冴えないヲタクの男の子、バスチアンが主人公である。

彼は絵に描いたような、社会不適合ダメ人間である。勉強もダメ、スポーツもだめ、おまけにデブでチビ。

そんな彼が唯一好きなこと。それは物語に心を躍らせたり、空想することである。

バスチアンはある日、一冊の本を見つける。その本を読むうちに、本の世界に入り込んでしまい――


この物語は、冒頭にある通り、願っただけで自分の願いを叶えてしまった少年の旅の記録である。

バスチアンは、自分の見た目も性格も、イケメンで勇敢な理想の自分へと変えてしまう。腕っぷしも強く、頭もよい、理想の自分。

そして、名を轟かせたバスチアンは、世界から称えられる。

それでも彼の欲は尽きない。ついには、戦争まで起こしてしまう。

その後、彼に何が残っただろうか。

彼は唯一残ったものに気づく。間違えた彼を全力で止めた、物語の中の友達だ。

紆余曲折あり、彼は人から愛されることを知る。
そして、自分も人を愛せる人になりたいと願う。

彼は、元の現実世界へ戻り、冴えないヲタクの自分やうまくいってない家族を愛する旅に出たのだった…。



ざっと記憶だけで書いたけれど、だいたいこんな話だったように思う。

児童書だけれども、大人が読んだら、現実世界に通ずる描写も多くて、大人だからこそ響くこともあるんじゃないかな。

私が特に印象に残ったのは、

「君はいつも別人になりたがるけど、なぜ君自身が変わろうとしないのかい?」
「あなたはたくさん道を間違えたけど、今正しい道を歩んでいるなら、間違えたことも正しい道だったのよ」

という、友人や母なる家の言葉(台詞うろ覚えだけど)。

バスチアンも最初は自分と違う別人になろうとして、色々願いを叶えるけど、最後に行きついた願いは

『人から愛されたい。人を愛したい』

だったんだよね。

バスチアンが心から望んだのは、容姿端麗でも頭脳明晰でも権力でも名声でもなく。

そして、最後に行き着いたそれは、自分が変わることでしか叶えられない願い。

現実社会でも、容姿や権力にしがみつく人がよくいるけど。

手っ取り早く愛されるために、付属品が欲しいのだと。

けれど、結局行きつく先は、同じなんじゃないかなと思う。

たくさん間違えて初めて、人は正しい道までたどり着くのかもしれない。

それでも、自身が道を間違えたときに人を傷つけてきたことも含め、

私たちはその罪を背負って、償って、人も自分も許せる=愛せることが、

人生のゴールなのかな・・と思ったり。


通った道のことはよくわかるけど、先の道のことはわからないように。

既に道を通った人は、後ろの道を通ってる人の心理はよくわかる。

だって、前、通った道だもの。

でも、後ろにいる人は、道の先にいる人の気持ちは、わからない。

そこを通らないと、実感としてわからないのだ。

私たちは、きっとそういう道をみんな歩いていると思う。

どれだけ分岐しても、おそらくゴールは同じなのだ。

そのゴールにたどり着くまで繰り返す、それが人生のような気がしている。

たどり着くまで、私たちはいろいろなものを失くしたり、奪われたり、奪ったり、繰り返しているのだけど。

そこで出会った綺麗な花も、一緒に歩いた人も、息苦しさも、風の気持ちよさも・・・

思い出だけは、ずっと残る。誰にも奪われないし、奪えないもの。

そういう宝物を胸に抱えて、私は歩いているなぁ、と思う。

終わりに近づいているのを感じながら、宝物を握りしめている。