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幻肢痛


 幻肢痛。英:Phantom Pain。幻の痛み。幻肢痛とは、事故や病で手足を失った人がそこに手足があったかのように痛みを感じる現象らしい。


 2ヶ月ほど前、2年共にしてきた恋人と別れた。環境の変化は残酷だった。1年ちょっと一緒に住んだ家は一瞬で空になった。私はこんなにもボロボロで今でも泣きそうになりながら退去の掃除をしてるのに、目立った傷のない床や壁が同棲期間を象徴しているようで辛かった。


そっからは地獄のような日々だった。徐々に薄まっていく愛情を感じながら行けもしない旅行の予定なんかを立てていた。朝5時に返ってくるLINEはアラーム代わりになった。


 そして、8月上旬。蝉の亡骸が増えだした頃。電話で別れを告げて全てを終わらせた。もう限界だった。


別れるとは、傷つくことも傷つけることも出来なくなることである。なんてよく言ったものだ。この狭い日本にどれだけあの人の破片が散りばめられたことか。そこそこ稼いでるくせに行った鳥貴族。家で振舞ってくれた瓦そば。土砂降りの中行ったユニバ。愛用してたコンビニ、セブンイレブン。


今日も何かが私を傷つける。別れた後、なんとか好意を持てた人は、あの人と同じことで喜ぶ姿を見てもう会えなくなった。あの人はまだ私から何かを奪うのだろうか。


 もう何も奪わせたくない。あの人を見返す為に人生を送るぐらいなら死んでいい。強くなろう。美しくなろう。あの人に捧げた分、沢山のものを好きになろう。そして愛そう。そんな浅はかな決意をしてみる。


今晩もまた、あの人が居たはずの場所がキリキリと痛む。失ったのにまだ膿んでいる気がする。幻肢痛。この痛みが幻でいつか跡もなく消えることを願って今日も1人眠りにつく。

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